第3回　中小金型企業の生きる道

　最近、とある金型企業の倒産のニュースがちょっとした話題になりました。
　この企業は「2022 年にわざわざ激戦区の江蘇省・昆山で開業したからには、よほど良い案件があっての起業だったのだろう。それなのに2 年足らずで破産申請、しかも資産残高が約10 円？ 加工設備も価値がなかったのか!」と注目されたのです。みなし資本金約4,000 万円で、決して大きくない規模の金型企業でした。

　中国で統計上利用されている企業規模の定義（表1）によると、金型企業で大企業と呼ばれるのは約500 社、これは金型企業全体の5% 未満とも2% 程度とも言われています。金型業界内では、年商・専業兼業・従業員数などで規模感が伝わります。しかし、業界以外の方と話をしていると金型に対する理解が浅いためか、不思議そうな反応を受けることがあります。そのときは年商2,000 万元以上を意味する「规上企业」という中国語で表現しています。みなし出資での会社設立が認められていたこともあり、資本金の額よりも年商や従業員数を重視する傾向にあります。

　大気汚染防止対策の徹底ということで、1 週間以上生産停止・減産を余儀なくされ、予想外の対策費用もかかったという地域がありました。急に来てすぐに対応を迫られるため困るという話は、中国に進出している日本企業からよく聞かれます（図1）。しかし、同地域にあるローカル金型企業の方は「数日前から知っていたので生産に影響はなかったけれど、対策費用の出費はしようがないよね」と笑っていました。彼らにとっては日常のようです（図2）。

　この話に続いて、「中小企業を取り巻く環境は厳しいが、実力を試されている時期なのだ」という話題になりました。A 社の社長は、ムダな社員を増やさず案件を選び、横のネットワークで業務範囲拡大を試みていると語り、B 社も同じく案件を厳選した結果、あえて受注しない案件が増えたと言います。それと同時に、未収売掛となっている案件を徹底的に消す作業をしているという話をし始めたとき、その場にいた全員が「それだよ!」と前のめりになりました。　

　中国で金型代は「5-5」、「3-6-1」、「3-3-3-1」などの支払い形式（表2）が一般的であり、内金が支払われないケースはほぼありません。しかし、契約書上定められている納品や検収の手続きが行われないまま生産ラインに投入され、問題が発生すると原因分析する間もなく金型改修や修理を求められたあげくに、問題のある金型だから検収できないと言われ、残金が永遠に支払われないケースが多発します。金型代全額を回収するサイクルが長く、いつ回収できるか読めないという現状が、中国の経営者を悩ませています。

　契約は購買部門、図面のやりとりは技術部門、試作トライは成形部門など、顧客の対応窓口担当者が多くたらい回しになるなど、回収作業は難航します。さらに、請求書の発行は最後の支払い時と定められることが多いため、各窓口担当者が社内処理をしない限り、請求書の発行さえできません。したがって、帳簿上問題が表面化しにくい傾向にあります。納品時に図面も金型も渡し、受取りサインがあっても、対応窓口担当者が変わってしまうと回収はほぼ絶望的になってしまいます。　

　こういった一連のやりとりに辟易し、本当に金型の品質に問題がなかったケースでも、売掛金回収をあきらめて連絡を絶つ金型企業が多くあるのも事実です。顧客から見れば品質が悪い・サービスが悪いという評価になり、技術部門は新しいサプライヤーの技術力を評価するため契約前から金型図面を要求したり、購買部門はKPI達成のためにさらに値下げ要求したりするといった悪循環が生まれています。

　中国の金型生産力が伸び、金型輸出企業が増えています。一方で、顧客である中国国内企業の経営者から「良い金型屋さん紹介して」と言われることも多くなりました。彼ら自身も、海外の顧客からのクレームや、コピー品問題が訴訟に発展するなど頭を抱えているためです。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　A 社やB 社のように、自社にとって今何が必要なのかを経営者自ら真剣に考えている企業と、自社にとって「良い金型屋さん」を探している顧客がうまくつながるようになれば、新たな発展の道が開けてくることでしょう。