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機械技術

2024.10.07

リニアモータ駆動MCによる微細加工技術で新たな金型ニーズを掘り起こす―吹野金型製作所

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 吹野金型製作所(京都市南区)は2023 年に創業50 周年を迎えたプラスチック金型メーカー。マシニングセンタ(MC)による高精度で微細な金型加工を得意とし、プラスチックレンズや車載用電子部品向けに射出成形金型を提供している。この数年は培ってきた微細加工技術にさらに磨きをかけ、金型の付加価値を高めることで、新たなニーズを掘り起こそうと取り組んでいる。

寸法精度±3μm を狙う金型加工

 同社は吹野文昌社長(図1)の父親が1973 年に創業。以来一貫してプラスチック金型の設計・製作を手掛けてきた。以前はCD やDVD のデータを読み取る光ピックアップレンズの金型が主力だったが、現在はその需要が減り、センサ用レンズやLED カバー、車載用電子部品などがメインとなっている。型締め力50t クラスの小物部品向けの金型が多く、加工設備もそれに合わせたものを保有している。
図1 吹野文昌社長

図1 吹野文昌社長

 金型製作での強みはMC による高精度・微細加工だ。安田工業の微細加工用MC「YMC 430」(図2、軸移動量X420×Y300×Z250mm、主軸回転速度40,000min-1)を1 台保有。全制御軸がリニアモータ駆動で、「ボールねじ駆動のMC に比べて1 桁以上精度良く加工できる」(吹野社長)。同機を駆使することで、キャビティの寸法精度± 3μmを狙えるほか、焼入れ後の金型に対して5μm の追込み加工が可能になる。また、直彫りで50nmの面粗さに加工できるため、わずかな手磨きで鏡面に仕上げられる点でも優れているという。

 顧客への提案力も強み。見積もりの段階で金型構造をあえてオープンにし、顧客に安心感をもってもらうことで受注の確率を高めている。今後は流動解析ソフトの導入で、顧客への提案書をより具体的な内容に刷新していくことを目指している。「従来の仕事だけで収益性を高めるのは難しい。新しいことに挑戦して、リスクをとることで対価を得る必要があります」。吹野社長のこの言葉通り、同社では金属3D プリンタで造形した冷却水管付きの金型をユーザーへ提案したり、金型以外の微細部品加工を受託したりと、既存の金型設計・製作にとどまらないチャレンジを続けてきた。ただ、うまくいくことばかりではなかった。

「金属3D プリンタの造形品を組み込むと、金型の単価が上がってしまいます。冷却時間の短縮やそりの低減などのメリットを含めて提案しても、導入を希望する顧客は少ないのが現状です」
図2 安田工業の微細加工用MC「YMC 430」

図2 安田工業の微細加工用MC「YMC 430」

 微細部品加工に関しても、医療・美容関連の1点物が多く量産品の受注には至っていないが、「それでもいい」というのが吹野社長の考えだ。「当社の根本は金型。こうした技術を表に出すことで、金型の受注に活かしていきたい」と話す。

 YMC 430 を使った微細な切削加工をアピールするため、同社ではサンプルの製作に力を入れている。リニアモータ駆動の高精度加工機を導入している企業は少なく、同機が自社のアピールポイントになると考えているためだ。サンプルは会社HP や展示会で紹介するなど幅広く活用している。

 一例が体長5mm の樹脂製のアリ(図3)。同社が金型設計・製作を担当し、成形条件の選定および実際の成形は顧客の協力を得て行った。材料はLCP(液晶ポリマー)で、最小流動個所である触覚部は0.1mm という細さである。

「YMC 430 による微細加工を顧客へ提案するためにも、『どこまで高精度に加工できるか』を見極める必要がありました。そこで作製したのがこのアリのサンプルです。かなり極端な実験例ですが、ごく微小なプラスチック製品や狭小部が存在するプラスチック製品・金型の製作に対するニーズに訴求できるのではと考えています」
図3  射出成形でつくったアリ。最小流動個所(触覚部)は0.1mm (写真提供:吹野金型製作所)

図3  射出成形でつくったアリ。最小流動個所(触覚部)は0.1mm (写真提供:吹野金型製作所)

貫通最小径30μm のニードル金型を作製

 図4 は貫通最小径φ30μm の円錐穴を加工したキャビティに樹脂を流し、成形した樹脂製ニードルのサンプルである。φ30μm は、空気は抜けても樹脂は漏れない穴サイズ。ここに樹脂を流し、背面から真空引きすることでニードルを成形している。一般的に美容用ニードルパッチを成形するには、まず凸状の原型をつくり、それを転写したものを型として使用する。型を直接加工することで、原型づくりの工程を省くことができるという。ここで取り上げたのは切削加工によるサンプルだが、同社はリニアモータ駆動の形彫り放電加工機やワイヤ放電加工機も保有しており、放電加工を駆使した微細サンプルの製作実績もある。
図4  貫通最小径φ30μm の円錐穴に樹脂を流して成形したニードル

図4  貫通最小径φ30μm の円錐穴に樹脂を流して成形したニードル

 2020 年に始まったコロナ禍により、経営的に厳しい時期が続いた同社。24 年は本業の金型づくりに注力する。微細加工技術を磨きつつ、金属3D プリンタで造形したガス抜き部品や、セルロースナノファイバーに代表される新素材への対応など、いろいろな技術分野に目配りし、チャンスを広げたい考えだ。「同じことを繰り返すのは後退しているのに等しい」と吹野社長。新しい技術への挑戦が、成長の鍵を握っている。