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機械技術

2025.06.03

製品への刻印を自動旋盤内で完結させ、オペレータの人数はそのままで生産性アップへ―ダイセン

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群馬県太田市に本社工場を構えるダイセンは、エアー用継ぎ手を専門に製造する。一般的な金属継ぎ手やプラスチック継ぎ手、高圧用継ぎ手、減圧弁、バルブなど約3,000 品目をラインナップし、ユーザーの細かな要望に応えている。同社が長年力を注いできたのが機械加工現場の自動化だ。夜勤者なしの24 時間稼働を実現しているほか、非効率な手作業の削減にも取り組み、少人数でも生産性の高い現場を構築している。

現場の自動化を推進

 同社は1978 年に創業。当時は継ぎ手の設計・販売のみを手掛け、部品加工や組立ては協力メーカーに外注していた。90 年代初頭から、製品品質の向上を目的に内製化を推進。現在は自動旋盤54 台(うち、ターレット型8 台、くし刃型46 台)、マシニングセンタ1 台、射出成形機3 台を保有し、加工から組立てまで一貫生産している。金属継ぎ手は鉄やアルミニウム、真鍮などのバー材から自動旋盤で部品を削り出し、複数個の部品を組み立てて完成させる。1 カ月につくる製品は約100 品目、月産の部品加工点数は約30,000 個で、多品種小ロット生産が基本となっている。

 エアー用継ぎ手にはさまざまな用途があるが、同社の製品は建築現場で使用する釘打ち機やエアーガンなどとエアーホースをつなぐために使われる場合が多い(図1)。つないだホースがよじれて使用者に負担がかからないよう、45°あるいは90°曲がるタイプの継ぎ手もある。曲がるタイプは組み合わさった部品同士がスムーズに動くことが機能として重要なため、摺動部の面粗さにこだわりがあるという。
図1 継ぎ手の使用例

図1 継ぎ手の使用例

 機械加工現場の特徴は、2 交代制や3 交代制をとらずに24 時間稼働を実現している点。これは部品加工を社内で行うようになった90 年代初頭から目指してきた姿だ。

「社内で加工を始めた当時は、今ほど工具の品質が良くなく、無人では24 時間稼働させることはできませんでした。そこで、カスタムマクロで補正プログラムを組み、工具摩耗に応じて自動で補正する仕組みを構築することで、夜間無人での24 時間稼働にこぎつけました。2000 年頃のことです」(岡山勝美製造本部課長、図2)
図2 製造本部の岡山課長(左)と佐口氏

図2 製造本部の岡山課長(左)と佐口氏

残った非効率作業

 一方、長年の課題だったのが刻印の工程。継ぎ手の種類やロット、OEM(相手先ブランド)の社名などを部品に刻印する作業が手作業のままだったのだ。手動の刻印機を使うこの作業は、部品を刻印機にセットし、位置を合わせ、レバーを回してロール形状の刻印を部品に押し付けるというもの(図3)。1,200~1,300 個に刻印が必要な日もあり、オペレータが手の空いたときに地道に作業していた。製造本部の佐口春樹氏は、「1 人のオペレータが1 日4 時間、刻印し続けるときもあり、非常に非効率でした」と振り返る。
図3 手動の刻印機

図3 手動の刻印機

 製品に文字を彫るのはレーザでも可能だが、“ 一筆書き” のため、従来の刻印機に比べて時間がかかる。レーザ加工機の前に部品をもっていき、セットする手間もある。何か方法がないかと悩んでいたときに出会ったのが独ホーメル・ケラー社のマーキングツール(図4)だ。輸入切削工具専門の技術商社ノアが扱う工具・ツーリングで、当時(2010 年頃)まだ発売されたばかりだった。
図3 手動の刻印機
図4  独ホーメル・ケラー社のマーキングツール(上)と刻印後の部品

図4  独ホーメル・ケラー社のマーキングツール(上)と刻印後の部品

 ホーメル・ケラー社は、凹凸形状をもつ回転工具をワークに押し付けて模様を転写するナーリング加工用のツールで実績があり、マーキングツールも似た機構をもっている。特筆すべきは旋盤の刃物台に取り付けて使えること(図5)で、加工後のワークを旋盤から取り外すことなくマーキングまで行える。「刻印された状態で旋盤から出てくるのが画期的でした」(岡山課長)。
図5 刃物台に取り付けられたマーキングツール

図5 刃物台に取り付けられたマーキングツール

設備増強への対応が可能に

 マーキングツールは文字を彫りこんだ円筒状のホイールとそれを支えるホルダで構成される。ホイールには「ドライブ」と呼ばれる凹凸があり、これがワークに引っかかることで、ワークの回転に追従してホイールが回り、印字される仕組みだ。通常はホイールを何度も回転させて文字を転写するが、ダイセンではオペレータが使い方を試行錯誤するうちに、1 回転にとどめた方が文字が二重にならず、きれいに転写できることに気づいた。薄肉部品の場合は部品形状を損なわないためにどのタイミングでマーキングを行うかも重要で、ある程度の肉厚が残った段階でマーキングし、その後で肉を薄くするといった工夫もしている。新しいツールを導入するだけでなく、現場で使いこなせるところが同社の強みだ。

 佐口氏は、「かなりの効率アップです。オペレータの手が空いたことで1 人当たりの担当台数を増やすことができ、設備の増強にスムーズにも対応できました」と手応えを話す。同社では、20 種類のホイールを保有しており、これからも出荷数の多い製品(年間4~5 万個以上)に関してはマーキングツールの活用を広げる。図4 右のような円筒形状の外周面だけでなく、平らな面への刻印にもノアと連携しながら挑戦中だという。

 現場の人手不足が課題となる中、非効率な作業の見直しをさらに進め、少ない人数でも増産に対応できる現場を目指していく。

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