型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」
2026.05.13
第24回 海の未来をつくる教室─鳥羽商船高専「鳥羽丸4代目」が開いた新しい学びの海
フリーアナウンサー 藤田 真奈
ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita
三重県の東部、伊勢湾と太平洋の境界に位置する鳥羽市は、古くから海とともに発展してきた港町です。真珠養殖の発祥地として知られ、漁業や観光が盛んな一方で、海技教育の拠点としての歴史ももっています。その中心にあるのが、100 年以上の歴史を誇る鳥羽商船高等専門学校(以下、鳥羽商船高専)です。
鳥羽商船高専は、全国でも数少ない「商船系高専」の一つで、航海士や機関士といった海技士を育成する専門教育機関として知られています。海とともに生きる地域性を背景に、実践的な教育を重視し、これまで数多くの船員を海へ送り出してきました。
そんな鳥羽商船高専に2025 年、実に31 年ぶりとなる新しい練習船が誕生しました。その名は「練習船鳥羽丸4 代目」(図1)。「練習船」と聞くと、昔ながらの訓練船を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、この新しい鳥羽丸は、そんなイメージを軽々と超えてきます。船の世界が今どれほど進化しているのか、そしてその最前線で学ぶ学生たちがどれほど未来を見据えているのか。その姿を知ると、海の仕事がぐっと身近に、そして魅力的に感じられるはずです。
図 1 2025年に導入された練習船 鳥羽丸4代目(写真提供:鳥羽商船高専)
31 年ぶりの新造船がもたらした“学びの革命”
鳥羽丸を建造するにあたっては、3 つのコンセプトがありました。それは「スマートシップ」(最先端の技術を教育に取り入れる)、「トラストシップ」(学生の学びに責任をもつ)、「フレンドシップ」(地域や子供たちに開かれた船であること)です。
この船を語るうえで欠かせないのが、鳥羽商船高専の山野武彦准教授の存在です(図2)。山野准教授は約30 年前に同校を卒業し、20 年間の民間船勤務を経て母校に戻ってきました。学生時代には鳥羽丸3 代目に乗り込んだ経験をもち、現在は4 代目の機関長として学生を指導しています。「当時の最新技術が、いまや部品すら手に入らないほど古くなっていました」と笑う山野准教授。だからこそ今回の練習船は、「未来の船員を育てるための船」として、徹底的にアップデートされたのです。
図 2 山野准教授の講義に耳を傾ける学生たち(写真提供:鳥羽商船高専)
自動操船、電動弁、巨大タッチパネル─船はここまでスマートに
船の世界は今、大きな転換期を迎えています。自動操船、AI による監視、遠隔操作、データ管理……。かつては「海の職人技」と呼ばれた領域に、デジタル技術が深く入り込みはじめているのです。さらに、緊急時にはエンジンとは別の電動モータで即座に出航できる仕組みまで備わり、船はますますスマートに進化しています。
そんな最新の練習船に学生たちが初めて乗り込んだとき、まず圧倒されたのは「操作の未来感」だったと言います。「主要な弁が電動化されていて、タッチパネルで遠隔操作できるんです。機関制御室には机いっぱいの巨大なモニタリングパネルがあって、エンジンの温度や圧力、回転数をマウスで確認できました」と、学生は目を輝かせます。実際に触ってみると、「まるで巨大なタブレットの上で船を動かしているような感覚」だったそうです(図3)。
図3 鳥羽丸内には最先端技術がズラリ(写真提供:鳥羽商船高専)
“海のインフラ”としての船災害時は基地局にも
鳥羽丸の役割は教育だけにとどまりません。万一、大規模災害が起きて陸路が途絶え、電気も水も通信も失われたという状況を想像してみてください。そのとき最後に残るのは─「海」です。鳥羽丸はその海を使って、物資の輸送や電力供給、真水の提供といった生活に欠かせない機能を届けることができるのです。さらに、スターリンク衛星を使って携帯電話通信基地局としても運用することでき、陸の通信が途絶えた地域でも、船が近くに来れば携帯がつながるという、これまでの常識では考えられなかった支援がすでに現実になっています。
災害時に「海から駆けつける」という発想は、練習船を持つ教育機関ならではの強みです。学生たちは船を動かす技術だけでなく、船が社会の命綱としてどのように役立つのか、そのあり方まで学んでいるのだと感じます(図4)。
図4 海のエンジニアを目指す学生たち(写真提供:鳥羽商船高専)
日本の物流の99.8 %は船が担っています。朝コンビニで買うおにぎりも、週末に届くネット通販の箱も、スマートフォンの中の小さな部品でさえも、ほとんどが海の上を旅してきたものなのです。普段は意識しませんが、もし船がいっせいにストップしたらどうなるでしょう。コンビニの棚はみるみる空っぽになり、工場のラインは静まり返り、社会全体がゆっくりと止まってしまいます。
そう考えると、船ってなんだか地味なようでいて、実は私たちの暮らしを裏側から支える「影のヒーロー」なのだと気づかされます。そして、そのヒーローを動かしているのが船員たち。彼らはまさに、生活のど真ん中を支えるプロフェッショナルなのです。
船が高度にデジタル化し、自動化が進む今、海の現場ではかつての船乗りとは少し違う「海を知るエンジニア」が求められています。ここから羽ばたいていく若者たちが、これからの日本の物流、そして海の未来を支えていくのだと思うと、海の向こう側が少しだけ明るく見えてきます。