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型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」

2025.12.09

第18回 “遊ぶ・学ぶ・旅する”独自の方法で育む主体性と実践力

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フリーアナウンサー 藤田 真奈

ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita

「遊び」をつくる、「学び」を育てる福井高専の実践学習

 福井県の中部、眼鏡フレームの製造で有名な 町、鯖江市。かつて北前船が往来し、和紙や刃物といった伝統工芸が息づくこの地には、先人たちの技と誇りが今も受け継がれています。そんな地域に根差しながら、未来を切り拓く技術者の育成に取り組んでいるのが、福井工業高等専門学校(福井高専)です(図1)。電子情報、機械、環境・都市工学など多彩な分野を学べる福井高専では、学生の「やりたい」を尊重し、実践的なモノづくりと探究的な学びに重きを置いています(図2)。
図1 自然に囲まれた学び舎(写真提供:福井高専)

図1 自然に囲まれた学び舎(写真提供:福井高専)

図2 真剣に授業に臨む学生たち(写真提供:福井高専)

図2 真剣に授業に臨む学生たち(写真提供:福井高専)

制約が育んだアイデアコロナ禍での挑戦と飛躍

 そんな福井高専では、授業だけでなく、学生たちの創造力や実践力を伸ばす課外プロジェクトも充実しています。その代表的な取組みの一つが、「ビジネスアイデアコンテスト」です。これは、学生が自らの知識や技術、発想力を使って、地域社会や未来の課題に挑むための舞台で、プログラミング、電気・機械工学、環境・都市工学、材料など、高専ならではの専門性を活かして、「こうなったらいいな」、「自分たちならできるかも」という思いを形にするというものです(図3)。参加者は独自のビジネスプランをつくり、審査員や地域企業の前でプレゼンテーションを行います。
図3 課題と向き合う学生たち(写真提供:福井高専)

図3 課題と向き合う学生たち(写真提供:福井高専)

 ここでは2023 年度に提案されたビジネスアイデアの一部をご紹介したいと思います。発想の出発点は、「コロナ禍によって、公園で自由に遊べない子供たちが増えている」という現状を知ったことでした。「外に出て遊ぶことができないのならば、室内で遊べるものをつくればよいのでは?」という発想で取り組んだのが、室内で体を使って遊べる「バーチャル公園」の開発です。

 学生たちは、骨格推定技術とゲームエンジンを活用し、子供が体を動かすとその動きが画面上のキャラクターと連動する、相互作用のある遊び体験を実現しました。このシステムは、遊びを通じて子供の成長を支えるのと同時に、運動不足や遊び場の減少といった社会的な課題の解決にもつながります。また、このコンテストのさらに素晴らしいところは、システムの開発のみならず、ビジネスとしての可能性も追求している点です。学生たちは自ら収益モデルや開発コストを考え、プレゼンテーションを行います。その結果、前述したビジネスアイデアの「バーチャル公園」が見事グランプリを獲得。副賞として、受賞メンバーには台湾への海外研修の機会が与えられました。

 台湾の研修では、現地の大学で英語を使ったプレゼンテーションにも挑戦したそうで、身振り手振りを交えながら想いを伝えたのだと言います。英語に不安はあったものの、彼らの熱意は現地の学生たちにしっかりと伝わったようで、非常に興味をもって聞いてもらえたのだとか。この経験から、「自分たちの考えや技術は、言葉や国を越えて伝わる」と感じることができ、自信がついたのだと振り返ります。こうして、1 つの課題をきっかけに生まれたアイデアが、地域を越え、国を越えて広がる体験へとつながっていきました。

「現地解散」の研修旅行で学ぶものとは

 もう一つ、福井高専の学びを語るうえで忘れてはいけないのが、「研修旅行」と呼ばれる実地学習です。一般的な修学旅行とは異なり、この研修旅行は3 年生の秋に実施される専門教育と実社会を結ぶためのリアルなフィールドワークといった役割を担っています。

 ユニークなのは、「現地解散」という仕組みをとっていることです。月曜日の朝、学校を出発し、滞在期間(例年は3 泊4 日)の中で、各地のモノづくり企業や工場見学などを実施します。もちろん見学する企業や工場は学生たちの専攻に直結した分野が選ばれていて、自分たちが日ごろ学んでいる専門分野が、実際にどのように社会と結びついているのかを“ 身体” で学ぶ機会になっています。

 そして最終日は「現地解散」! 帰りのルートや交通手段も人それぞれです。飛行機や新幹線、バスなど、交通手段は何を使うのか、どこで乗り継いだらよいのかなど、学生たちが自ら行程を考え、それぞれで福井を目指して帰ります。宿泊先も学生たちに委ねられていて、各自で立地や予算などを加味して予約を行うというから驚きです。もちろん事前の安全管理や相談体制は整えられているものの、「旅の主導権」を学生本人に託すことで、学校では得られない判断力・計画力・問題解決力を身につけさせる狙いがあるのだとか。例えば、電車の乗り換えに悩んだり、宿が予約した通りにとれていなかったり、雨で行程が変わったり─そんな“ ハプニング” ですら学びの素材となるのです。マニュアル通りの旅ではなく、「自分で考え、選び、動く」旅を通じて、学生たちはまるで社会人デビューを先取りしたような成長の機会を得ることができるのです。

 このように、福井高専の研修旅行は単なる行事にとどまらず、自立を促し、視野を広げ、技術と社会の接点を肌で感じる「人生の転機」として、多くの学生に深いインパクトを与えています。この研修旅行での経験が、後の卒業研究や進路選択に影響することも多いそうで、お話をうかがいながら、「やはりリアルな現場にこそ学ぶべきヒントがあるのだな」と感じました。机上の勉強にとどまらない「現場体感型の教育」が、この研修旅行には詰まっています。

 全国の高専でも珍しいこの取組み。旅の終わりに見えるのは、自分自身の“ これから”。そんな気づきが、学生たちの次なる一歩につながるのではないでしょうか。

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