形状や寸法などが仕様や狙い値を満たしてるか確認する測定・計測の工程。加工後の被加工物(ワーク)を加工機から取り外し、各種測定・計測機器を使用して、適切な方法・手順に基づいた作業を行う。品質を担保するために必要不可欠な工程で、効率化・省力化ができれば、製造にかかる時間の短縮につながる。そうした測定・計測の工程を独自のツールを製作して活用することで効率化・合理化している機械加工現場がある。
丸五テック(岡山県倉敷市)は、市販の防犯カメラとルーペを使用して、工作機械主軸に取付けが可能な機上画像計測用カメラを製作。これを活用することで測定・計測作業にかかる作業工数に加え、加工不良も削減した。製造リードタイムの短縮や不良率の削減による収益率の向上といった会社全体での競争力強化につながりつつある。
加工品質の再現性を担保する方法を考えて確立する
自動車向けのシールやブッシュなどのゴム製部品を成形する金型(ゴム金型)の設計と製作を手掛ける丸五テック。グループのゴム製品メーカーである丸五ゴム工業(岡山県倉敷市)を中心に、高精度・高品質な金型を供給する。
金型を使用して製品・部品を成形する際の代表的な課題の1 つにバリがある。プラスチック射出成形用金型や金属部品を成形するプレス加工用金型と同様、ゴム金型にもこの課題は当てはまる。特にゴム金型は高温で成形するために材料の流動性が高まり、パーティング面にバリが出やすい。そのため、正確な合わせ精度が欠かせず、パーティング面は高精度に仕上げる必要があり、精密加工のノウハウを蓄積してきた。
「プラスチック射出成形金型やプレス成形金型に特有のノウハウがあるのと同様にゴム金型も材料の流動性や成形などに関する原理を理解して、適切な方法でこれらを制御して、求められる仕様の部品を必要な数だけ生み出す金型を製作します。そのためには、形状や精度など、常に高精度な加工の再現性を担保する方法とその運用基準を確立することに努めています」と林内浩彦工場長(図1)は説明する。
ゴム金型特有の構造に対応する
金型を使用してゴム製品を成形する際、バリを処理しやすくするために、キャビティ側の成形品周囲に「食い切り」と呼ぶ溝形状を加工する(図2)。成形品を取り出した後、食い切り部分を切り取ることで、バリを軽減した成形品形状に仕上がる。
成形品の形状部分と食い切りの間をランド幅と呼び、そのランド幅は厳しいものでは許容されているバリ長さの半分である、おおよそ0.05mm 程度が必要とされる。バリ処理作業の効率と成形品の品質に密接に関わる金型製作に関する重要なポイントであるが、このランド幅を、0.05mm という狙い値通りにするのは高精度加工機を使用していても難しく、ゴム金型特有の製作ノウハウになっている。そのため、加工完了後、工作機械から取り外し、機外で作業者がルーペを使って、ランド幅を確認する測定・計測の工程を経ていた。3 次元測定機用のプローブは溝幅が小さく入らないため、現実的な方法として、ルーペによる確認を行っていた。測定値が基準に収まっていなかった場合、再度、マシニングセンタ(MC)に設置して追加工する必要がある。手間がかかることに加えて、再取付け時の作業品質が悪いと加工不良が起こってしまい、再度製作し直していた。
そこで思いついたのが、機上計測の仕組みの構築。市販のWi-Fi 機能付き防犯カメラとスケールを内蔵している卓上計測顕微鏡(ルーペ)を活用した自作の「機上画像計測用カメラ」を製作した(図3)。
図3 自作した機上画像計測用カメラ(下写真)で立ち壁形状を確認する(上写真)
「ランド幅の確認ができる単一機能さえあればよいので、初期投資が少ない方法を考えてみました。防犯カメラもルーペもインターネット経由で簡単に入手できるものです」(林内工場長)。機上計測に関するシステム構成は、自作した機上画像計測用カメラとタブレット端末、MC などの工作機械。MC で使用する場合、防犯カメラとルーペを接続したユニットの上部に直径20mm 程度の円筒部分があるアルミニウムの筐体で覆い、ツールホルダのような形状にして主軸に取り付ける。Z 軸を調整してピントを合わせ、測定の起点位置に合わせ、NC の座標値をゼロに設定後、寸法を確認するランド部分まで移動させて、作業者はNC の座標値の読み取りを行う。撮影したデータをタブレット端末へ転送すれば、測定・計測したランド幅の寸法を共有できる。取付け精度は関係なく、測定範囲は使用する工作機械のストローク全域。費用は1 セット7 万円程度に収めた。
ランド幅の確認作業のために機械から取り外す手間や再取付けによる加工不良をなくした。「以前は取り外した後の再加工の割合が30%もありましたが、機上画像計測用カメラを活用することで、加工精度が足りていないときはそのまま追加工ができるので、製作時間の短縮につながっています」と林内工場長は効果を説明する。
課題の明確化が合理的なシステム構築につながる
今後の新しい活用方法も検討する。「NC プログラムと動画撮影を組み合わせて加工中の様子を把握できるようにしたり、CAD に取り込めば角度など幾何形状の推定にも使えそうなので、活用の幅が広がるかもしれません」と林内工場長は考えている。
現状の課題を明確にして、身近な製品を使用した機上計測ツールを業務改善に役立てた丸五テック。自ら考えて手に入れた“飛び道具”がしっかりと機能し、堅実な金型づくりの仕組みを構築している。