機械技術 巻頭インタビュー「独自技術で光る日本の機械加工現場」
2026.05.29
金型に関する知見と機械加工技術を活かし、ニーズに応える事業をデザインする―南海モルディ
南海モルディ㈱ 代表取締役社長 MOLDe 製品開発室長
福原千里氏
Interviewer
オーエスジー㈱ 今泉英明
金型材料の卸販売や各種金型・治工具の製造、リバースエンジニアリング、省力化システムの開発、特殊材料の成形といった、加工とその後工程に関する事業を広範囲に展開する南海モルディ(堺市堺区)。自らの技術を絶えず磨きつつ、蓄積した知見を社会の課題解決につなげる意識で顧客との信頼関係を構築してきた。そんな同社で将来を見据え、独自のモノづくり技術の確立に向けてリーダーシップを発揮するのが福原千里社長だ。目指すモノづくりや人づくりについて聞いた。
MOLD とDESIGN が社名の由来
今泉
金型を意味する英単語「MOLD(モールド)」が社名の由来ですね。
福原
「DESIGN(デザイン)」の意味も込めています。MOLD には2 つの意味があります。名詞では「金型」です。動詞では「(~を)形づくる」です。社名には当社を支えてきた金型事業の軌跡と「お客様のニーズに応えるために事業をデザインする」という未来への思いを込め、2022 年に社名を変更しました。旧社名は南海鋼材です。祖父・一晴が創業したときから現在まで、鋼材の販売が主力事業の1 つではありますが、加工も手掛けており、さらに近年は溶接や樹脂成形に関する事業も始めているので、業態と時代に合わせて社名を新たにしてスタートしました。
今泉
祖業を継続し事業領域を広げたのですね。
福原
終戦後まもなく事業を始めた祖父によると、売主と買主を仲介する「ブローカー」に近かったそうです。取引先も、機械産業よりも刃物の製造業者・職人の方が多かったと聞きました。堺は刃物の一大産地ですからね。刃物業界を相手に地道に商売を継続して取扱い材料商材の幅を広げ、徐々に規模を大きくしていったのでしょう。
2 代目は父・實晴です。大学卒業後、一般企業に就職し、祖父が病に伏したことがきっかけで当社に入社しました。父も祖父の志を継ぎ、誠実に鋼材の販売を継続しました。父が工夫した点は、特殊鋼の中でも特に熱間工具鋼の仕入れ在庫に特化したことです。また発注時に重量を確定させることで購入者側が伝票処理をしやすく、短納期でもあったため、重宝していただけるようになったそうです。金型業界との付き合いも父の代から本格的に始まりました。
今泉
おそらく時代的に金型に関する需要が多かったのでしょうね。
福原
時代的な背景に加えて、父は自動車業界と取引実績をつくることが悲願でした。自動車業界と取引実績をつくるには、金型をきっかけにするのがよいと考えたのです。さらに金型材料の販売だけでなく、金型や治工具の製作を手掛ける機械加工業者の側面をもつようになったのもこの頃からです。金型材料の販売で取引きがあった金型メーカーが事業を整理する際に、そこで働いていた技能者の方々に入社していただき、加工事業を始めました。事業展開で転機になった出来事の1つです。
今泉
顧客に寄り添う事業展開の仕方が良い縁につながったのだと思います。
福原
父のマインドや立ち振る舞い方は共感でき、参考になります。明るくてリーダーシップを発揮しながら周囲の協力を得ていくことに父は優れていると感じます。加工事業を始めたのは私がまだ幼かったときですが、家でモノづくりに関する事業を営んでいることは認識していて、父の家での様子もはっきり覚えています。大変なことは間違いなくあったはずですが、明るく朗らかでした。そのような様子を見ていたので、幼いながら「父と働くのは楽しいだろうな」と感じ、小学校4 年生のときに「自分が事業を継ぐ」という意志をもちました。自動車部品メーカーを経て、父が社長として在職中に入社し、新規事業である金型に関する自社製品の開発を任せてもらいました。
自動車部品の鍛造金型の加工サンプルと肉盛り溶接サンプル
材料卸・加工・自社製品開発など多事業展開の強さ
今泉
自社の強みをどのように認識していますか。
福原
さまざまな事業を展開していることです。祖業の材料販売を継続しながら、機械加工を自社で行うことができ、さらにリバースエンジニアリング、金型加熱や溶接システムなどオリジナル省力化システムの販売、金型のリユース、成形といった事業により顧客が広がっています。また、材料の調達ルートを確保していることは納期管理の面や試作加工の行いやすさなど、加工事業者として大きな利点になります。逆に加工事業を手掛けていることは、材料の販売をするうえでも役立ちます。加工現場があることで、顧客の立場でのモノづくりを理解し、それに合わせた提案ができます。リバースエンジニアリングは金型とは違う一般機械部品の製作依頼をいただくことが多いので新規顧客や新しい知見を獲得する機会になっています。
多事業化の中でもオリジナル製品事業は、最も提案要素の高い事業と思います。金型ユーザーの生産性向上や金型の高機能化に関する提案に加え、金型メンテナンスや修理に関する提案のきっかけにもなり、当社の存在価値を高められると感じる事業です。自社の現場でも使用することで、金型補修コストや納期管理の最適化も可能になります。
今泉
切削加工に携わる者としては金型加工に興味があるのでもう少し話を聞かせてください。
福原
短納期を追求しています。そのためのポイントが機械加工で可能な限り形状精度を出すこと。顧客の狙いをていねいに聞き出し、「本当に手作業での磨きが必要なのかどうか」ということを確認します。実は顧客側で過剰な品質を求めている場合もあります。打合せをして、金型の現物を見てもらうと、「ここまできれいに仕上がるなら磨きは必要ないね」と言っていただけることは結構あります。顧客に納得していただける加工品質を保つには、適切な工具の選定や工作機械がその性能を発揮するための加工データの作成に加え、切削工具の送り量や回転数など加工条件を理解する必要があり、その知見があることが強みです。
現在、現場はベテランの工場長が率いています。入社時から新しい切削工具や加工手法を活用してきた技術者で、固定観念をもたずに、合理的な手法を取り入れているので、安心して任せています。
今泉
ご自身が担当されているオリジナル製品についてももう少し詳しく教えてください。
福原
大学ではロボット制御を研究し、前職では歯車の機能の検証やベアリングの品質管理を担当してきました。そういった経歴なのでオリジナル製品の事業を任せてもらいました。最初に手掛けたのは金型加熱装置です。顧客のニーズから父が発案し、私が製品化を担当しました。金型の大きさや扱う材料によって、温まり方や必要な温度に達するまでの時間が違うので、販売スキームの構築が非常に難しかったです。
本格的に開発に携わったのは、金型肉盛り溶接システムです。溶接は作業者の技能的な要素が多く、それらをソフトウェアや機械で適切に制御するのは想像以上に難しかったのです。製品化に8年かかりました。さらに肉盛り溶接のオフラインティーチングシステムの開発・製品化も手掛けました。より品質のよい肉盛り溶接にする余地はまだまだあるので、継続してシステムのブラッシュアップに取り組んでいます。
肉盛り溶接システムの開発メンバーと加工試験の結果を確認する
既存事業も新規事業も絶えず磨き続ける
今泉
御社には若い人材も多く、展示会などでも積極的に来場者への対応をされているようですね。
福原
月並みですが、当社に興味をもって入社してくれた人材は大切に育てて、楽しく働いてほしいという思いで向き合っています。年収1 千万という水準ではないけれど、不自由をしない給与で経済力をつけてもらって「南海モルディで働くのは楽しい」と思って毎日出社してほしいです。一方でそうした会社であるためには社員の方々に意識してほしいこともあります。たとえば、顧客の話をよく聞いて、顧客の課題や次にやろうとしていることを感じ取ってほしいのです。顧客が言っていたことや次の展開につながりそうなことを簡単に報告してくれるだけでいいのです。それが自然にできる人材が、巡り巡って大きな案件の獲得や顧客との信頼の構築ができるのだと思います。
今泉
今後、どのように事業を展開していますか。
福原
材料の販売については仕入れ先との関係強化、機械加工による金型製作やリバースエンジニアリング、オリジナル製品の開発などの事業については、生産性を高めるための投資を含めた技術の導入や知見の蓄積により「ソリューション技術」として顧客へ還元していきます。また、成形事業も成長させていきたい。現在、フッ素樹脂の成形設備を保有し、自社設計金型の試打ち成形ほか、フッ素樹脂にまつわる他社様との開発実証用途などに活用しています。フッ素樹脂の成形は品質管理で留意することが多く、完全自動化が難しい。かといって労働条件の観点から、昼間の間の成形で収益性を高めたい。難しい課題ですが、研究しながら最適な仕組みの構築をしたいです。
また、個人的には金型や機械部品とは違う、一般消費者向け製品の開発・製造・販売を手掛けてみたいと思います。新しいことに挑戦しながら、社員や取引先、また特殊鋼業界のモチベーションを高められるようなモノづくりを目指していこうと思います。
ふくはら ちさと/1986 年、大阪府河内長野市生まれ、40 歳。2008 年、京都大学工学部卒業後、ジェイテクト入社。歯車の機能検証やベアリングの品質管理を担当する。家族は夫と7 匹のポメラニアン。趣味は油絵とカラオケ。中島みゆきと吉岡聖恵(いきものがかり)のモノマネが得意。
いまいずみ ひであき/1957 年愛知県出身。1980 年大阪工業大学卒業後、オーエスジー㈱入社。エンドミルやドリルの設計、開発に長年携わる。特殊工具の打合せや使用状況確認のために国内外多数の切削加工現場を訪問した経験をもつ。著書に「目利きが教えるエンドミル使いこなしの基本」(日刊工業新聞社)。