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型技術 連載「中国の金型業界のリアル」

2025.11.19

第4回 スマート工場が生みだす新しい価値(前編)

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杭州谷口精工模具有限公司 小方 暁子

おがた あきこ:薫事長、OISHIエンジニアリング㈱代表取締役 神奈川県川崎市出身。留学経験後、日本と海外の文化や交流に興味をもち、旅行専門卸業勤務を経て、中小企業向け業務システム会社を立ち上げ。中国浙江省・杭州市にて業務経験ゼロから金型メーカーを事業承継。日本では金型商社事業と工業・農業系地方創生・海外ビジネス交流事業も手がける。
 毎年11 月11 日に開催される、中国最大規模のECセールイベント「ダブルイレブン」。動画SNS のTikTok(ByteDance 社)やAlipay(アリババグループ)のデジタル決済など、日常生活においてデジタル化が進んでいるイメージのある中国。金型業界でもここ2~3 年の間に、デジタル化の話題を目にすることが増えています。

金型業界のデジタル化の推移

 2024 年に成立40 周年を迎えた中国金型工業協会の式典で報告された、中国金型企業のデジタル化過程と今後の発展展望によると、1990 年代においてはCAD・CAE システムは海外メーカー製で導入コストや技術力に高いハードルがあり、大手国営企業・外資企業の中での使用、しかも金型の主要部品設計での使用に限られるなど限定的だったそうです。

 しかし、2000 年代に入ってから急速に中国国内企業でも利用されるようになり、「設計系技術のデジタル化」が一般的になりました。また、1990 年代後半から2000 年代にかけて、CNC・CMM・EDM などの「製造系技術のデジタル化」、さらに金型企業の規模拡大に伴ってERP・PLM などの「生産・管理系のデジタル化」も急速に進みました。成熟した業界がデジタル化の波に乗ったのではなく、業界の急成長の裏にデジタルが存在したというイメージです。

「経験最強」から「データ統制」へ

 製造業の高度化を目指して2015 年に制定された産業政策第1 段階「中国製造2025」も終盤を迎え、金型業界の大企業ではデジタル化・スマート化・自動化は確実に進んでいます。しかし、90 %以上を占めると言われている中小規模金型企業では各社かなり差があるのが現状です。

 広東省の東莞にある金型生産集積地では、中小規模金型企業に分散してしまっている豊富な経験により培われた技術を、どのように次世代に引き継いでいくかが大きな課題となっていました。そこで大規模金型企業1 社を中心とし、地域政府とファーウェイが協力し、一体となってデジタル化プラットフォームを立ち上げ、デジタル意識はあるものの資金や体制、人材に不安をもつ中小規模金型企業が、必要なデータのみを必要なときに利用できる環境をつくり上げました。これにより、金型生産周期が大幅に短縮されるとともに、高標準化された品質保証が可能となり、中小規模金型企業は人材の育成にかけていた時間やコストが大幅に削減され、設備の稼働率も向上していきました。地域全体が活性化し、金型生産集積地全体の質も底上げされ、現在では金型業界の大サプライチェーンがクラウド上に形成され、このクラウドが中心となって新しい金型ビジネスモデルを形成しています。

デジタル工場からスマート工場へシフト

 付近にある小規模金型企業の中には、1990 年代やそれ以前に国家級認定証を取得した、手作業の匠が活躍している現場も数年前までは残っていました。しかし今はそういった金型企業もほぼなくなってしまったようです。まさに、工作機械1 台に1 人が配置されていた時代から、1 人で同系工作機械を数台操作する時代に変わり、現在はオペレーターすら必要としないスマート化へと確実にシフトしているのです(図1)。
図1 金型と成形業界におけるスマート工場白書(上海特格高材技術服務有限公司・陳代表執筆)(写真提供:小方暁子)

図1 金型と成形業界におけるスマート工場白書(上海特格高材技術服務有限公司・陳代表執筆)(写真提供:小方暁子)

 オペレーターを育成する必要がなくなり、工作機械や成形機は24 時間監視され、異常が発生すれば自動的に記録し、場合によってはリスタートされます。工作機械というハードに、それらをよりスムーズかつ自動的に動かすソフトウェアや自動測定機、AGV(無人搬送車)など業務標準化・自動化ツールを組み合わせて、最適なAPS(生産スケジューラ)管理を自律的に行うスマート工場は、人に依存していた日常業務から解放され、生産活動の「見える化」と全方位のデータ収集・蓄積、フィードバックが自動的に行われる環境の中で、重複作業のムダや人的事故発生リスクを減らし、安定して高品質な製品の生産を可能にしています。

 「デジタル」、「スマート」のレベルは各企業さまざまですが、例えば江蘇省にある蘇州誠模精密科技有限公司は金型設計+金型製作+成形の工程に関わるデータを蓄積・最適化し、製造周期の短縮と製造コストを最大限に抑えるスマート工場とサービスで、顧客から高評価を受けています。

 また、上海特格高材技術服務有限公司(図2)との協力体制のもと、自社内に樹脂材料分析部門をもち、材料分析サービスも展開しています。このデータは、金型設計時の流動解析や成形条件などに必要な基礎データとして登録され、シミュレーション技術の向上などにも役立てています。このスマート工場は、技術がまったくわからない文系大学の新卒者が、社内で3日間の研修を受けるだけで工作機械オペレーターとして現場で作業ができるようになると言います。今までのように何年もかけて技術を習得する必要がないため、好奇心旺盛な若い世代も、飽きずにいろいろな工作機械や現場に興味をもって短期間に才能や潜在能力を発揮してくれそうです。
図2 上海特格高材技術服務有限公司にて陳代表と(写真提供:小方暁子)

図2 上海特格高材技術服務有限公司にて陳代表と(写真提供:小方暁子)

■取材協力
上海特格高材技術服務有限公司(蘇州事務所)
蘇州工業園区九章路69 号 恒泰理想創新大厦B 座1105 室

蘇州誠模精密科技有限公司
蘇州市呉江区黎里鎮汾楊路東側

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