金型加工向け超硬工具を主力に展開するMOLDINO(モルディノ、東京都墨田区)。「開発技術のMOLDINO」を標榜し、切削工具の先端、技術力をさらに研ぎ澄ませることで革新的な製品を生み出してきた。主力生産拠点の1つである成田工場では「全員が力を合わせれば『無限の力』が生まれる」(DynamicRevolution by All Members)の頭文字をとったDREAM活動に着手。単なる改善活動を超えた「安全」「品質」を基軸とした働きがいのある工場の実現を目指すプロジェクトを展開。24年度からはさらに実効性を高めるためリーダーのサポート体制を強化するなど組織のブラッシュアップを図り、改善の質向上を狙っている。
DREAM 活動を展開
MOLDINO は工作機械に取り付けるエンドミル、刃先交換式工具、超硬ドリルなどの特殊鋼・超硬合金を用いた高精度の切削工具を手掛ける工具メーカーである。1928 年にフライスカッターを製造する帝国カッター製作所として創業。33 年には株式会社に改組し、日本工具製作所を設立。87 年に日立超硬を合併し、社名を日立ツールに変更。2020 年に三菱マテリアルの完全子会社として現社名に変更、現在に至っている。
製造拠点は成田(千葉県成田市)、野洲(滋賀県野洲市)、魚津(富山県魚津市)の3 個所。成田工場は関東の主力拠点として位置づけられ、従業員数は約400 人。原料の造粒から金型プレス、押出プレス、焼結、研削、コーティング、ホルダ製造までの一貫生産体制を構築している。
同工場の特徴として挙げられるのが2012 年からスタートしたDREAM 活動だ。「安全で働き甲斐がある工場だからこそ、お客様に信頼され満足いただける商品が生まれる」をコンセプトに4 つのプロジェクト(PJ)を推進。SFPJ(安全活動)、QCPJ(品質向上)、改善PJ(小グループ活動)、笑顔化PJ(みんなを笑顔に)に全従業員がそれぞれ分かれて参画している。たとえば安全活動ではドライブシミュレータを使った安全教育や安全パトロールによる災害リスクの抽出などを通じた安全意識基盤づくりや本質安全対策を実施。笑顔化では季節ごとのイベントや親睦会、従業員家族の見学会などでコミュニケーションの向上や働きがいを見出す取組みを行っている。
DREAM 活動の見直しに着手
「成田工場ではTOC(制約条件の理論)に取り組み、工程のボトルネックを改善することで生産性、品質向上を進めてきました。一方で従業員のモチベーションを上げ、やりがいを見出すにはもっと違う取組みが必要との観点から始まったのがDREAM 活動です」と成田工場加工製造部長兼成田工場加工製造部ホルダーグループ長の新谷崇氏はスタート時の状況を振り返る。ただ、開始から10 年以上が過ぎ、コロナ禍を経て活動にかつての活気が失われてきた。そこでDREAM 活動を「成田工場の一番大切な活動」として再度見直すための検討に着手。24 年度から新たに目指す姿として「働き甲斐のある工場」、「お客様に信頼される工場」と従業員満足度(ES)、顧客満足度(CS)の両面から定義し、工場や各部門の問題と課題が紐づいた活動に乗り出した。
「活動のマンネリ化、やらされている感からの脱却が課題でした。工場幹部が先頭に立ちけん引する組織体制に改めました。月1 回の報告会もこれまでは一方的に活動内容を伝えるだけでしたが、24 年度からは問題や悩みを投げかける形式に変えることで対話が活発化しました。さらに従来はリーダーが20 ~ 30 人集まるだけでしたが、手軽に使えるオンライン会議システムやチャット機能を使うことで参加者が100 ~ 130 人と増え、活動自体に活気が戻ってきました」(新谷部長)とコミュニケーションの円滑化によって早くも成果が出始めているという。
チョコ停を激減
品質向上(QCPJ)についても図面/ 品質教育の実施、品質パトロールによる品質リスク発見・対策などを行い、人材育成やクレーム・社内不良対策、規格・ルールの適正化に取り組む。業務に落とし込むことで活動が活発化してきた。
改善PJ では改善意識の改革、活動の推進、改善の見える化、IT リテラシーの底上げとペーパレス化をテーマに設定。改善勉強会(基礎、ステップストーリー)、サポータ体制の見直し、小グループ巡視・交流会の開催、活動掲示板の見直しなどに取り組んでいる。改善勉強会では改善効果を金額に置き換えるなどの手法を解説し、参加者からも「自分たちの成果が目に見える形で評価されることが面白く、大変参考になった」(中里篤志加工製造部)など刺激を与えることにつなげている。
特に改善PJ ではステップストーリーを活用した改善活動への取組みを進めている。「小集団活動グループは32 チームありますが、ステップストーリーをつくり大きな成果を出したチームも出ており、ほかのチームにも影響を与え始めています」(新谷部長)
その1 つが加工製造部のコーティンググループに属するチーム秦野である。最終工程にあたるPVD コート後処理装置のチョコ停改善で1 カ月4,000 回あったチョコ停を1 年間で同1,000 回以下まで低減することに成功した。
リーダーの秦野侑人氏は「コーティングした製品を後処理する自動化工程で、1 日に何度もエラーを知らせるアラームが鳴り、チョコ停への対応が仕事みたいになっていました」と改善前の様子を説明する。4 年前に導入以降、治具の摩耗などから徐々にチョコ停が出始めてきたが「人によって調整の仕方が異なり、どれが正解かわからない混沌とした状態でした」(中里氏)。
秦野氏は他部署から異動したばかり。ロボットなど装置系の経験がないものの、アラームに追い回される仕事から解放されたいと思うようになっていた。そこで23 年度の改善テーマに設定し、16 人のメンバーで現状把握、目標設定、原因分析、対策、効果、歯止めのステップストーリーを組み立て着手した。「現状把握でワークを検知するビジョン異常とワーク取り異常がエラー全体の70%を占めることがわかり、部品老朽化、作業手順書が不足していることが明確になりました」(同)
グラフやフィッシュボーンで分析を進め、日常業務の中でインサート定位置化、ビジョンエラー減少、ワーク取りエラー減少と対策を1 つひとつ施していった。その結果、23 年第1 四半期で、22年度下期に月間3,992 回あったエラーが2,578 回と半分近くまで減少。その後も着実に減らし、第4四半期では885 回と1 年で4 分の1 以下まで落とすことができた。エラー解除に要する時間、製品の落下/ 紛失を金額換算すると月間約55 万円、労働生産性は1 時間279 個から同354 個へと向上し、エラーに追い回されない「作業しやすい職場の実現」を達成した。
秦野氏と同じく他部署から異動し、改善に取り組んだ中里氏は「新規の職場で従来の慣習にとらわれずに進められたことがよかったと思います。最終工程でまわりからボトルネックと見られていた工程を改善できたことはメンバー全員の自信にもなっています」
成功体験を活かし、横展開へ
今後の展開としては①後戻りさせないための設備保全活動の継続、②コーティング後処理作業に関係する作業手順書の充実化、③他設備への展開、を挙げる。設備保全については月1 回の定期メンテナンスを全員で行い直近(25 年1 月)ではエラーは月500 回を下回る。また、作業手順書は動画も活用し、誰もが理解しやすいマニュアルを目指している。24 年度は他設備のチョコ停対策活動へと横展開に乗り出しており、「今回の経験を活かして改善を進めたい」(秦野氏)と意欲を見せる。
新谷部長は「今回の改善は生産技術レベルの仕事であり、社内の発表会でも高い評価を得ました。最終工程での劇的な改善は工場全体の収益にも大きく寄与し、彼らには感謝しています。こうした成功モデルを積み重ねていける環境づくりにこれからも取り組んでいきます」。DREAM の実現に向けて着実に歩みを進めていく。
PVDコート後処理工程。自動化と手作業を組み合わせた最適生産を目指す