河村機械工業所(東京都板橋区)は自動車用トランスミッション部品を主力とするプレス加工メーカーだ。単発、順送、トランスファのすべてに対応しており、特に200~300tクラスのトランスファ加工が得意。近年はCFRTPのプレス成形に挑戦しているほか、顧客の困りごとに寄り添った提案型の営業にも力を入れる。「社員がやりがいをもって働ける会社が理想」と語る河村護社長に、最近の取組みや将来展望を聞いた。
――複合材をプレス成形する「コンポジット事業」を数年前に立ち上げました。きっかけは?
河村
2019 年頃のことですが、米テスラがシャシーを一体成形する「ギガキャスト」という製造方法を打ち出して話題になりました。約300 点の部品を溶接してシャシーをつくっていたのを一体成形する、と。当社はシャシー部品を手がけていませんし、ほかの自動車メーカーからはギガキャストに対する懐疑的な声も多かったのですが、私自身はそれを聞いて他人事とは思えませんでした。
部品点数が激減し、残ったパイを奪い合う状況になれば、すでに“レッドオーシャン”のプレス業界でさらに価格競争が激化するのではないか。そうなる前に今までとは違うこと、付加価値を出せることをしなければ。そう考えて、いろいろと取り組む中で出会ったのが複合材の一種である炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)でした。
コロナ禍に独学で技術を構築
――経験のない材料だったと思いますが、どのように技術開発を進めていったのでしょうか。
河村
ちょうどコロナ禍で当社も週休3 日や週休4 日という状況でした。時間があったので大型書店で「炭素繊維」と検索して出てきた本を片っ端から買って勉強しました。そうこうしているうちに、当社がお世話になっている金型メーカーが「CFRTPのプレス成形ができる試作機がある」と声をかけてくれたのです。30分~1時間かけて1回成形するようなコンパクトで簡易な試作機でしたが、通って実際に成形してみるうちに、これなら成形技術を確立できるかもしれないと思い事業化を決意しました。三起精工の炭素繊維強化プラスチック成形プレス「CFR-1512-200」を導入し、2024 年春から稼働を開始しています。
三起精工の炭素繊維強化プラスチック成形プレス「CFR-1512-200」
CFRTP 製品の一例。材料に合わせて成形条件を最適化することでサイクルタイム短縮や表面品質向上を図る
――コンポジット事業で狙っている分野や扱っている材料の種類を教えてください。
河村
当初狙っていた自動車関連の反応が芳しくなく、最近はドローン産業への参入を目指す企業と仕事をさせていただく機会が多いです。使用するプリプレグ(強化材に樹脂をしみ込ませてシート状にした材料)は強化材として含まれる炭素繊維の種類がいろいろあり、短く刻まれた「チョップド材」のほか、不織布状や毛糸状のものなどを扱っています。また、麻やカカオハスク(カカオ豆の種皮)などの天然繊維と植物由来の樹脂を組み合わせた当社オリジナル材料の成形技術確立にも取り組んでおり、環境負荷低減につながる技術としてアピールしています。
――CFRTP 製品に対する顧客ニーズは?
河村
成形サイクルタイムの短縮と表面をいかにきれいに成形するか、この2 つが主なニーズです。CFRTP の成形方法には、ヒータであらかじめ加熱しておいたプリプレグを金型で成形する「コールドプレス」と、金型上でプリプレグを加熱して同じ金型で加圧・冷却する「ヒートアンドクール」があり、当社では両方に対応しています。ここでの加熱温度や目標加熱温度に達してからの保持時間、冷却時間などを個々の材料に合わせて最適化することで顧客ニーズに応えています。今はまだ試作の仕事をこなしている段階でコンポジット事業単体での黒字化には至っていませんが、最近ようやく量産の話をいくつかいただけるようになりました。
――改めて御社の沿革を教えてください。
河村
1951 年に私の祖父が立ち上げ、当初はプレス機械の製造販売を中心にプレス加工、シャーリング加工を手がけていました。プレス加工はシートベルト部品から始まり、その後、主要顧客の事業変化に合わせてトランスミッション部品へと変わっていきました。トランスミッション部品は現在も主力ですが、この数年で手がける分野を広げており、自動車ではコンプレッサー部品やエンジン部品、自動車以外ではトラック、産業機械、家庭用給湯器、鉄道分野なども開拓しています。もともとはトランスミッション部品の“一本足打法”だったので、これではいけないと思い取り組んできました。
――現在はどんな加工を手がけていますか。
河村
単発、順送、トランスファのすべての加工に対応しており、プレス機械は10~500tまで50台程度を保有しています。単発プレス機械が多いですが、他社との差別化という面では200~300tクラスのトランスファ加工が当社の強みです。材料は炭素鋼、ステンレス、リン青銅が主流。板厚は単発なら10mm、連続運転なら6.4mm が加工可能な最大板厚で、下はステンレスで0.4mmに対応します。扱う製品の大きさは片手に載るものが比較的多いですが、鉄道部品のような大物も増えてきました。
――他社にない特徴的な技術はありますか。
河村
プレス機械の上下運動で製品を水平方向にトリミングする「よろめき」と呼ばれる加工技術を保有しています。また、この技術を使い、絞り部品を上下で切り離すことで2 つの部品をつくる「親・子取り」、そして「子」のスクラップからさらに小径の絞り部品を2 つつくる「孫・ひ孫取り」が当社の独自技術です。1 枚の材料から4 つの絞り部品をつくれるので歩留まりが向上し、環境負荷低減の効果も見込めます。1 枚の材料を何度も絞ると通常であれば板厚にばらつきが生じますが、それを4 つ目の絞り部品まで均等に保つのが技術的なポイントと言えます。
「よろめき」で上下にトリミングされた材料(写真右上)と、そこから成形した「親・子取り」製品
現場の困りごと解決を提案
――サービス面での特徴は?
河村
お客さまの現場の困りごとを解決するソリューション提案に力を入れています。例えば、留め具の共通化を提案したケースがあります。もとは顧客側でL 字鋼を適当なサイズに切り、用途に合わせて必要な位置に穴をあけて留め具として使っていたのを、穴を楕円形にすることで汎用性をもたせ、かつ当社でプレス加工することで顧客側の手間やコストの削減につなげました。
また別の顧客は、部品の機能上必要な突起をつくるためにプレートを溶接していたのですが、溶接の手間だけでなく溶接時に飛び散ったスパッタを削り取る作業が発生していました。そこで、プレス加工で半抜きして突起を成形する方法を考案し、強度が保てることも確認して提案したところ採用に至りました。顧客の現場にはいろいろな困りごとがある。それを発見して提案につなげるためにも、営業担当者にはできるだけ顧客の現場を見るように伝えています。
シューターにはポカヨケやチョコ停防止のためのさまざまな工夫が。現場のスタッフが日々改善を積み重ねている
――ソリューション営業は、河村社長の代になって力を入れるようになったのですか。
河村
実は、私が入社する2007年までは1社としか取引していなかったのです。ですからそのお客さまとは密に連携し、さまざまな技術提案を行っていましたが、新規顧客開拓のための営業活動は実質ゼロでした。営業面は私が入社したときからずいぶん変わったと思います。
――ご自身の入社のきっかけは?
河村
当社に入る前は難民や避難民を支援する国際NGO に所属し、アフリカや南アジアなどで働いていました。大学在学中のボランティア期間も含めて10 年が経った30 歳のときに、私の中で一区切りがついたので転職をしようと日本に帰国しました。そのタイミングで、当時社長だった父から頼まれたのがきっかけです。
父は自身の弟2人と3人で経営していたのですが、後継者探しに苦労していました。そこに、長男(父)の長男である私が帰国した。当時は別の会社から「入らないか」と声をかけてもらっていましたし、父からも強く頼まれたわけではありませんが、困っている親たちの様子を見て自分がやらなければと思いました。
NGO活動と中小企業経営は似ている
――異分野からの転職で苦労もあったのでは?
河村
でも、やっていることはNGOのときと同じなんですよね。例えば、西アフリカのシエラレオネでは難民キャンプの運営を任されていたので、食料を配布したり、井戸を掘ったり、学校を建てたりしましたが、人を集め、組織をつくり、事業を運営するという意味では中小企業の経営者とやっていることはあまり変わりません。製造業か人道支援かの違いだけです。振り返ってみると、今までやってきたことの延長線上にあるなと感じます。
――今後の課題は?
河村
従業員の満足度を高めたいという思いがあります。2022年から従業員満足度調査をスタートして毎年実施しており、結果を参考にして各種の改善を進めてきました。例えば、2026年は会社の経営状況に対する従業員の理解度向上に取り組んでいます。従業員に対する半期に一度の決算報告や決算書の開示に加え、より視覚的な資料として銀行の格付け資料を公開することにしました。毎年の格付けの推移をグラフにし銀行からどう見られているのかを知ることで、会社の経営状況をより深く理解してもらえるのではと思っています。
3年前から始めた小集団活動の様子。5つのチームに分かれ、品質向上につながる取組みの成果を発表した
――それは離職防止の観点からの取組みですか。
河村
というより、皆にやりがいを感じてもらいたいという願いからです。自社のあり方を考えるとき、私がベンチマークしている会社が2社あるのですが、その2社を見学させてもらったときに印象的だったのは、2社とも社員が大声で笑っていたんですね。普通なら「笑っていないで真剣に仕事をしろ」とか言われそうなのに、そんな雰囲気はみじんもなく、本当に、心から笑っていた。それを見て、ああ自分も前職でそんな風に仕事をしていたことがあるなと思い出しました。それはとても充実した毎日でした。当社の社員にもこの気持ちを味わってほしい。一足飛びには変われませんが、満足度調査を通じてコツコツと改善を積み重ねていくことで近づいていきたいと考えています。
――社長の考える理想の会社とは?
河村
「そんなに大声で笑ってるんじゃないよ」と自分も大声で笑いながら言ってみたいですね。従業員みながやりがいを感じて、充実感をもって仕事に取り組める会社になればと思います。もちろん会社側が変わるだけでなく、従業員の意識の変化も必要。双方が噛み合ったときに理想の形になるのではと思います。
かわむら まもる:1976年8月22日生まれ、49歳。東京理科大学卒業後、国際NGOに所属。シエラレオネやリベリア、アフガニスタンなどで人道支援に取り組む。2007年、河村機械工業所入社。2017年、社長就任。趣味は工場見学。