型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2025.11.14
第17回 学生主体で地域と未来をつなぐ岐阜高専の実践的教育が拓くモノづくりの新潮流
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!(栃木放送)、BerryGood Jazz(Radio Berry)、軽井沢ラジオ大学モノづくり学部(FM軽井沢)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
「生きた学び」が形になる瞬間―IoT で現場を変える
岐阜県南西部、根尾川の清流が大地を潤し、日本三大桜の一つ「淡墨桜(うすずみざくら)」をはじめとした豊かな自然と、多くの文化財が息づく本巣市。そんな四季折々の美しさと歴史が調和する町に位置する岐阜工業高等専門学校(岐阜高専)では、学生たちが地域や企業と連携しながら、実践的な学びを深めています。
電気情報工学科をはじめとする各学科では、座学だけでなく、実験や実習、プロジェクト活動を通じて、学生が自ら考え、行動する力を養っています。特に近年は、地域や企業と連携した課題解決型のプロジェクトが盛んです。学生たちは学内外のイベントやオープンキャンパス、地域の産業振興イベントなどにも積極的に参加し、自分たちの研究や製作物を地域の方たちに発信する機会をつくっています。
そんな岐阜高専の特色の一つが、地元企業と学生たちの交流の場にもなっている実践型プロジェクト「IoT 講座」です。2024 年度には、OB や企業の方々を講師に迎え、現場の課題解決を目的としたIoT デバイスの開発に取り組みました。参加したのは電気情報工学科と電子車両工学科の学生たち。彼らはまず、実際に企業の食品工場に足を運び、現場を見学しながら、働いている方たちの困りごとを探しました。
すると目に留まったのは、作業工程の確認や、材料の賞味期限をその都度手作業でチェックリストに記入している従業員の姿でした。これについて企業の方に尋ねてみたところ、「従業員への負担が大きい」、「チェック漏れによって廃棄物が発生することもある」などと、次々と課題が浮かび上がったのです。「ならば、これを改善できるものをつくろう!」と取り組んだのが、前述したIoT デバイス、「作業確認やチェックリストをデジタルで記録・保存できるシステム」(図1)です。
図1 学生たちが開発したIoT デバイス(写真提供:岐阜高専)
作業確認書の自動化を実現することで、業務効率化とミスの削減を目指したこのシステムは、現場での気づきをもとに技術で解決策を提案・実装するという、まさに「生きた学び」によって生み出されたものだと感じます。
「つくりたい」と「求められる」の間で─現場発の気づき
このシステムを開発する過程で、学生たちは実際に現場の声を聞き、何度も意見交換を行いながら、利用者となる企業の方たちのニーズを洗い出しました(図2)。
そこで、ある重要なことに気づいたのだと言います。それは、「『自分たちがつくりたいもの』と『企業が本当に求めているもの』は必ずしも同じではない」ということでした。
技術者として「こんなこともできる!」、「こんな機能も搭載してみたい!」と思っても、実際に現場では必要とされていない…。むしろ単純な方が喜ばれることもある。技術者として自分のアイデアや技術を活かすだけではなく、現場のニーズをしっかりと理解しなければ「本当に喜ばれるモノづくり」はできない。将来の使い手と密にコミュニケーションをとりながら、現場の困りごとを徹底的に掘り下げ、最適な解決策を一緒に模索していく─そのプロセスこそが重要なのだと気づくことができた、と話してくれました。これは実際に多くの企業で起こっていることだと思うのですが、このことに学生のうちから気づくことができたというのは、今後の人生において、かなり大きな収穫になったのではないでしょうか。
モノづくりの根底には、「顧客の困りごとを解決する(マーケットイン)」と「自分がつくりたいものを形にする(プロダクトアウト)」という両輪の考え方がありますが、学生たちは、企業や地域のニーズを徹底的に調査し、満足度を高めるモノづくりを基本としつつ、自らの発想や創造力を活かした独自のアイデアにも果敢に挑戦することで、最善の落としどころを模索し続けました(図3)。この経験によって学生たちには、単なる技術力だけではなく、コミュニケーション力や課題発見・解決力、チームワーク、そして何よりも「新たな価値を生み出す力」が自然と身についたのではないでしょうか。これがまさに社会に出てからも活躍できる「実践力」になるのだと思います。
図3 IoT デバイスの製作風景(写真提供:岐阜高専)
気づきが導く、その先のモノづくりへ
そんな貴重な経験をした学生たちに、将来の夢を尋ねてみました。「多くの人の生活を豊かにするものを開発したい」という声が多く聞かれる中、特に印象に残ったのは「モノづくりをする人が、よりモノづくりしやすくなるツールを開発したい」と語ってくれた学生です。今回のプロジェクトを通じて、困りごとを解決しようと努力する技術者たちにも、また新たな課題が生まれていることに気づいたそうです。今は、そうした技術者たちを支えるためのツール開発に強い興味をもっているとのことでした。実際に現場で手を動かし、課題解決に取り組んだからこそ得られたこの気づきは、非常に意義深いものです。モノづくり業界にとっても、将来が楽しみな、頼もしい存在になることでしょう。
今回取材した岐阜高専の学生たちの姿からは、単なる技術者育成にとどまらない、現代社会に求められる「人間力」を育む教育のあり方が感じられました。学生たちが自らの手で課題を発見し、地域や企業の方々と協力しながらその解決に向けて試行錯誤を重ねる中で得られたリアルな「気づき」や「学び」は、決して教科書や講義だけでは得られないものではないでしょうか。
彼らの原動力となっている「モノづくりの楽しさ」を忘れることなく、これからも「人を笑顔にするモノづくり」を続けてほしいと願います。