プレス技術 連載「キラリ光る!塑性加工分野のモノづくり力」
2025.06.11
第9回 薄型で高性能なモータコアを製造できる独自のかしめ工法を開発―ミスズ工業
プレス・鍛造加工で独自・個性的な技術を駆使してモノづくりに挑む企業、各種研究・開発団体をレポートする。(『プレス技術』編集部)
自動車やロボット、ドローンなどに用いられるモータを構成するロータ(回転子)とステータ(固定子)それぞれの鉄心部分のモータコアは一般的に薄い金属板(電磁鋼板など)を300 枚ほど積層しかしめることで製造される(図1)。モータコアの金属板の厚みは0.2 ~ 0.5mm と非常に薄い。それは薄いほど鉄損失が減るからである。そして鉄損失が減ればムダな消費電力や振動、発熱が抑制されモータの高性能・高効率につながる。
モータコアの製造ではかしめ、接着、レーザ溶接のいずれかの加工法が用いられる。自動車用モータコアは通常「ダボかしめ」と言われるかしめ加工で製造される。ダボかしめは薄板のそれぞれの面にダボ(凸)と窪み(凹)を成形し、2 枚以上の薄板を重ねて押し込みながら圧入して密着力の高い積層構造を成形する。
ダボかしめは量産効果を活かすため順送プレス加工で製造する。順送金型で量産するためコストを抑えられる一方、ダボと窪みの位置決めと圧入を高精度にできる金型と加圧力が高く背圧機構を兼ね備えた大型プレス機が必要になる。つまり、ダボかしめは密着力の高いモータコアを量産できるメリットの一方、高精度な金型と大型プレス機という高価な設備が必要というデメリットがある。
それに対して㈱ミスズ工業(長野県諏訪市)は、順送金型と大型プレス機を用いなくても密着力の高いモータコアを製造できる独自のかしめ加工「円錐かしめ工法」を開発した。
ダボかしめを超える密着力のかしめ工法
同社は自動車用として板厚0.27 ~ 0.5mm の電磁鋼板でかしめ積層した電動モータコアを試作、小ロット向けに製造する。モータコアは高性能・高効率化を求めて板厚が薄くなる傾向にある。そのため同社にも2021 年、取引先の自動車メーカーから0.2mm 厚の電磁鋼板を積層した直径250mmのモータコアの試作が発注された。しかし、同社では最薄0.27mm 厚の電磁鋼板をダボかしめで積層加工してはいるが、0.2mm 厚の薄板になると従来のダボかしめではモータコアに加工できない。
「板厚0.2mm の薄板になると積層するために必要なダボの高さを成形できず、同時に窪みも浅くなるため密着力が落ちてしまう。また、無理にダボの高さを成形しようとすれば過剰な加圧を薄板にかけることでダボ自体が抜け落ちてしまいます」(小松房茂営業企画部長)
とはいえ接着剤やレーザ溶接で加工すればコストが高くなってしまう。ならばダボかしめに匹敵する密着力を得られるかしめ加工を考案しなければならない。2021 年に開発を始め、2022 年末に新工法の円錐かしめ工法を完成させた。
単発型、小型プレス機で簡単にかしめられる
新工法は、図2 のように円錐成形してから半抜きし、薄板を積層してパンチでかしめる。円錐の径が窪みの直径より小さく、かしめると円錐の径が横方向に広がるため窪みにしっかりと食いついてかしめられるため、ダボかしめよりも高い密着力を得られる。また、円錐の径が窪みの直径より小さいので人の手で簡単に位置決めでき、単発型・4 工程で加工するため小型プレス機で簡単にかしめられる。
完成させてしまえば新しい技術も簡単に説明できるが、開発の舞台裏では従来のダボかしめから一気に円錐かしめを考案できたわけではない。
「例えば、ダボを成形した金属板を1 ずつ積層してかしめるのではなく、1 枚の金属板だけに穴をあけてダイとし、その上に未成形の複数枚の薄板を積層して一挙に半抜き加圧することでダボを成形しながら同時にかしめるような方法も試しました」(営業企画部開発グループの窪田貴則課長)
フラットな薄板を複数枚積層して一挙にかしめられればかじりがなく密着力も上げられると考えた。ただ、実際には積層した薄板が100 枚を超えると材料のばね性も上がるため薄板の枚数に比例して密着力が漸減してしまった。
その他にも浮かんだアイデアを次々に試す中、考え至ったことがあった。窪みとダボの圧入代が大きいほど密着力が高くなるのだから、ダボの径に対して窪みの径を小さくして圧入すれば密着力は上がる。ただ、窪みが小さすぎるとダボが入らずにかじってしまう。それなら窪みにいったんダボを挿入してから側圧を得られるような加工にできれば密着力が高まる。それを具現するために円錐形かつ径を窪みより小さくし半抜きしたダボにすれば、積層後のかしめによって側圧も得られて密着力を高められる。その発案に基づいて円錐かしめの工程と金型を試作した。
かしめ加工ではダボと窪みのクリアランスの設定によって密着力が変わるため、CAE で基準形状を解析してから金型で円錐状のダボを試作し、補正を繰り返しながら実際のクリアランスの最適値(取引先の仕様に合致し、かつ従来工法以上の密着力)を求め、新工法の開発に至った。
さまざまなかしめ工法も開発
2022 年末に開発した円錐かしめ工法を機にダボの形状を変えて異なる効果を得るかしめ工法として角錐かしめ工法と異形状かしめ工法も考案した。角錐かしめは円錐かしめと同じうように薄板(0.15 ~ 0.25mm)をかしめ積層して小面積で鉄損失を抑制できる一体型モータコアを製造できる。また、異形状かしめは結晶型やX 型で板厚0.25~ 0.5mm の電磁鋼板をかしめることで高密着力で溶接レスかつ小面積で鉄損失を抑制できる分割モータコアなどを製造できる。
これらのかしめ工法は特許を取得しており、技術防御だけでなく大量生産できるメーカーへライセンス生産を推奨することも視野に入れている。
今、海外の自動車用電動モータコアの製造は薄板を積層接着する加工へ、また材料開発でもアモルファス合金による薄板化が進んでいる。一方、環境への配慮を考えれば接着剤による積層加工は回避したい工法でもある。そうした自動車用電動モータコアの製造に対する有効な一つの解として円錐かしめ工法がある。同社では量産に向けた円錐かしめ工法としてコスト、量産性、性能の各面で実証を詰めていくとしている。