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工場管理 連載「失策学 ビジネスの誤算から紐解く成功の条件」

2025.08.21

第1回 組織全体を危機に追い込む失敗

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米国公認会計士/公認内部監査人 打田昌行

うちだ まさゆき:日立製作所傘下の監査支援部門に所属し、国内に加え海外30ケ国以上で内部統制を構築する仕事に12年間従事。 対象企業は100社以上に及ぶ。現職では制度導入の社内研修企画やコンプライアンス教育を実施。著書:『令和時代の内部統制とリスクコントロール』翔泳社他

ビジネスの失敗は成功の宝庫が潜む

 企業をはじめ組織や団体が人の手により管理されている以上、さまざまな失敗が起きるが、そこには多くの教訓が隠されている。ビジネスの成功物語から学ぼうとする人は多いが、むしろ苦い失敗にこそ、成功に向けた豊富な学びが隠されていると考えられる。失敗を分析して、そこから教訓を引き出し、成功のためのヒントを学びとる逆算の発想によって、失敗を将来の糧として活かすことができる。

学び舎で起きた違法薬物の犯罪

 優れた人材を社会に輩出する責任を持つ大学で、1 年前から驚くべき犯罪が起きていた。2022 年10月、日本大学のアメフト部の学生の一部が、違法な大麻を利用していたことが保護者からの通報や学生からの自己申告で判明した。しかし、大学側は社会やマスコミに対して事実を否定し続けたため、コンプライアンスに反する不誠実な姿勢が厳しく糾弾された。信頼の失墜は、組織全体を危機に追い込む失敗である。

 大学の自己中心的な対応に、第三者委員会は次のように厳しく批判した。「立証されていない事実や立証される可能性が低いとみなした事実を矮小化し、時にはないものとする。不都合な情報には目をつぶり、得られた情報を自分に都合よく解釈し、自己を正当化しようとする姿勢である」。

第三者委員会の報告書を読む

 次の失敗事例は、第三者委員会の報告書(要約版)に基づく。

1.失敗事例1:虚偽による情報の隠ぺい体質

 アメフト部の指導部は、保護者の通報で大麻使用を疑わせる情報を踏まえ、簡易なヒヤリングをしたが、早々に大麻使用の事実は認められないと結論づけた。その後部員から使用に関する自己申告があったにもかかわらず、副学長や危機管理総括を努める理事にすら事実を報告していない。警察庁薬物対策の係官による照会や保護者会での説明においても、しらを切り続けた。

2.失敗事例2:組織的な共謀と違法な行為

 警視庁の強制捜査を前に、大学による持ち物検査で大麻とみられる植物片が発見された。しかし副学長は誰にも相談せず、証拠品を12 日間にわたり保管、警察に報告するどころか、監督や競技スポーツ部職員に対して大麻使用に関する秘密保持を徹底するよう指示。読売新聞、朝日新聞の取材にも大麻が見つかった事実はないと回答させた。

3.失敗事例3:ずさんなリスク管理

 大麻吸引の事実を警察に通報せず、部員の処分もしないのは事実を隠ぺいするつもりではないかという告発文が、保護者を名乗る者から理事長あてに届いた。理事長は、理事会や監事と情報の共有を図るどころか、学内への危機管理態勢の指示すらしていない。保護者の通報から1 年が経過するなか、リスク管理の脇の甘さが露呈された。

失敗から逆算するための解説

 不都合な情報に目を背け、自分に都合よく解釈して正当化を図ることは、大学の運営者に限ったことではない。企業活動の場でもしばしば起き、会社経営を危機に陥れる失敗になることがある。たとえば、企業の不祥事の原因解明のため、社内に調査委員会を組織した際、社内の利害をしんしゃくできるメンバーを意図的に委員会加え、社外はもちろん、内部にさえ不都合な情報が漏れぬように囲い込みを意図する〔虚偽による情報の隠ぺい体質〕。

 また、行政機関などによる調査に対し情報を組織的に隠ぺいした直後、新たな情報が判明し、社会的な信用を大きく失墜させる会社もある〔組織的な共謀と違法な行為〕。

 さらに旧式のIT 機器による情報漏えいやウィルス感染のリスクが、再三指摘されたにもかかわらず、更新せずに放置した結果、サイバーテロの被害に遭遇する企業も多い。目前のリスクが現実になるはずはない、他人事であると都合よく情報を解釈し、危機管理態勢を怠った結果である〔ずさんなリスク管理〕。

失敗から逆算して得られる豊富な教訓

 成功を自負する経営者は多い。その陰では人知れず、成功に辿り着くために数多くの失敗から学んでいるはずである。失敗にこそ、本当の教訓が隠されている。企業の規模にかかわらず、今回の失敗から次の教訓と失敗に陥らない対策を学びとっておく必要がある。
失敗から逆算して得られる教訓に基づく対応

失敗から逆算して得られる教訓に基づく対応

■ 責任と権限の分担による相互の牽制〔仕組みづくり〕

 自部門に不利益な事実を内外に隠ぺいする行為は組織の大きな損失にはたらく。責任と権限の分担が浸透し、相互の牽制の仕組みづくりができれば、失敗事例1 に見られる一部従業員による独断を未然に防止する効果を持つはずである。

■コンプライアンス意識の定着〔会社風土〕

 社会常識より会社常識を優先させる意識が醸成されることを避けなければならない。誤ったことを指摘するのに、従業員のクビを賭けなければならない組織はいずれ淘汰される。失敗事例2 を未然に防ぐためにも、地道な教育や現場での管理職による日常の指導や教育を積み上げて、コンプライアンス意識を地道に醸成する地ならしが欠かせない。

■リスクに敏い仕組みづくり〔リスク管理〕

 トップがリスクに鈍感で不都合な情報に背を向けたことが、組織の致命的な信用の失墜につながったのが、失敗事例3 である。自社の利益を護るために、経営層は事業継続を損なう可能性があるリスクに対してさとくなければならない。自社には、リスクを管理して伝達、共有する仕組みや手続きがあり、適切に機能しているかどうか、もう一度振り返っておく必要がありそうだ。

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