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プレス技術 連載「モノづくり革新の旗手たち」

2025.07.25

プレス加工メーカー3 社を束ね金型技術のさらなる強化を推進 高付加価値経営に挑む―新栄ホールディングス

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㈱新栄ホールディングス 代表取締役
中村 新一氏

ホールディングス経営は人・モノ・金の運用で圧倒的に有利

母体となった新栄工業はどんな会社ですか。

父親(中村甲三氏)が1978 年創業したプレス加工メーカーです。後発だったこともあり、すでに参入余地が少ない自動車や家電ではなく、建築を中心にできるものは何でも作るようになりました。当初は中村工業という会社名でしたが、私が中学生のときに父親が新栄工業と改名。新一の代まで栄えるようにという意です。今思えばありがたいのですが、当時は思春期でもあり、勝手に自分の人生を決めるなと反発していました。私自身はその後、バンド活動に明け暮れ、全国ツアーにまわるなど入れ込んでいました。
順送ライン(新栄工業)

順送ライン(新栄工業)

変わったきっかけは。

結婚して子どもが授かったときに腹を括りました。父親に駅前の居酒屋に出てきてもらって「ごめんなさい。会社を継がせてください」と頭を下げて入社しました。回り道をしましたが、これがなかったら継いでいなかったのかもしれません。それなりに勉強もできたので平穏無事に大学に行って別な人生を歩んでいたと思います。

当時の職場の課題は。

生産の統制がまったく取れておらず、納期遅れや欠品などトラブルが頻出していたことです。それまでは母親が朝イチで各人に仕事を割り振って、それぞれが好き勝手に動いても回っていました。ところが、私が入社した頃から仕事が一気に増え、年商も数年で倍以上、12 人だった従業員はすぐに20 人を超えてきました。すると、このやり方が破綻。母親が電話越しに怒鳴られて泣いているのを見て、これはもう厳しいなと思って私が代わりに生産統制をやることになりました。

どんなことをされましたか。

生産統制は要するに生産計画をきちっと立てて業務を進めることです。待ったなしの状況でしたので、強引に進めたら現場から猛反発されました。大揉めしてケンカにもなりましたが、それでも生産統制を進め、少しずつ形になっていきました。辞めていく従業員もいましたが、意外と真正面からぶつかった方が理解し合えると思いました。新しいことに取り組むときは意義を一生懸命に伝えたうえで付いてきてもらえないのであれば仕方ないと思っています。そこは経営者の責務としてやるべきだろうと思います。
綿密にスケジューリングされた生産計画(新栄工業)

綿密にスケジューリングされた生産計画(新栄工業)

山内取締役が入社されたきっかけは。

山内

もともとは大手商社に在籍、新栄工業に発注する側にいました。中村が社長になる少し前に出会ったのですが、そこから5 年ほど一緒に仕事をしました。その頃はもう生産統制も軌道に乗っていた頃です。その後、働いていた商社に物足りなさを感じて転職、別会社にいたときに一緒にやろうと声を掛けてもらい新栄工業に入社しました。

現在の役回りは。

一つは、ホールディングス全体で統制していく取組みです。ホールディングス全般の管理、注文の管理をはじめ、財務・会計・経理に関してホールディングスで一括管理するのが当面の目標です。せっかく3 社が集まっているので我々のホールディングスに合う形で底力を上げていく仕事になります。もう一つは新栄工業の取締役として一つひとつの仕事を数字的に精査しながら利益率を良くするよう徐々に入れ替えていく仕事です。

ホールディングス経営のメリットは。

中村

子会社間だと資金や人材を簡単に融通し合うことができます。調達に必要な資金も銀行や親会社から融資してもらうよりもスムーズに借りることができます。人の移動も同様です。今、暇な会社から忙しい会社へ出向させるといったことが簡単にでき、異動した次の日から即戦力となります。財閥解体以来、1997 年に独占禁止法が改正されるまで日本企業は持ち株会社の設立が禁止され、ホールディングス経営ができませんでした。ですが、実際にやってみるとリソースの案分がしやすく、経営に集中できることを実感しています。金型市場はやがて売り手市場となる

昨年、新たに金型専門会社を立ち上げました。

アポロ工業の技術部を分社化してアポロ技研を設立しました。3 社で使う金型を一手に引き受けて仕事量の平準化を図ると同時に特定の産業に依存せずに金型技術承継のプラットホームとすべく分社化しました。この先、金型が手に入りづらくなると金型は売り手市場になるはずですので、外部への売り型も視野に入れています。

最近の金型ビジネスに対する印象は。

私は金型事業は必ず儲かると考えていますが、今そうなっていないのは正しい評価がされていないからだと思っています。例えば、現状、金型設計では費用を請求できていません。金型に求められる機能・性能はますます高度化し、担い手の育成に多大な時間やお金が掛かるにもかかわらずです。評価を変えるには決算書できちんと赤字を見える化し窮状を訴えることが第一歩です。プレスと金型が一体化していると金型の不採算ぶりが数字上見えづらくなります。
金型置き場(新栄工業)

金型置き場(新栄工業)

「技術」ではなく「経営」が仕事を増やす

仕事を増やすために大切なことは。

中小企業の持ち駒は少ないということを念頭におくことです。少ない持ち駒を有効活用するには戦略が必要ですが、その立案に必要なのは地道な作業です。会社の課題を正確に把握しているか、決算書をきちんと読めるか、営業項目を増やすにはどうするかといった積み重ねです。結局、当たり前のことをバカになってできるかどうかであり、近道はないと考えています。

今後の目標は。

山内

中小企業に必要なのは煎じ詰めれば属人化の解消です。たとえば、中小企業の決算書作成などは税理士に丸投げされているケースが多く、ブラックボックス化しています。そこを我々はホールディングスに集約、デジタルを活用して属人的な環境から脱却させるということを当面の目標にしています。いかに効率的に動かしていくか、そのためにDX が必要なのだと思います。

中村

ホールディングス全体では5 年後に年商30 億円を目指しています。今の年商は3 社合計で14.5 億円(非連結)なので倍となります。我々の経営が中小企業に有効であることを実証するために必要なのが30 億円だと考えています。そのためにも今後もM&A も積極的に進めていきますが、そのためには人材が必要です。特に山内のようなマネジメントできる人材が必須となるため、採用に力を入れているところです。
なかむら しんいち:1975 年生まれ。49 歳。2004 年、新栄工業入社、2014 年、社長就任。2023 年より、新栄ホールディングス社長、アポロ工業社長を兼任。家族は妻と一女。趣味はゴルフ、ドラム演奏。
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