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機械技術

2024.11.07

オリジナル工具の開発を軸にキーシリンダー部品のバリ抑制に挑む―ゴール

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 ゴール(大阪市淀川区)は110 年の歴史をもつ鍵・錠前の老舗メーカー。シリンダー錠の国産化に日本で初めて取り組んだのを皮切りに、円筒錠やカードロックシステム、指紋錠システムなど時代の要請に合った防犯システムを開発してきた。近年は大規模オフィスビルやホテルなどに使われる質の高い錠前製品を主力とし、2005 年に発売した「GRAND V(グランブイ)」は世界トップクラスの防犯性能を誇る。

構成部品のほとんどが削り出し

 高品質を担保しているのが長年培った高度な切削加工技術だ。錠前の心臓部に当たるキーシリンダー(鍵を差し込み施錠・解錠を行う円筒部品、図1 右)は一般的にプレス部品やダイカスト部品で構成されるが、同社のキーシリンダーは部品のほぼすべてを切削加工で削り出す。主要部品は鍵を差し込む内側の筒(プラグ)とそれを囲む外側の筒(シル胴)、内外の筒を貫く複数のピン。プラグとシル胴には複雑な加工に対応できる真鍮、ピンには耐久性に優れたステンレスが使われる。
図1 鍵とキーシリンダー

図1 鍵とキーシリンダー

 キーシリンダーを製造する米子工場(鳥取県米子市)で生産技術部門を統括する西村雄城氏(図2)は、「ピンの長さがほんの少し異なるだけで鍵は回らなくなります。ピンの長さおよびピンが通る穴は±1/100mm の精度が求められるため、1/1,000mm 単位の肌感覚で管理しています」と精度へのこだわりを話す。
図2 西村雄城氏

図2 西村雄城氏

 寸法の安定性も重視する。米子工場では先述のピンをひと月に250 万~300 万本、キーシリンダーにして約2 万セットを製造する。特にプラグやシル胴は、タップやクロス穴、偏心あり溝などをもつ複雑な形状で、加工の難易度も高い(図3)。錠前の作動精度を決めるこれらの部品を安定して加工する技術を確立することが、バリの制御にもつながるという。
図3 複雑な形状のプラグを安定量産

図3 複雑な形状のプラグを安定量産

自社の現場に合わせ工具を開発

 安定した加工のために同社が最も注力してきたのが切削工具の開発である。25 年ほど前から取り組み、エンドミルやドリル、チップ、特殊なブローチ工具など数百種類を開発してきた。使用する工具のうち、市販の工具は2 割に満たず、その2 割さえも新品を追加工して使う。

「市販の工具はさまざまな被加工材、工作機械、ツーリングを想定してつくられているので、理想形とは言えません。当社の現場に合わせて刃先形状を調整し、さらに最適な加工条件を追求することで、バリの量を大幅に減らすことができます」

 米子工場ではYKT が販売する独インデックス社製タレット型複合加工機「C100」(図4)をメインに使い、プラグやシル胴を丸棒から削り出している。同機は3 台の刃物台にそれぞれ10 のステージがあり、各ステージには最大6 本の工具が取り付け可能。旋盤ベースの複合加工機と自社開発工具を組み合わせ、コスト競争力を高めている。
図4 インデックス社の複合加工機と開発工具

図4 インデックス社の複合加工機と開発工具

 バリ抑制では加工速度も重要な要素の1 つとなる。「ワークの回転数や工具の回転速度が速い方がバリは出にくい。ただ、速くなるほどさまざまな要因により制御が難しくなります」(西村氏)。工具のすくい角や逃げ角などを最適化して熱が刃先に蓄積するのを防いだり、切削油剤の種類やかける量・方向を工夫したりといった取組みが必要になる。

 どうしても抑制できないバリに対しては、バリ取りをしやすくする工夫もする。たとえば、ワークの片側だけに厚いバリが出るのであれば、もう片側にもバリを出し、厚みを半分にして作業負担を減らす。除去が容易になるように、バリの生成方向も重要だ。また、大前提として、キーシリンダーの構成部品として問題がない範囲であれば“バリがない状態”とみなす。バリ取りによる形状ダレの方が問題となるからだ。ここでも、長年キーシリンダーを内製してきた経験が活きている。

“曲がらないドリル”を市場へ

 工具開発の取組みは新たな局面も見せている。深穴をまっすぐに加工するために、切削加工の再研磨メーカーである西研(広島市西区)と共同開発した工具を一般ユーザー向けに改良し、超硬ソリッドドリル「クレアボーラー」として売り出したのだ。

 もともと同社では、プラグのキーウェイ溝(鍵の通る溝)を、長尺のブローチ工具を使いブローチ盤で加工していた。ただ、ブローチ工具は非常に高価で、しかも部品の完成までにブローチ盤と複合加工機の2 工程が必要だった。また、同社のフラグシップモデルであるGRAND V を適切なコストで量産するためにも、ブローチ盤工程との統合が課題だった。そこで、複合加工機の中でブローチ加工をするために、ブローチ加工前の下穴をあける工具の開発に着手。それがクレアボーラーの原型となった。

 クレアボーラーの製造・販売は西研が担うが、開発を主導した西村氏もユーザーに生産技術についてアドバイスするなど拡販に協力している。「穴曲がりに苦労している現場は多いので、しっかりした商品を提供することで世の中に貢献できれば」と西村氏。工具販売を新規事業として育てていきたいと話していた。