事業承継の選択肢としては、1.親族、2.社員、3.第三者(M&A)という3 つの選択肢が一般的ですが、第三者の中にも、M & A で企業に承継する形と、サーチファンドという個人に承継する選択肢が広がったとお考えいただけるとわかりやすいと思います。サーチファンドの特徴としては、次期経営者が明確であるということが挙げられます。
松谷「私にはお世話になった叔父がいましたが、経営者だった叔父は60 歳のときにガンで亡くなりました。その当時、自分は35 歳でしたが、経営者が急に亡くなることの大変さを感じました。また、取引先のアメリカ企業がM&A によって企業売却する姿を身近で見ており、なぜアメリカの企業は簡単に企業売却するのだろうと不思議に思い、興味を持っていました。
私には娘がおりますが、事業を継がせる選択肢はありませんでした。また、社内の従業員を見渡すと年齢も若く、自社株を買い取れる資金を用意するのは難しいと判断しました。70 歳や80 歳になってまで仕事をして、仕事だけの人生で終えるのは嫌だと思っていたので、60 歳になる前に企業売却をして、老後のまとまった資金と時間を買おうと決心しました。その頃『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』という本に出会ったのも背中を押されたきっかけでした。これまでがむしゃらに働いてきたので、最後に体が動くうちに、苦労をともに支えてくれた妻に恩返しをしたいと考えました。娘に父親としての生き様を見せてあげたいと思ったのも理由です」
ナショナルサーチファンドを選んだ理由
松谷「最初は大企業との交渉を進めていましたが、交渉の過程で、親会社に飲み込まれて会社の良い文化(カルチャー)が壊されてしまう感覚を受けました。また、残されたメンバーが反発してしまうのではないかと危惧しました。結局この大企業とのM & A は破談に終わり、正直ホッとしたのを覚えています。
その後サーチファンドに出会いました。親会社から人が送られてくるM & A と違い、経営を志願するサーチャーが経営を承継するスキームです。ナショナルサーチファンドの支援を受けながら、自分も数年伴走しながらサーチャーに事業を引き継いでいくスキームは面白いと感じました。
最終的には、ナショナルサーチファンドのメンバーの熱い思いと誠実さに共感して、この人たちに事業を託してみよう思った次第です」