工場管理 連載「失策学 ビジネスの誤算から紐解く成功の条件」
2026.01.13
第7回 部門を危うくする失敗 その1 ─部門管理の視点から─
打田昌行 米国公認会計士/公認内部監査人
筆者:うちだ まさゆき 日立製作所傘下の監査支援部門に所属し、国内に加え海外30ケ国以上で内部統制を構築する仕事に12年間従事。 対象企業は100社以上に及ぶ。現職では制度導入の社内研修企画やコンプライアンス教育を実施。著書:『 令和時代の内部統制とリスクコントロール』翔泳社他/E-mail:masayukiuchida@gmail.com
いま求められる失策学
企業も各部門も人が運用する組織である以上、運用にはさまざまな失敗や失策が伴う。しかしその失敗を見つめ直せば、そこには必ず豊富な学びがあり、将来の成功につながる糧が隠されていることに気づくはずである。苦い失敗は、本当の学びを見出す絶好の機会である。失策から成功のヒントを前向きに学びとる逆算と逆転の発想、つまりエラーから学ぶ失策学のアプローチが必要である。
働く時間を足元から考える
業務前に所定のユニフォームに着替えを必要とする仕事は数多い。たとえば、工場であれば作業服、受付や売り場なら制服などである。着替えに限らず、事務連絡を含む朝礼、安全管理のための体操、どれも業務に必要な準備である。こうした仕事上の準備は、労働時間の一環と考えられるにもかかわらず、賃金支払いの対象外と考える企業が、どうやら多いようだ。
ある大手家具販売業は創業以来、従業員には会社指定のユニフォームに着替えてからタイムカードを打刻するように指導してきたことが昨年、問題となった。会社が定める服装に着替えるのは、業務の一環であろう。朝礼や準備体操も同様で、その後にタイムカードの打刻を求めるのは、最高裁によれば違法である。
その後大手家具販売業は、労働法令に従って着替えを労働時間とし、賃金支払いの対象に改めた。たとえ出退勤時の着替えが10 分程度でも、毎日のこと、チリも積もれば一定の金額となる。働き方を足元から管理する人事労務部門は、注意を要する。
時間外労働をめぐる違法行為
1日の労働は8 時間、1 週間で40 時間を超えてはならないと労働基準法に書いてある。これを超えて残業を求めるには、たとえアルバイトでも労使協定を締結して残業に合意する必要がある*。もしこれを怠れば労働基準監督署の指導対象で、悪質な場合は検察庁に書類送検されるが、違反するいわゆるブラック企業は後を絶たない。
1. 事例1:労使協定を無視した時間外労働
協定による合意を上回る違法な時間外労働をさせた大手旅行会社は、監督署から10 回以上にわたる是正勧告を受けて東京地検に書類送検された。協定なく時間外労働をさせ、賃金すら払わない悪質な社会福祉法人もあり、類似の違反事例には事欠かない。
2. 事例2:時間外労働の報告改ざんと賃金未払
家電大手の研究所では、実際の時間外労働時間が協定の合意を超えているにもかかわらず、正確な残業時間の報告を上司が許さず、過少申告をさせたうえ長時間に及ぶ叱責などのハラスメントを行っていた。また労使協定を結ばず、残業をさせたうえにシステムによる出退勤の記録を改ざん、労働時間を短縮して賃金を支払わなかったコンビニエンスストアが、書類送検されている。
失敗から逆算するための解説
労働時間とは何か、人事労務部門ではもう一度確認しておく必要がありそうだ。労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれているかどうかで判断するというのが裁判所の見解である。着替え、朝礼や準備体操は業務の一環で、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている労働時間である。それが所定の勤務時間外に行われれば、時間外労働として割増賃金の支払い対象となるので、注意を要する。タイムカードを打刻したときから労働時間が始まるという形式的な考え方は、もはや捨てるべきである。
では、時間外労働はどうか。コロナ明けの人手不足が深刻とはいえ、事例1 のように協定以上に時間外労働を繰り返し求めるのは、明らかに違法である。協定を結ばず時間外労働をさせ、賃金すら払わないのは、雇用主として論外である。中には過労死の基準といわれる1 カ月の時間外労働が80 時間を超える状況が続き、精神疾患を患ったケースも数多い。過重労働の結果、大切な従業員を死に至らしめる事件が起きてから、人事労務部門の責任者が青くなって慌てても、もう遅いのである。
事例2 のように、従業員に長時間労働をさせたうえ、圧力を加えて正確な残業時間を申請させないのは賃金不払いで、労働基準法に違反する。同法37 条により、本人の申請がなくとも残業代を支払う義務があることを企業は認識しておく必要がある。さらにシステム内の残業データの改ざんは、私文書偽造、電子的記録不正様出の罪に問われ、懲役刑または罰金が科される可能性があり、立派な刑法犯罪に当たる。
失敗から逆算して得られる教訓
労働法令の知識の欠如が、思わぬ信頼の失墜につながる事例を数多く見た。人事労務部門が労働時間をはじめとする法令に通じ、社内に周知すべきことはいうまでもない。長時間労働が少子化問題の一因ともいわれる現代日本では、労働環境が整わねば、従業員はいつでも会社から去ってしまう時代であることもあわせて認識し、以下を教訓としたい。
■長時間労働への対応
労働環境改善と人件費を圧縮のため、長時間労働の問題に取り組む企業は多い。しかし、突然ノー残業デーを設け、定時になると職場の電気を消して回るようなことは本末転倒である。仕事の棚卸を行い、なぜ業務が長時間にわたるのかその原因を見極め、対策を検討するのが最初にあるべきである。
■過重労働による自殺に対する注意
過重労働による自殺がなくならず、それは行政機関、民間企業、劇団にも及ぶ。従業員の中にうつ病など精神疾患を病んで療養する者が増える傾向にないか、長時間労働に加え、心理的なストレスが加わる過重労働が起きていないか、人事労務部門は、常に労働環境に注意の眼を配り、産業医を活用するなど人財を大切にして欲しい。
* 労働基準法36 条により、労使間で残業時間の枠を合意する協定のこと。条文からサブロク協定とも呼称され、1 年に1 回の見直しが推奨される