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機械技術

2025.12.12

自動化の運用と加工条件の追求で収益性向上に取り組むー東豊精機

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 高機能な工作機械の導入や各種産業用ロボットを活用した自動化により生産性を高め、付加価値の高い工程に人員を配置することで、収益性の向上を目指す取組みが進んでいる。一方で、切削速度や送り量などを見直して、より効率的な条件を追求することでも加工時間を短縮し、利益を増やすことは可能だ。東豊精機(岡山市東区)は、自動化の運用と加工条件の最適化で収益性を高めている。加工の原理を再考し、基本に忠実な手堅いアプローチで品質と生産性・収益性の向上を両立する。

国内外の民生銃大手メーカーに部品を供給

 東豊精機の主力製造品目は民生銃の部品。銃は発砲する際、実包(弾丸)の火薬の爆発により、内部で瞬間的に莫大なエネルギーが発生する。10万発を撃ってもその衝撃に耐えられる耐久・耐熱・耐摩耗性が必要なことに加え、高温・氷点下など過酷な使用環境でも常に安全かつ精度が維持されなければならない。そのため、極めて厳格な品質基準が定められている。そうした特殊な製品である民生銃の機関部品を手掛けているのが東豊精機である。たとえば、実包を装填し、発射する機構の部品や持ち手部分の骨格の役目を果たす部品。材質はクロムモリブデン鋼が多い。装填・発射機構は「レシーバー」、「ボルト」、「スライド」、「ロッキングブロック」などの部品で構成される(図1)。これらの部品の名称は一見すると一般産業機械の部品と大きな差は感じられないが、銃器においては弾丸の装填・発射を正確に行うためのさまざまな精密部品と接続し、正確な動作が要求される。骨格部品は銃を構える際に頬をつける部分の「銃床部」や握る部分の「前床部」を接続するため、操作性に影響を与える。機能面と操作・使用感の両方に関わる部品である。

 同社はこれらを各種マシニングセンタ(MC)やターニングセンタ(複合加工機)を運用し、製造する(図2)。銃はたとえ、軍需用でなくても、重工業関連や精密機械部品の大手メーカーが製造し、自社内で部品製造も行っていることが多い。そうした中で、東豊精機は海外と国内の銃大手メーカーに供給する。
図1 民生用ライフルの発射・装填に関する重要な部品の一つ「バーボルト」

図1 民生用ライフルの発射・装填に関する重要な部品の一つ「バーボルト」

図2 複合加工機にロボットを活用

図2 複合加工機にロボットを活用

2 つのアプローチで品質と生産性・収益性を向上

 1980 年にNC 旋盤やMC を導入し、その後は自動車部品の加工を主力にし、工作機械の効果的な運用や生産管理など、現在の基盤技術の土台を構築した。自動化への取組みも早く、多関節ロボットがMC へ材料を着脱するシステムを導入。現在も安定して稼働する。ロボットが材料の着脱を行っても品質が変わらない形状の部品に対しては積極的に自動化による省人化を行い、高度な作業が必要な工程に人を配置し、生産性を高める仕組みを構築している。

 そうした中で、吉鷹隆之輔取締役専務(図3)は、改めて、モノづくりの原理・原則を再考し、生産性をより高める最適な仕組みの構築を模索する。                                                 
図3 吉鷹隆之輔取締役専務

図3 吉鷹隆之輔取締役専務

「収益性を高めるということは、求められる形状や寸法を満たしたものを短い時間でつくり、限られた時間内になるべく多くつくること、加えて多品種少量のモノづくりに対応する体制を整えることが今後のニーズに適合するはずです。機械加工の場合は1 回の工作機械の動作で品質に影響が出ない最大の量を除去すること。つまり、最小の掴み替え回数で品質をつくり込むこと。加えて、切込み回数を小さくして高速加工を行うことなどの工夫で加工時間を短縮し、生産能力を最大化することで、最終的に収益につながるはずです。物事は単純ではありませんが、加工に影響を与える因子を整理し、最適化する必要性を感じています」(吉鷹専務)

 東豊精機が手掛ける部品は、溝やポケット、切欠き、平面など寸法や表面品質がポイントになるものと、同軸度や真円度など幾何公差がポイントになるものが多い。穴の加工も多く、精度基準が厳格なものばかりだ。要求仕様を満たす品質を維持するには、これまで蓄積した知見をフルに活用し、最適な手順や管理方法で生産体制を構築してきた。

 「早く削ろうと考えて、一度の切込み量を大きくすると品質が崩れてしまう。その原因は何かと考えると切削負荷です。でも、突き詰めていくと切削負荷が小さい領域が判明する場合もあり、そういったところでは切削速度を高めながら工具摩耗が抑制できます。工作機械や工具が高機能化している中で、差をつけようと考えたら小さい積み重ねだと考えています」(吉鷹専務)                                                       
                                                                                   
 また、品質を維持しながら生産性を高める方法として、「ワークの掴み替え回数の削減」を吉鷹専務は指摘する。「掴み替えのたびにバリが生じてしまう」(吉鷹専務)ためだ。掴み替えの削減を狙って活用しているのが、複合加工機である。材料をチャックで掴みながら、内径や外形の旋削と縦方向からのフライスによる平面加工、ドリルによる穴あけを行う際に掴み替えをなくすことでバリを抑制し、バリ取り工程を削減している。

「特別なことではないですが、やれることをしっかりやり切ることで品質の維持と効率化につなげていきたい」と、真摯に取り組む。

既存技術を磨いて新しいノウハウを蓄積し、取引先を広げる

 MC・ロボット、複合加工機といった高機能設備の活用と加工条件の追求という地道なアプローチで生産性と収益性の向上に取り組む東豊精機。

 吉鷹専務は「従来通りの考え方で仕事をこなしていくだけではコスト競争から抜け出せず、その産業が衰退したときに対応ができない。品質や生産性を向上させる方法を研究して従来の取引先にはさらなる優位性を提供できるように、既存技術を磨きつつ、新しい技術導入にも挑戦することで、当社の付加価値を高めていきたい。その価値を効果的に提案して取引先を増やしていきたい」と方向性を思い描く。

「これまでの銃部品の製造の知見・経験の蓄積をさらに磨きながらほかの可能性にも展開していきたい。ワクワク感をもって、社員とともに新しい挑戦をしていき、お客さまに喜んでいただける新たな付加価値をつくり、提供していきたい。世の中の困りごとに寄与できるような、モノづくりを目指していきたい」と自らがリーダーシップを示していく。 (編集部)

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