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機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2025.12.04

技術・事業開発も顧客開拓も半歩先行く意識が状況を変える―キャステム

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㈱キャステム 代表取締役
戸田拓夫氏

Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明

 ロストワックス精密鋳造や金属粉末射出成形(MIM)による機械部品を手掛ける㈱キャステム(広島県福山市)。成形に関する知見や金型製作で培った機械加工など総合的な技術を強みに事業を展開してきた。3D プリンタを活かしたモノづくりも提案し、新たな顧客開拓にも取り組む。また、仕事量の確保や事業承継などに課題を抱える鋳造・機械加工メーカーと連携して、互いにメリットが出る仕組みの構築も目指す。戸田拓夫社長が描く機械加工業の未来を聞いた。
戸田拓夫代表取締役

戸田拓夫代表取締役

研究と工夫で独自性を発揮

今泉

手掛けているロストワックス精密鋳造とMIM について教えてください。

戸田

ロストワックス精密鋳造は複雑な3 次元形状や中空品が製造できます。成形品の用途は油圧・ポンプ・バルブ系の機構部品や航空宇宙、工作機械などの精密部品、医療機器部品など幅広い分野で使われています。金型を使用するため、量産に対応可能です。
工程はまず、目的とする形状の模型(ワックスパターン)が成形できるようにした金型の中にワックスを流し、模型を製作します。次に、複数の模型を連結して「ワックスツリー」を組み立てます。それをセラミックの砂で4~6層程度コーティングし、鋳型を形成します。続いて、高温の圧力蒸気窯の中に入れ、ワックスを溶かし出します。「脱ろう」と呼ぶ工程で模型と同じ形状の空洞ができます。さらに高温で焼いて鋳型を仕上げ溶融させた金属を注ぎ、凝固後、鋳型を崩します。その後、製品部を切り落とし、熱処理を行い、金属組織を安定させ、製品にします。場合によっては2 次加工として機械加工も行います。
MIM も金型を使用した成形方法で、微細薄肉3 次元形状を大量に製造できます。金属粉末に有機バインダを混錬したコンパウンドという材料を、金型内に射出成形機で射出して成形します。「脱脂」工程で成形品内のバインダを取り除き、その後、高温で焼いて金属部品に仕上げます。射出成形と粉末冶金の技術を組み合わせた工程を経る部品製造方法です。
鋳型に溶融した金属を注ぐ

鋳型に溶融した金属を注ぐ

MIMで活用する射出成形機

MIMで活用する射出成形機

それぞれの技術での要点を教えてください。

ロストワックス精密鋳造ではたとえば、鋳型をつくる工程があります。模型にセラミックを基にした砂をコーティングするのですが、模型に確実に付着すること、そのためには、砂と砂に混ぜる界面活性剤がポイントになります。それぞれを構成する物質や配合の割合、攪拌方法、よい状態を保つための管理方法は1 つのポイントです。
鋳型に注ぐ材料の特性に関する理解も欠かせません。材料の組成によって鋳造性が変わります。また、材料が細部まで行き渡るようにし、空気の巻込みに留意して不良が生じないようにしなければなりません。鋳造品の収縮やひけなどを制御するためには模型を成形する金型にも工夫が必要です。
MIM もコンパウンドの状態がポイントになります。それらが最適に金型に流れるような成形条件の確立や、さらにその前提となる金型の仕上がり具合も重要です。どの工程も専門的な知識と技術、高度な判断を要します。

複合的な知見と技術が必要だと知りました。

鋳造は化学に関する知識や工学的な知識に加えて、すり合わせ・調整といった定性的なことがポイントになります。両方が必要なので難しいし、手間がかかるモノづくりです。まだ解明できていない部分や制御するのが難しい部分があるので、研究と工夫で新しい発見やノウハウを蓄積して独自性を発揮することができます。

うまくいきそうなやり方を繰り返す

今、モノづくりに携わっているのは家業を継ぐ意思が強かったからですか。

大学在学中に体調を崩して中退し、リハビリを兼ねて手伝う中で入社させてもらいました。玩具メーカーの開発担当か理科の教師になりたいと考えたこともありました。モノづくりに関しては幼少期に父が、幼児が乗るカートを製作してくれたことが原体験です。興味・関心を超えて感動しました。小学生の頃は鋳型をばらす作業を手伝いました。その後、将来を考えて工業高校の工業化学科に進学しました。入学時はあまり勉強しなかったのですが高校2 年時の数学の先生が熱心で、勉強の楽しさを知りました。大学に進学することを考えるようになり、勉強するようになりました。成績がどんどん上がるのがおもしろかった。
勉強しているときに、自分が間違った問題を解答と解説を読み、解法の手順を理解することを続けると、作問側の意図に気がつく。それを踏まえてさらに難しい問題にはどんなパターンがあるのかを考え、自分で問題をつくって解くことを繰り返す勉強の仕方をすると偏差値が上がった。結果、学習院大学理学部数学科に合格し、その後に早稲田大学理工学部応用化学科に合格しました。

お見事。

私は、自分にできることは「うまくいきそうなやり方を愚直に繰り返し続けること」だと思っています。シンプルかつ単純に、できること、考えつくこと、ほかの鋳造メーカーが面倒臭がってやらないこともすべてやってみると、打開策が見つかるはずです。高校時の経験でこう考えるようになったのか、もともとの思考だったのかは定かではありませんが、私の基本的な考え方です。

基盤技術に関して手応えを感じた出来事は。

3 つあります。新幹線の放熱部品を手掛けたこと、ある特殊形状のボルトを手掛けたこと、コンピュータの部品であるボイスコイルモータ(VCM)の部品を手掛けたことです。
新幹線の部品は、不良率が高かった。そこで材料を溶解するときの温度を上げたり下げたり、材料を鋳型に流し込むときの湯口の形状や位置を変えたり、材料に影響を与えない添加物を混ぜたりして不良率を下げた。ボルトはねじ山の形状を切削していたが、コストがかかるので、鋳造で量産するという狙いでした。
社内では「無理、検討するだけ無駄」という見解でしたが、やってみると思いのほかうまくいきました。VCM はひけ巣や穴といった内部欠陥、鋳造後の寸法変化という課題がありました。これは部品材料に添加物を加えること、寸法変化を補正するために、模型の形状をわずかに変えること、つまり金型の一部分を加工して、形状を変えることで実現しました。

挑戦と採算性のバランスをどう考えますか。

価格競争には勝ち目はありません。同業他社が放り投げた仕事にこそ勝機があります。そこで採算をとるのです。同業他社が敬遠する仕事を1 つひとつ拾っていく、それまで未開拓だった分野に挑戦することで技術力を高め、自信をつけていくのです。きれいごとではなく、あえて困難な道を選んできました。先入観なく真正面から向き合い、うまくいきそうなやり方を繰り返すのです。MIM も、国内の技術的な権威者と関係を構築しながら、自分たちで研究し、設備投資や権利関係のリスクを減らす対策を練り、特許を取得して生産体制を整えました。

鋳造やMIM、機械部品加工のほかにも、さまざまな取組みを実施しています。

主要事業に関係するところでは、3D プリンタで模型をつくり、鋳造を行う「デジタルキャスト」や熱溶解積層法でMIM 同様の素材を造形して脱脂焼結する「デジタルシンター」、金属3Dプリンタの造形があります。これらのメリットは金型レスです。マルチマテリアルカラー3D プリントによる造形品も提供しています。また、社員発案の取組みでゲームやアニメの世界観を現実にした商品や芸能・スポーツ分野とコラボレーションした商品の開発と販売、農業関連事業にも取り組んでいます。社員が考えて取り組み、成功を次につなげているので支援しています。
野球選手の手をかたどったオブジェ

野球選手の手をかたどったオブジェ

万事休すの局面をひっくり返すのがおもしろい

今考えていることは。

ほかの鋳造や金型製作を手掛ける中小機械部品製造業と連携したいと考えています。当社はロストワックス精密鋳造とMIM、機械部品加工など幅広く手掛けていますが、専業メーカーであっても精密金型製作や精密部品加工などで優れた技術をもつ企業は国内に数多くあります。また、経営者が高齢で後継者となる若い人材がいなかったり、仕事を確保する体制ができていなかったりする鋳造メーカーがたくさんあります。
そうした中小加工業に力を貸していただきたい。当社でこなしきれない高度な技術・知見が必要なモノづくりや数量の多い仕事を積極的に依頼できる関係を構築したいと考えています。M&A ではありません。その会社の文化や理念を大事にしていただいて、当社にも相手にも継続してメリットがある体制を構築したいのです。理解を得るのはなかなか大変で、現在少しずつ進めています。
入社してから父の時代と自分が経営者になってからさまざまなことを見てきました。社員との関係、取引先との関係、社会・経済環境の変化によって、「万事休す」の状況に陥ったことが何度もありましたが、うまくいきそうなやり方を繰り返すという考え方で道を切り開いてきました。技術開発・経営の基本だと感じています。物事は万事休すからが勝負だと思っています。そこからひっくり返す。大変ですけどね。当社に他社に対する優位性があるとすればほんのわずかです。どんなことも「半歩先」という意識が重要なのです。
とだ たくお/ 1956 年、広島県福山市生まれ、69 歳。学習院大学理学部数学科中退後、早稲田大学理工学部応用化学科を受験して合格。体調不良により中退後、80 年にキングインベスト(現・キャステム)入社。84 年製造部長、98 年専務、2007 年にキャステムグループ代表者・最高経営責任者。

いまいずみ ひであき/1957 年愛知県出身。1980 年大阪工業大学卒業後、オーエスジー㈱入社。エンドミルやドリルの設計、開発に長年携わる。特殊工具の打合せや使用状況確認のために国内外多数の切削加工現場を訪問した経験をもつ。著書に「目利きが教えるエンドミル使いこなしの基本」(日刊工業新聞社)。

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