icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

工場管理 連載「失策学 ビジネスの誤算から紐解く成功の条件」

2025.12.16

第6回  会社の信頼を危うくする失敗 その3  ─会社経営の視点から─

  • facebook
  • twitter
  • LINE

米国公認会計士/公認内部監査人 打田昌行

うちだ まさゆき 日立製作所傘下の監査支援部門に所属し、国内に加え海外30ケ国以上で内部統制を構築する仕事に12年間従事。 対象企業は100社以上に及ぶ。現職では制度導入の社内研修企画やコンプライアンス教育を実施。著書:『 令和時代の内部統制とリスクコントロール』翔泳社他

いま求められる失策学

 企業をはじめとした組織や団体には、いつの時代もさまざまな失敗や失策が伴う。誤りと失敗を繰り返すのは人の宿命でもある。しかし失敗には、必ず豊富な学びと将来の成功につながる糧が隠されているものである。苦い失敗にこそ、本当の学びを見出すことができる。失策から成功のヒントを前向きに学び取る逆算と逆転の発想、つまり失策学のアプローチが今求められる。

汚職に取り込まれ、蝕まれる

 パリ五輪の開催がとうとう間近に迫った。開会式は、セーヌ川のパレードで始まるという、なんとも華やかな世界大会である。しかし、忘れてはいないだろうか、コロナ禍にもかかわらず成功裡に終わったと思われた東京五輪だが、舞台裏ではスポンサー契約を巡る汚職事件が起きていた。大会組織委員会の元理事が2 億円近い賄賂を受け取った事件の初公判は、昨年12 月に始まったばかりだ。

 絶えない汚職、それは私利私欲のために職権や地位を濫用し、違法かつ不正な行為や差別的で不公平な行いをすることである。最近では、国会議員が統合型リゾート施設を巡り、中国企業から賄賂を受け取った事件が挙げられる。汚職は国家プロジェクトや政治がらみに限らない。企業の経営活動でも、コンプライアンスの綻びから飲食、旅行や金品授受を通じて汚職の誘惑に蝕まれる。その結果、会社の信頼を失墜させ、損失を被るリスクがつきまとう、ではどうすべきなのか。

汚職に懲りない世間の面々

 腐敗しない権力はない、そのため選挙をはじめ民主主義の制度や手続が存在している。企業も同じである。腐敗や汚職に蝕まれるリスクを低減するため、防止と牽制の仕組みが求められる。しかし次の事例に限らず、世間では汚職に懲りない面々が後を絶たない。

1.事例1:関西電力金品受領事件

 関西電力役職員75 人は、20 年以上にわたり地元高浜町の元助役とその関連企業から、総額約3 億6 千万円相当の金品を受け取り、見返りに原発関連の工事を発注していたことが、2019 年の税務調査を契機に発覚した。元助役を400 回以上接待し、9 千万円を費やす関西電力の腐った関係は10 年にわたり続いた。経営幹部自らが金品を受け取る、まさに絵に描いたような汚職事件である。

2.事例2:東京都千代田区官製談合事件

 2024 年3 月、元区議会議員は、入札参加業者から賄賂を受け取る代わりに千代田区の発注工事に関わる入札情報を漏えいさせた疑いで逮捕された。元区議は、6 年前から入札参加の業者グループといない。癒着関係にあり、商品券を受け取るほか、ゴルフ代、飲食代を負担させ、自身が経営する飲食店にもエアコンを8 割引で設置させていた。

失敗から逆算するための解説

 2 つの事例を待つまでもなく、公権力の利権に群がる汚職は枚挙にいとまがない。事例1 で、関西電力は金品は預かっていただけでいずれは返却するつもりであったと釈明した。しかし、第三者委員会の調査報告書によれば、ある職員は預かったはずの商品券を換金、投資信託で運用したというから、蓄財を図ったと疑われてもやむを得なかろう。他方で、関係者によれば、金品の受領を強要されて断ることも返却することもできなかったという。元助役は激高すると、なぜ受け取らないと怒鳴り、土下座を迫られた社員も複数いたというから、権力とそれに阿(おもねる)側とのゆがんだ関係は取り返しがつかない状況にあったといえる。

 事例2 では、元区議が金品などを要望し、入札業者がそれに応えた。元区議から入札情報を漏らすよう指示された区の職員は、その役割を別の職員から引き継いだと逮捕前に報道陣に話した。一旦もたれ合えば、その関係は抜き差しならず、渡す側、受け取る側ともに処罰の対象となり、発覚によって瞬く間に会社の信頼は失墜するのである。

失敗から逆算して得られる教訓

 汚職に到る要因は1 つと限らず複合的である。中でも接待や金品授受に始まる、危うい関係づくりが、しばしば汚職というコンプライアンス違反に結びつく。そうした視点から企業のリスクを洗い出し、失敗を未然に防ぐ教訓を挙げる。

■経営層を襲うリスクを十分認識する

 自社の業績について重い責任を担う経営層であるからこそ、汚職に関わるリスクが高いのは皮肉なことである。それだけに自律した高い倫理観が求められる。経営層が権力に対し賄賂を介して利権を獲得すれば、一時的ながら受注や売上増が得られるかもしれない。しかしひとたびそれが発覚すれば、会社の信頼を危機に陥れるしっぺ返しに遭うだけでなく、個人の人生も破綻するリアルなリスクを実感しておく必要がある。

 金額の規模に関わらず役所の入札には、リニエンシー制度による厳しい監視の眼が光っている。うかつにも談合に関わってほかの談合者に通報されれば、企業が被る代償は計り知れない。

■汚職に浸食されるリスクを牽制する

 清廉な経営層が注意を払っても、足元から切り崩されるリスクもある。新たな仕事を獲得し、ビジネスパートナーとの業務の円滑化を図るために食事、ゴルフ、旅行や酒席による接待を行うのには一応のメリットがある。しかし他方で、過ぎれば癒着の温床となり、事例に見たように過度な接待によるコンプライアンス違反やなし崩しによる汚職に発展しかねないデメリットもある。

 そのため、接待に関するガイドラインを設けて事前申請を義務づける企業がある。しかし、それだけでは足りない。接待を顧客に提供するか否かについてはもちろん、取引先から接待を受けるか否か、あるいは受けたことについても服務規程などで具体的な基準を設け、事前申請と報告を従業員に義務づけるのがよい。経営層はこうした状況を常に把握して、汚職に浸食されぬようリスクを管理する必要がある。
* 企業が捜査に先立ち不正行為などを自主申告したとき、処分が減免される制度

関連記事