icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」

2024.11.13

細かいニーズに機動力を駆使して、応える

  • facebook
  • twitter
  • LINE

合同会社Eメタル 代表社員
緑川玲子氏

Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明

緑川玲子代表社員

緑川玲子代表社員

 工作機械をはじめとする産業機械や医療機器の部品を手掛けるE メタル(東京都大田区)。精密複雑形状に加えて、難削材の加工技術を有することを強みに、モノづくりの要望に寄り添う。主婦や学生などを採用して戦力にする人材戦略も功を奏し、数量や納期といった依頼者の細かい要望に対応することで信頼を獲得。手堅く事業を展開している。機械加工業の集積地でも独自の立ち位置を確立して、存在感を発揮する同社を率いる緑川玲子代表社員に、目指すモノづくりについて聞いた。

自分にしかない貴重な環境に気がつく

今泉 

自社の強みをどのように認識していますか。

緑川

細かい要望に対して、可能な限り対応できるように考えて、提案して、すり合わせるということを自然にできることだと思っています。手掛ける大きさは、指先サイズから、30 番と40 番のマシニングセンタ(MC)に乗るもので、材質はステンレスやアルミ合金、銅などのほか、チタンに対応できます。この点は、ごくありふれた機械加工現場です。
マイクロメートルやナノメートルの精密形状への対応や効率性を突き詰めた高度な自動化システムで、圧倒的なコスト競争力のある機械加工ができるわけではありません。しかし、依頼主が想定している品質を、想定している納期とコストに近づくように努力して提供すること、依頼主に寄り添うことを常に心掛けています。フレキシブルな人材に戦力になってもらって、自分も頑張る。大きな組織ではないゆえの柔軟性と対応力があることだと思っています。
ステンレスやアルミ合金、銅、チタンなどさまざまな材質に対応する(写真提供:Eメタル)

ステンレスやアルミ合金、銅、チタンなどさまざまな材質に対応する(写真提供:Eメタル)

今泉

代表社員という肩書きは珍しいですね。

緑川

会社の組織の形態が合同会社だからです。株式会社や有限会社が一般的だと思いますが、会社設立時の費用やランニングコストにメリットがあるので、合同会社という組織・形態で事業を手掛けています。現在、12 年目です。実は、父が東京都大田区で機械部品製造業として、事業を手掛けてきたので、組織変更を行って現在に至ります。

今泉

自然な流れで事業承継したのですか。

緑川

自分の父親がモノづくりをなりわいにしていることは幼少時から認識していました。母親も父と一緒に働く、いわゆる「町工場」でしたからね。面取りを手伝ったこともあります。だから、金属加工や製造業に対して特別な思いはなく、人が生きていくうえでの仕事の1つという認識でした。ただ、工業高校や工学部に進学して、跡を継ぐということは考えていませんでした。
興味をもった家政科のある短期大学に進学した際にインテリアデザインを学び、タイル施工会社に就職しました。その後、準大手ゼネコンでマンションの施工図の作成職、バルブメーカーと半導体製造装置メーカーの設計職を経て、家業を手伝うことになりました。実際に会社で働いて、モノづくりに関して興味が湧きました。家が機械部品製造を手掛けていて、その環境に身を置くことができるというのは、自分にしかできない貴重なことだと感じました。

今泉

機械加工業に携わってきた者として、興味をもっていただいたことを聞き、嬉しくなります。

緑川

そう言っていただけるのはありがたいです。やる気と志はしっかりもっていたのですが、専門の教育を受けたり、経験があるわけではないのでどうしたらいいか考えました。そんなときに、都立城南職業能力開発センターで機械加工に関することについて学べることを知りました。求職者向けの施設で、基礎的な内容でカリキュラムが組まれていて学ぶことができます。MC やNC 旋盤、CAD/CAM などのオペレーションを学びました。
前職で、建築用CAD と機械設計用のCAD のオペレーション経験があったので、CAD/CAMについての理解は割とスムーズだったと思います。CAD でつくったデータをもとにして、CAM で加工用のプログラムをつくって、そのプログラムをもとに工作機械が動いて、部品が出来上がるということはしっかりイメージできたので、カリキュラムについていくことは困難なことではありませんでした。

機械加工の根本的な壁

今泉

実際に機械加工に携わるようになって感じたことはありますか。

緑川

切削工具が動いて、材料の形が変化していくのは純粋に面白く感じました。一方でMC の操作は怖かったです。小型MC でも自分の身体の数倍の大きさがあるし、材料が削られるときの重低音も怖かった。カバーで囲われているというステンレスやアルミ合金、銅、チタンなどさまざまな材質に対応することを理解していても、巻き込まれてしまうのではないかという恐怖感がありました。結局は慣れるしか方法はないのだと思いますが、その点が機械加工と女性との間にある壁なのかなと感じました。
小型で親しみやすいデザインであらゆる使い方に耐えられる工作機械が普及すれば、機械加工現場の景色は変わるかもしれないと感じています。

今泉

女性が感じる工作機械や機械加工に関することへの指摘を聞き、おおいに納得しました。

緑川

また、機械部品加工業は重い材料を運んだり、切削工具やといしなど、適切に使用しなければ事故やけがにつながってしまうものもあります。こうしたことは若い人材や女性を遠ざけてしまっている要因だと感じています。また、高度な技能が求められ、夜遅くまで働かなくてはいけないというイメージもまだ拭えていないと思っています。
ですから、可能な限りCAD/CAM と測定機器はデジタル技術を搭載したものを使用することで、経験やコツといった熟練作業が必要な要素を減らして、「機械加工=難しい」というイメージを軽減することの必要性を感じています。
入社から早い段階で活躍できるにようになれば、やりがいも感じられると思うし、業務の効率化ができれば付加価値の高い業務に割り当てる時間が増え、無理なく定時に帰宅できます。そうすれば、家事や育児、介護など、時間的な制約のある主婦、職を求める若い女性を一緒に働いてもらう戦力にすることができるはずです。それが成功すれば、学生など、さらに若い人材にも職業として、機械加工に興味をもってもらえると思っています。

経験と強みが活きる、寄り添うモノづくり

今泉

そのために取り組んでいることは。

緑川

高度なことではありませんが、たとえば、ネットワーク対応のデジタル機能を搭載したノギスを使用し、計測しています。計測値が自動でパソコンに送信されて記録されるので、入力の手間がなくなることだけでなく、入力間違えがなくなり、時間短縮と確かな品質のモノづくりが両立できます。
工場内は照明を業務に支障が出ない範囲で、できるだけ明るくして、整理と整頓がされている状態にして、清潔で安全な環境を維持できるように心掛けています。壁紙は明るい色彩のものにしました。また、休憩するためのスペースを設けたり、そこでお香をたいたりして、可能限り、リラックスをしながら安心して働いてもらうことを心掛けています。大きなことはできませんが、それが、モチベーションの向上につながって、「機械加工の現場も快適・安全で楽しい」と感じてくれたら嬉しいです。
私自身が女性なので、女性が作業しやすい、働きやすい職場に機械加工現場がなればいいなと常に考えています。その取組みの1つの例として、軽い力でボルトやナットの締付けと取外しができる、メガレンチ向け補助具を自社製品として開発しました。社内でも使用していますし、販売もしています。自社製品として売上げにつながることがもちろん大切ですが、どんな人でも安全で安心して働けるように、業界に身を置く者の1 人として考えていることもぜひ、知ってほしいと思っています。
ネットワーク通信機能を搭載したノギスを活用した計測作業で、効率化と作業品質の正確性を担保

ネットワーク通信機能を搭載したノギスを活用した計測作業で、効率化と作業品質の正確性を担保

今泉

今後、考えていることは。

緑川

自身の経験や一緒に働いている仲間の能力を活かして、頼ってくれるお客様に寄り添う工場でありたいと考えています。複雑な形状も治具と工程を工夫して、1 万個程度の量産に対応できますし、一方で数量が少なすぎたり、納期がネックで依頼しづらくて困っている方の力になれるかもしれません。
経営者である自分自身が機械を操作して、モノづくりを手掛けているので、金属素材の加工方法や加工手順、切削条件、加工する際の加工物のひずみ、工具の逃げなども理解しているとも思います。そうした知見を活かし、細かなリクエストに応える機械加工の工場でありたい。小規模ゆえの小回りを利かせた、機動力が当社の強みです。 
当社に限らず、1 人でも多くの女性や若い人が楽しさとやりがいを感じながら、機械加工の現場で活躍する社会になってくれたら嬉しいです。
みどりかわ れいこ/ 1974 年生まれ、50 歳。東京都大田区出身。94 年、関東学院大学短期大学卒業後、タイル施工会社、準大手ゼネコンでのマンションの施工図の作成職、バルブメーカーと半導体製造装置メーカーでの設計職を経て、2012 年に合同会社Eメタルを設立。趣味はゴルフ。仕事が早く終わった日にレッスンを受けることが楽しみ。

いまいずみ ひであき/1957 年愛知県出身。1980 年大阪工業大学卒業後、オーエスジー㈱入社。エンドミルやドリルの設計、開発に長年携わる。特殊工具の打合せや使用状況確認のために国内外多数の切削加工現場を訪問した経験をもつ。著書に「目利きが教えるエンドミル使いこなしの基本」(日刊工業新聞社)。