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プレス技術 連載「モノづくり革新の旗手たち」

2025.09.05

板金DXと自動化推進で生産能力強化を徹底 多品種少量の顧客ニーズに応える―林製作所

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㈱林製作所 代表取締役
林 司氏

 1927 年創業の林製作所(群馬県高崎市)は、試作から量産までを手掛ける板金加工メーカー。精密板金加工技術を軸に一貫生産を展開、成長を遂げてきた。最近では積極的な設備投資やDX導入による生産性向上、およびマーケティング、プロモーションの徹底による営業強化により、大幅に業績を伸ばしている。同社の四代目社長となる林 司氏に同社のこれまでの歩みと、これからの戦略などについて聞いた。

一貫生産で付加価値向上を実現

『プレス技術』編集部

再来年に創業100 周年を迎えます。

創業者は祖父の兄、その後、祖父と父がそれぞれ二代目、三代目を担い、私で四代目となります。当初から板金加工とプレス加工をやっていたようですが、もともとは1927 年(昭和2 年)、下落合(東京都新宿区)で創業し、戦禍を逃れて高崎に疎開、そのままこの地で事業を継続しています。高度成長期に入った頃にはメーカーとして手回しの洗濯機を開発し、世界中で40 万台という大ヒット商品を生み出しました。1970 年にメーカー事業を一旦精算して、あらためて加工業として再スタートして今に至ります。精密板金分野に移行したのが1982 年頃。出始めたばかりのNCタレットパンチプレスを先代(林進氏)が導入したことがきっかけです。
カモメホームブランドで販売された自社製品の手回し洗濯機「カモメ洗濯機」。世界中で40 万台以上を売り上げた。

カモメホームブランドで販売された自社製品の手回し洗濯機「カモメ洗濯機」。世界中で40 万台以上を売り上げた。

現在の事業内容は。

精密板金加工を軸に多品種少量生産に特化、試作から300 個程度までの少量量産を守備範囲としています。プレス、溶接、表面処理にも対応し工程一貫生産できるのが強みです。プレス加工も板金部品の一部に絞りが入っているなど形状的にプレスでないと作れないものが中心です。
作り物は様々な機器の筐体、フレーム、シャーシからその内部パーツまで手掛けています。ATM などの機構部品も板金で作っていましたので、精度に厳しい仕事によってさらに技術力が鍛えられました。取引先はグループ全体で当社の売上げの25% を占める1 社を除けば、多くとも1 割以下。業界も偏りなく分散されています。幅広く様々な業界から仕事を受注しようというスタンスは昔から変わっていません。
溶接作業

溶接作業

カバー部品

カバー部品

自分の得意分野で会社を強化する

社長ご自身は入社のいきさつは。

入社は2006 年、29 歳のときです。それまでは音楽業界で制作の仕事をしていました。ミュージシャンやそのイベントにまつわる企画・制作から流通・マーケティングに至るまでの仕事です。いろいろ仕掛けては結果を出すというのが好きでしたので、経営者になりたいという想いが強かったと思います。もともと家業を継ぐとは思っていませんでしたので、いろいろ悩みましたが、経営者になるのならせっかく実家が会社をやっているのだからそれを継ぐのが良いのではないかと思うようになりました。

製造業の世界に入った感想は。

堅いイメージのあった製造業ですが、実際、飛び込んでみると印象が変わりました。地元高崎は製造業同士の関係が良好ということもあり、先輩経営者から事あるごとに助けていただきました。良い意味で破天荒な先輩も多く、自由に好きなことをやっていいんだと背中を押していただき、肩の力を抜くことができました。

入社後は何をされましたか。

現場にいたのは半年ほどですぐに営業や管理を任せられました。事業承継には、いろいろな考え方があると思いますが、これは先代の考え方なのですが、現場でいくら長期間修行してもベテランに勝てるわけがなく時間もかかり過ぎます。ならば、今まで会社がやってこなかった部分を強化する役割を与えようという考えでした。
実際、新しい取引先を増やしたり、展示会に出るようになって取材してもらう機会が増えてくることで少しずつ後継者として認めてもらえたのではないかと思っています。技術的知識についても、精密板金ではひっきりなしに見積もりが必要になり、都度勉強しなければならないため、思った以上に早く身に付きました。まさに毎日、千本ノックをやっているような感じでした。

業務をこなしていくなかで気になったことは。

入社当初、生産管理がされていなかったことです。仕事が混んでくると自分が取って来た仕事がいま現場のどこにあるのかもわからない状態でした。これではいけないと、市販のデータベースソフトを使って生産システムを自作して対応していました。今は最新の専用システムを導入していますが、生産管理の考え方の根幹部分は自分が作った原型が基になっています。

営業に対する考え方は。

「仕事をください」という営業は基本的にはしないようにしています。仕事を下さいと言った時点で、どうしても上下関係になりがちだからです。そのかわり、重視しているのは「マーケティング」と「プロモーション」。製造業なので人・技術・設備はあって当たり前です。勝負はそれをいかに知ってもらうか、ひいては当社に頼みたいと思ってもらえるかというところです。
当社としてはお客様とはパートナーという関係でいたいという想いがあります。そのため積極的に「こんなことができます」「こんなメリットがあります」というPR をして、興味を持っていただいたお客様からお声がけいただくようにしています。また取引先の数が少ないと、フラットな関係を築くことは難しくなるため、できるだけ取引先を増やし、売上を分散するようにしています。そのためにもマーケティングやプロモーションという手法は重要だと考えています。

人と設備、相乗効果を狙う

客先が増えてくることによる課題は。

管理工数が増えることです。材質や加工内容は多岐に渡りますし、発注の仕方もファクス、メールなどまちまち。さらに伝票も指定伝票の有る無しや、有る場合も会社ごとにフォーマットが必要になるなど手に負えなくなります。実際、私が社長になり、60 社ほどだった取引先が150 社ほどに増えていますが、客先が増えて売上はそこそこあるのに利益が出てこないという現象が起こりました。いろいろなところに非効率が発生しているのが原因です。5~6年前から板金DX による見える化に取り組み始めています。
DX ツールによる管理

DX ツールによる管理

生産上の課題は。

一番のネックは段取り替えです。なので、使用する設備も加工スピードが速いとか、1 台で何でもできるという機種よりも、いかに段取りをなくしていけるかという観点で導入しています。当社ではパンチレーザ複合機や金型自動交換システムを導入して工程集約することで段取り替えをしない仕組みを作りました。
パンチレーザ複合機

パンチレーザ複合機

一連の取り組みの成果は。

2018 年頃から始めて、この2 年くらいで顕著な効果が出始めました。複合機を上手く使いこなせるようになるとみるみるうちに生産性が向上し、これまで5 台の機械で5 人でやっていた仕事を今は2 台の複合機を1.5 人で回しています。さらに生産性向上効果で夜の時間も使えるようになり、その時間に無人運転も実施しています。結果、売上についても25% ほど増えています。

設備投資する際の留意点は。

設備の増強だけでなく、人の能力の強化も同時に進めることです。機械を入れても、結局使うのは人間だからです。機械を入れることで仕事の流れが変わったり、人の役割が変わるので作業者や組織の方もそれにマッチした新しいやり方に改善していく必要があります。
また、いつ頃どういう機械を導入するか、その時必要になるスキルと逆に必要でなくなるスキルを事前に社員にアナウンスしてあげることも大切です。例えば、タレパンの金型交換は以前は手動でしたが、最新の機械では自動です。当然、金型交換時間の短縮に努力してきた担当者にとってはいままでの努力は何だったのかということになるはずです。社員のモチベーションを高めるためにキャリア形成をサポートすることは経営者の責務だと思っています。
さらに設備投資をしたり、それに見合う量の仕事を受注するためには、ある程度のキャパシティが必要になります。特に今後は、ローエンドの板金設備は出づらくなり、ハイエンドが主体となると見られています。自社に必要な設備を必要な時に導入できるだけの資本力・規模感は必要です。
ベンディングロボット。今後積極的に導入予定という。

ベンディングロボット。今後積極的に導入予定という。

社会に貢献し、生かされる会社になりたい

SNS などで積極的に情報発信されています。

SNS 利用については、当社は町工場の中ではトップランナーだと自負しています。ただ、最近はSNS 利用と連動して、リアルなイベントにも力を入れています。4 月29 日には工場の開放イベント(オープンファクトリ)を実施する予定です。社員の家族や地域住民、SNS で繋がりのある方など一般の方を対象に普段見られない工場の中を見ていただきます。
町工場にとって近隣住民との関係は重要です。最近は当社の周辺も宅地化が進んでいるので、音ばかり立てて休日にもトラックが出入りしているこの会社は何をやっているんだろうと思っている方も多いと思います。これを機に私たちの会社を知ってもらいたいと思ったのが動機です。もちろん、新たにできる繋がりから、いずれ当社で働いてくれる方も出てくるかも知れません。そうした効果にも期待しています。

どんな会社にしていきたいですか。

「ぜひこの会社に仕事をやってもらいたい」と言ってもらえるような会社になることです。板金加工業について言えば、当社で作れるモノは他社でも作れます。差別化要素は少なく、安いか、速いか、キャパがあるかの違いです。それらは確かに重要な要素ですが、一方で企業価値を高め、社会や周辺地域と融合し大切に思っていただくことも町工場にとっては必要な要素だと考えています。
当然、営利企業なので今よりも儲かる会社になりたいと思っています。それによっていろいろな仕掛け、例えば、オープンファクトリのようなイベントの費用も捻出でき、さらに会社の認知度も上がって新規のお客様の目にとまる機会も増えてくるはずです。あるべき会社のかたちは企業風土によっても異なり、「正解」はないのかもしれません。考慮すべき様々な要件や制約があるなかで、それぞれの理想像に向かってしっかりやるべきことをやった会社が生き残っていくと思います。当社もそれを一つ一つクリアし、ステップアップしているところです。
プレス工程

プレス工程

はやし つかさ:1978 年生まれ。46 歳。音楽制作会社を経て、2006 年、林製作所入社。2018 年、代表取締役就任。家族は妻と中2 男、小5 女。趣味はスキー。

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