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工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」

2025.03.08

第8回 作業教育の実施:要素作業を教育して作業に貢献させる

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ジェムコ日本経営 古谷賢一

ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
https://www.jemco.co.jp
 4 月号から7 月号まで4 回にわたり、新入社員に実施すべき基礎教育について解説をした。基礎教育においては、今後の作業教育をより効率的に進めるために、①現場で知っておくべき安全や行動に関わるルールを教育する、②現場で必要なコトバ(用語)を教育する、③自社の生産活動の全体像を教育する、そして、④これからの作業教育において事前に修得しておくべき基本技能を教育する、の4 点を示した。

 これらの基礎教育を確実に行っておくことが、作業教育をスムーズに進めるためのカギになる。まさに「急がば回れ」だ。基礎教育が行われていないと、いざ実際に作業教育をしようにも、教える立場にあるベテラン作業者は新入社員が何をどこまで知っているのかわからない。そのため、「知っていて当然」と思い込んで、必要な情報を教育せずに作業教育に進んでしまったり、あるいは、「知っていないだろう」と考えて、何度も同じ基本事項を繰り返し説明したりする、といった非効率が発生してしまう。さて、いよいよ8 月号からは、実際の作業教育へのステップを進めてゆく。

作業教育の第一歩は要素作業から

 要素作業とは、工程における作業の最小単位のことだ。「部品同士をねじで固定する」「ラベルを所定の位置に貼付する」、あるいは「設備にワークをセットする」といったものが要素作業にあたる。なお、7 月号で解説をした基本技能とは、部品の扱い方、ねじの扱い方、あるいはドライバーの使い方といったもので、このような基本技能を修得している人は、作業指示として「部品A に部品Bをねじで固定する」といった作業指示を理解して、要素作業を行うことができる。

 そして工程における標準作業は、このような要素作業が複数組み合わさって構成されている。たとえば、「部品A に、部品B と部品C をねじで固定し、さらに部品D の指定個所を治具で折り曲げて部品A に挿入し、最後にラベルを指定個所に貼付する」といった組立工程を考えると、この工程の標準作業は、部品同士をねじで固定する要素作業、部品を曲げる要素作業、部品を挿入する要素作業、そしてラベルを適切に貼付する要素作業の4 つの要素作業から構成されている。

 この事例の標準作業では、これら4 つの要素作業を修得している作業者であれば、作業の手順と注意すべきポイントを示して、練習を積むことで作業教育は完了する。それぞれの要素作業は汎用的な作業スキルであり、ほかの工程での標準作業を修得する際にも役に立つ(図1)。
図1 段階を追って教育することがポイント

図1 段階を追って教育することがポイント

いきなり難しい作業から始めないこと

 新入社員に対して、いきなり難しい工程の作業教育をすると、覚えなければならない要素作業がたくさんあるので、作業を修得するまでの時間も長くかかってしまう。そこで、新入社員に行う最初の作業教育は、できるだけ要素作業が少ない工程の作業を選ぶことがポイントである。わかりやすいのは、「部品A に部品B をねじで固定する」ことだけで1 つの工程が完了するといったように、その工程の標準作業が1 つの要素作業で構成されているというものだ。同じように、ラベル貼付工程(ラベルを指定個所に貼る工程)、チェック工程(印字の有無など状態の〇×判別が容易なレベルの確認工程)なども、標準作業が1 つの要素作業で構成されているものに挙げられるだろう。

 「Z 世代」の新入社員は無意味なことを嫌い、自分が役に立っている、仕事に貢献しているといったことへの意識が強いといわれている。新入社員に対して、仕事への参画意識を強く持ってもらうためにも、とりあえず仕事を与える、補助的な雑用を与えるといった「意味のないやっつけ仕事」でお茶を濁すのではなく、1 つの作業を早く修得してもらい、実際の作業に従事してもらうことで、しっかりと生産活動に貢献をしたという実績をつけることを考えてほしい(図2)。
図2 できることを増やす・自信をつける

図2 できることを増やす・自信をつける

必要性との兼ね合いも考える

 新入社員に対して、どの作業を最初に教育をするかは悩ましい問題である。よくある考え方は、工数が不足をしている工程に対して、その不足を補うために新入社員を教育するという考え方だ。しかし、これには注意が必要だ。

 基本技能の教育、そして、それをもとにした要素作業の教育を十分に行わずに、ただ必要だからとの理由で、多くの知識や技能の修得が求められる難易度の高い作業を新入社員の教育対象にしてしまうと失敗することがある。

 当然だが、難易度の高い作業はすぐには修得できない。ベテラン作業者にとって「できて当然の作業」であっても、新入社員にとっては多くの知識と技能を修得しなければならない「とほうもなく難しい作業」である。この認識のギャップを忘れてはならない。よくある失敗は、このようなギャップを踏まえずに、ベテラン目線で作業教育を行ってしまうことだ。新入社員にとっては過大な負荷を押し付けられた状態にもかかわらず、ベテラン作業者からは「あいつは筋が悪い」などと無能の烙印を押されてしまうことにもなりかねない。また、新入社員が到達すべきゴールが遠すぎるために、意欲を失ってしまう危険性もある。

 必要性の高い作業が、修得するべき要素作業が少なく、教育が容易に完了するならば、まったく問題はない。しかし、必要性が高くても、適切な段階を経ずに教育を強行してしまうと、作業の修得に時間がかかるだけでなく、新入社員も自己評価を下げてしまい、共倒れのような状況になってしまうことに注意をするべきだ。

次回までの振り返り

 新入社員への教育は、作業の基本的な単位である「要素作業」に着目することがポイントだ。要素作業を修得すると、類似の作業すべてに横展開が可能なので、とても汎用的に活用できる。また、1 つの要素作業で構成される作業を教育の対象にすることで、新入社員は単期間で作業を修得することができる。実際の工程を任せ、実績を早く積ませてあげることで、自信をつけてあげよう。
今月の検討課題
「要素作業」は作業の基本単位。
組む・締める・貼る・曲げる、といった要素作業は、ほかの作業にも展開可能。
・比較的修得しやすい要素作業に着目。
・ 少ない要素作業で実行可能な工程が新入社員の教育対象には適している。

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