工場管理 特別企画「人手不足を解決する新しい採用戦略とカイゼン手法」
2025.11.26
第4章 採用を数値化してカイゼンせよ
ユアウィル 木下克雄
数値化せずに採用問題は解決できない
採用プロセスは数値化されているか?
これまでさまざまな採用マーケティングの手法を解説してきたが、これらをすべて実施しても、採用プロセスが数値化されていなければ、採用課題を解決することは困難である。マーケティングにおいても、採用においてもプロセスを数値化することが極めて重要だ。カイゼン活動においては、数値化が現場の課題解決に役立つように、採用プロセスの数値化も課題解決の重要な因子である。
なぜ数値化が重要なのか?
なぜ数値化が重要なのか?理由は2 つある。1 つ目は、施策の効果を評価するためである。どんなに優れた施策であっても1 回で成功することはまれである。そのため継続的な改善が必要となる。改善するためには、実施した施策の効果を評価する必要がある。たとえば、ある求人情報サイトに新たに採用広告を掲載したとする。その結果、何人がその求人情報サイトを経由して問合せをしたかを数値化していない限り、その施策の効果を評価することができない。評価できなければ、その求人情報サイトへの掲載をそのまま継続すべきか、改善すべきかを判断することができない。
2 つ目の理由は、採用プロセスにおけるボトルネックを特定するためである。候補者の視点から見ると、採用プロセスは、求人情報サイトの求人ページを訪問し、興味を持てば「お気に入り」に登録し、問合せ後に面談を行うという流れになる。これらのプロセスを数値化することによって、どのステップがボトルネックになっているのかを特定することができる。たとえば、競合他社と比較して、お気に入りの登録者数が少ない場合、その部分がボトルネックである可能性が高くなる。
やみくもな対策は失敗の始まり
採用広告を掲載したにもかかわらず、面談希望者が少なかった場合、次にどのような対策を行うか?
広告の数を増やすか?それとも広告のメッセージを変更するか?残念ながらこれらの対策は効果をもたらさない可能性が高い。その理由は、原因を特定せずにやみくもに対策を行っているためである。
カイゼンと同様に、採用活動においても、問題を解決するにはまず原因を特定したうえで、それに応じた対策を実施することが効果的である。では、原因はどのように特定すればよいのか。原因と考えられることは数多く思いつく。たとえば、求人情報サイト自体の訪問数が少ないのかもしれないし、求人ページでのメッセージの魅力が不足している可能性もある。また、問合せ方法がわかりにくいことも考えられる。数多くの原因候補の中から絞り込むためには、採用プロセス全体からボトルネックを特定することが効果的だ。
それは、ボトルネックになっているステップが最も優先して解決すべき問題だからである。ボトルネックを特定したうえで、考えられる原因を深掘りし、その原因に応じた対策を講じることで、効果的な問題解決が可能となる。このように採用においても、問題解決のステップで解くことが極めて重要である(図1)。
何をどのように数値化するか?
採用プロセスを数値化する際には、まずはプロセス自体を明確に定義することが重要だ。具体的には、候補者が企業の採用ページを訪れ、関心を持ち、最終的にアクション(問合せなど)に至るまでの一連のステップを整理する。そのうえで、各ステップで何をどのように数値化するかを検討する。たとえば、訪問者数、ページのお気に入り数など、具体的な数値データを収集することが有効である(図2)。採用ページはデータの宝庫であり、これらの数値を用いて採用プロセス全体の効果を測定し、評価することが可能である。このアプローチにより、採用活動の各ステージがどの程度効果的であるかを把握し、改善点を明確にすることができる。
ウェブサイトのようなデジタルではなく、紙での採用のチラシを扱う場合はどのように考えるべきか?紙での採用チラシの場合、デジタルと異なり容易に数値化することは難しい。しかし、この手法は状況によっては対面での会話を通じて候補者のニーズや背景をヒアリングすることが可能である。採用に際して候補者が何を重視し、どのような条件を求めているのかを知ることができるため、ウェブサイト上の情報だけではとらえきれない貴重な洞察を得られる。この対話から得た情報は、求職者が本当に求めているものを理解することに役立つ。
数値化によって解決できた事例
数値化によって解決できた事例として、先に紹介した歯科医院のケースを挙げる。求人情報サイトに採用情報を掲載していたが、半年間採用が決まらなかった事例である。採用が決まらない原因にはさまざまな理由が考えられるが、どのプロセスがボトルネックかを見極めるために、まずは各プロセスの数値化を試みた。その結果、求人ページの訪問者数は多かったものの、お気に入り登録数が他社と比べて極めて少なかったことが明らかになった。つまり採用プロセス全体(図2)においては2 番目のステップであるお気に入り登録数がボトルネックであることが判明したのである。ボトルネックが判明すれば、次のステップは「なぜお気に入り登録数が少ないか」その原因を追求することである。第2 章で紹介したようにペルソナ分析を行い、ターゲットのニーズと掲載写真との間にギャップがあることが判明した。その結果、写真を1 枚変更しただけで、翌週には5 人からの問合せが寄せられたのである。このように、数値化によりボトルネックを特定し、原因を明らかにしたうえで、適切な対策を講じることで問題を解決することができるのである。
これまで採用マーケティングの解説をしてきた。採用活動とマーケティングの密接な関係をご理解いただけたと思う。次章では、埼玉県の製造業の企業が15 人の採用に成功した事例を紹介し、マーケティングの視点でどのような点が成功要因になったのかを解説する。