機械設計 連載「教えてテルえもん!3次元ツール習得への道」
2025.06.10
第13回 真のデジタルエンジニアリング活用に向けて
いわてデジタルエンジニア育成センター 小原 照記
おばら てるき:いわてデジタルエンジニア育成センター長。自動車内装部品の設計会社を退職後、岩手県北上市を活動の拠点に10年以上、3次元デジタル技術関連の人材育成、企業支援に努め、学生から求職者、企業まで幅広く指導し、3次元から始めるDX推進活動を続けている。同センター長のほか、3次元設計能力検定協会の理事も務める。
デジタルエンジニアリングとは
今や誰もがスマートフォンを持ち、いつでもどこでもインターネットにつながる環境の中でさまざまな情報にアクセスできるようになった。IoTと呼ばれる「モノのインターネット」は、さまざまなものがインターネットとつながり、遠隔操作や状況確認が行えるようになり、AI と呼ばれる「人工知能」によって、多くのデータを分析し最適化が行われる。
そんな中、デジタルエンジニアと呼ばれる技術者は、モノづくりにおいてデジタル技術の活用でQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)の向上を図り、安全で魅力ある製品をつくり出す人のことである。デジタル技術は、製造業の中で設計ツールとして使用される「CAD(ComputerAided Design)」、強度や機構検証を行う「CAE(Computer Aided Engineering)」、切削加工用のプログラムを作成する「CAM(Computer AidedManufacturing)」、3Dプリンタや3Dスキャナなどのことを言い、これらの技術を活用して設計や生産を行うことをデジタルエンジニアリングと呼ぶ(図1)。これらをうまく活用し、安全で品質のよいものを早くつくり出していく技術者のことをデジタルエンジニアと呼ぶわけである。また、デジタル回路設計やC言語などのプログラミングもデジタル技術と呼ばれ、デジタルエンジニアの定義が広がってきている。
図1 デジタルエンジニアリングにおける主な3 次元ツール
モノづくりでは3 次元技術を使い、設計物をコンピュータ上に3 次元の立体物として、そのまま形状を作成(デジタル試作)し、組立検証や干渉チェック、質量および重心の確認から強度検証や熱解析などのシミュレーションが行われ、つくってからの手直しをできるだけ少なくし、手戻りによる時間を減らすために、日々、取り組んでいる。コンピュータで設計した形状を実物で確認したい場合には、CAMを使用してNCプログラムを作成し、工作機械で削り出したり(切削加工)、3Dプリンタで積層造形をしたりなど素早く物を手にすることも可能である。つくられたものを使ってさまざまな検証を行ったり、実際に部品として製品に組み込んだりもする。また、3Dスキャナを用いて現物を3Dスキャンし、コンピュータ上に3次元のデジタルデータとして取り込み、リバースエンジニアリングに活用したり、大事な物をデジタルデータとして保存したり、3Dプリンタなどで再製作したりといった用途がある。
デジタルエンジニアリングの活用は設計者だけにとどまらず、生産現場の人やロボットの動きを3 次元データでシミュレーションしたり、3Dスキャナを活用した自動検査が行われたり、生産技術や品質管理部門などでも活用されている。営業や購買などでも設計者が作成した3 次元データをもとに商談や部品発注などが行われている。さらにVR(仮想現実)やAR(拡張現実)といった技術が使われるようになり、デジタルツインと呼ばれるバーチャル(仮想)とサイバー(現実)の空間を融合させたモノづくりが進んできている。
3次元CADが“核”であり、必要とされるデジタルエンジニア
どんなによい構想やスケジュールがつくれたとしても、3次元データがつくれるようにならなければ、何も実現できず絵に描いた餅になってしまう。
3 次元データを作成し活用できるデジタルエンジニアは必要不可欠である。3 次元データ活用の全体像を理解し社内展開できるリーダー、3 次元データを作成できるスペシャリスト、CAE(解析)のスペシャリストなど、リーダーと各技術のスペシャリストを育成する必要がある。
人材の育成で重要なこととして、3 次元CADを学習できる環境や時間・機会を与えてあげるほか、モチベーション管理が必要である。人事考課制度や社内の認定制度をつくるなど、きちんと評価も行う。経営層が興味を示し、進捗を確認したり、ミーティングへ参加したりするのもよい。
3 次元CADを使える人材を増やすことが、社内のデジタルエンジニアリングを加速させる。理想通りには行かない場合もあるかもしれないが、適宜、軌道修正をしながら、真のデジタルエンジニアリングに向けて取り組んでほしい。この連載が、その一助になれば幸いである。