icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」

2025.02.07

第6回 新入社員の基礎教育:仕事の全体像を教える

  • facebook
  • twitter
  • LINE

ジェムコ日本経営 古谷賢一

ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
https://www.jemco.co.jp
 現場で使われるコトバ(用語)を教えることができたら、次は自分たちの仕事のプロセスの「全体像」を教えることを考える。たとえば、ある特定の部門(特定の業務担当や生産工程の担当など)に配属をしようと考えている新入社員に対して、その配属先の業務内容や作業内容を個別に教育することも重要ではあるが、それりも、まず自社の「モノづくり」や「生産活動」が、さまざまな部門や人が連携をすることで成り立っていると理解してもらうのだ。

 これは、共感を大事にするといわれている「Z世代」の新入社員が、自分自身が組織を構成する1 つの部品として存在しているのではなく、職場全体が協力し合って仕事をする中で、重要な役割を果たすべき仲間の1 人であることを認識してもらうためである。かつて「組織の歯車」という言葉が使われた時代がある。職場全体がどう動いているのかもわからないまま、ただ決められたことをする、といった状況を揶揄した言葉だ。仕事の全体像を理解してもらうことで、自分が何の役に立っているかもわからないような部品ではなく、重要な役割を担う仲間の1 人として迎え入れられていることを実感してもらうのだ。

生産活動の全体像を理解してもらう意味

 「Z世代」の新入社員に対して、生産活動の「全体像」、すなわち生産工程の最初から最後までを確実に見せることを計画してほしい。残念ながら、多くの工場の新入社員教育では工場見学が「おざなり(場当たり的に工場を見せるだけ)」になっている。新入社員は「お客様」ではない。これから一緒になって働く仲間としてふさわしい扱いをしなければ、敏感な「Z世代」の新入社員は、「この会社は、教育も指導も、手抜きだ」と見抜かれてしまう。「新入社員がすぐにやめてしまう」とお嘆きの企業は、まずこういった入社早々の教育に、真剣に取り組んでいるか否かを振り返るべきだ。

 単なる工程見学ではなく、工程が具体的にどのような作業をしているのか、工程が担う役割は何か、といった工程の「意味」を教えることを重視するとよい。もちろん、新入社員なので基本的な知識はまだ持っていない。ここでの目的は、難しいことをすべて理解させるのではなく、仕事の流れの概略を把握してもらうことと割り切ればよい。工程を説明するには時間も必要だが、このようにていねいな教育を事前に行っておくことで、後日、個別の作業や業務を教育する時に、その作業の意味を理解しやすくなるのだ(図1)。
図1 まず生産活動の「全体像」を理解する

図1 まず生産活動の「全体像」を理解する

「モノ」の流れを教える

 「モノ」の流れを教えることとは、原材料から仕掛品、そして製品まで、生産工程での現物がどう流れていくかを教えることだ。原材料がメーカーから納品され、納品受付から資材倉庫に運ばれ保管される。次に、資材倉庫から生産計画に沿って原材料を生産現場に供給する。そして、生産現場では、生産工程を順々に経由させながら完成品(製品)にする。最後に、完成品は製品倉庫に保管され、適切なタイミングでトラックに載せられて工場から出荷されていく。このような一連のプロセスを順に説明していくのだ。

 詳しい作業の説明でなくても、たとえるならば、高校生の社会見学の人たちに少し詳しく現場を紹介する、といった難易度でもよいだろう。ただし、それぞれの工程で何をしているのか、それぞれの工程の持つ意味などを説明することがポイントだ。特殊な生産プロセスなど、細かいことはたくさんあるだろうが、ここでは一般的な工程を示しながら工程の全体像を教えればよい。

 何もわからず、漠然とした不安を持って就職をしてきた「Z世代」の新入社員にとって、これから働く生産現場では、一体どんなことをやっているのかを知る機会は貴重なものだ。実際、各職場に配属されてしまうと、生産活動の全体像を知る機会はかなり限られてしまう。

「情報」の流れを教える

 もし、「Z世代」の新入社員に多少は難しい話をしても大丈夫だと思われる場合には、「モノ」の流れを教えるために、原材料~仕掛品~製品までの生産工程を説明するだけではなく、「情報」の流れを教えることも考えるとよいだろう。「情報」の流れを教えるとは、生産工程を進めるための、各部門や担当者同士の情報伝達の流れを教えることだ。この場合は、お客様からの受注活動から教えることも必要になる。新入社員が、いわゆる総合職として入社をした大卒社員であれば、このレベルの話を理解するように要求しても問題はないだろう。

 たとえば、営業部門がお客様からの注文を受けたときに、どのような手続きで生産現場にその情報を流すのか。お客様からの注文を受けて、営業部門からの顧客から生産指示をもらった資材部門では、どのような手続きで原材料の調達をするのか。そして、原材料がすべてそろった後は、どのような手続きで現場に原材料を供給するのか。といった「モノ」ではなく「情報」の動き、つまり伝票や業務の手続きの流れを教えるのだ。ただし、ここのレベルの説明の場合、内容が難しくなるので、口頭説明だけでは十分に内容を把握することができないだろう。品質保証体系図や業務フロー図など、このような「情報」の流れが具体的かつ抜け漏れなく、しっかりと書き込まれた資料を準備しておくことが不可欠だ(図2)。
図2 「モノ」と「情報」の流れを説明する

図2 「モノ」と「情報」の流れを説明する

次回までの振り返り

 ベテランの先輩社員でも、「モノ」の流れをすべて把握しているとは限らない。まして「情報」の流れは、自分の業務に直接関係したところしか知らない人も珍しくはない。しかし、これでは新入社員に生産活動の「全体像」を教えることはできない。この機会に、自分たちの工程の「モノ」と「情報」の流れを洗い出し、それを理解したうえで新入社員の教育に役立ててみよう。
今月の検討課題
生産活動の「全体像」を理解してもらう。
・「モノ」の流れ。
 生産活動で、モノがどう流れるのか。
・「情報」の流れ。
  生産活動で、情報伝達どう行われているのか。

関連記事