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プレス技術 連載「値決めの鉄則」

2024.10.07

第1回 もの作りも商売だ!儲けることは悪じゃない!

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西田経営技術士事務所 西田雄平

社長の机に「利益一覧表」を貼り付けよう

 岩盤のような原価が出せるようになったら、まずは既存顧客の損益状況の実態を確認していきましょう。ここで儲かっていてれば「良し」ですし、儲かっていなければ「対策」が必要です。

 図表4は「顧客別・製品別利益一覧表」といって、どの顧客の、どの製品が、年間いくらの全社利益額を出しているのかあるいは赤字なのかを一目で見てわかるようにしたものです。利益一覧表が社長の手元にないと、今後の戦略を立てたり経営判断を下すことができません。
図表4 顧客別・製品別利益一覧表

図表4 顧客別・製品別利益一覧表

 この利益一覧表をよく眺めてください。読者の皆様なら、どの部分に改善のメスを当てようと考えるでしょうか。おそらく多くの方がZ社の製品「コ」に着目されるのではないでしょうか。なぜなら、⑦全社利益額で年間400万円もの赤字を垂れ流しているからです。会社全体の損益は年間47万円の赤字です。極端かもしれませんが、これさえ何とかしてしまえば会社全体で黒字に転換するかもしれません。

 逆に利益一覧表が手元にないまま経営をしていると、どうなってしまうのでしょうか。例えば、価格転嫁の局面においては、顧客各社への値上げ幅をどう設定するかという問題が発生します。ケースバイケースですが、すでに高い利益率を確保できているX社に対して強気の値上げ交渉を仕掛けようと思うでしょうか。もしそれで失注してしまっては元も子もありません。ソフトな価格交渉路線でいこうという発想になるはずです。

 一方、Z社に対しては考え方が180°違ってきますが、これも場合によりけりです。自社工場の操業度への影響や、顧客の将来性などを十分考慮して価格戦略を練っていくべきですが、最終的には社長の経営に対する哲学によるところが大きくなります。ただ、単純に考えれば、Z社への値上げ交渉の強度としては「この値上げを提示して失注なら仕方ない。なぜなら、どれだけ売っても赤字を増やすだけなのだから」という発想をしたくなるのではないでしょうか。

 「利益一覧表」は経営のコンパスです。社長が信頼できる数字をもとに「あの顧客にはVIP対応していこう」とか「この製品はあまり売らないようにしていこう」といった方針を定め、これから自社が向かっていく道を決断するのになくてはならないものなのです。

とにかく準備・準備・準備だ!

 儲かる値決めにおいても、価格転嫁においても、とにかく事前準備が大切です。

 日常的に儲かる値決め(見積り)を行なっていける会社にしようと思ったら、まずは正確な原価計算をしていく仕組みを社内に構築しなければなりません。これができないままだと「値上げは一応できたけれど、それで結局、儲かるようになったのか」という疑問が生まれてきます。

 中小製造業の場合、現実的にはこの仕組みづくりだけで、通常半年~1年はかかります。何十年と続けてきたやり方や習慣を根本から変えることになります。1カ月やそこらでできるものではありません。具体的には、

 ①現状診断による自社課題の明確化
 ②実務者に対する原価管理と値決めの基礎教育
 ③社内の意識改革
 ④必要なデータ収集
 ⑤新しい見積り方式の試行錯誤

 などの準備をしていきます。準備は「早くやれ!」と急かしすぎてしまうと、熟成期間が足りずハリボテのような仕組みになってしまいます。そうなってしまうと、実務者は次第に使わなくなり、元のやり方に逆戻りしてリバウンドを起こしてしまいます。特に経営者の方は、「そんなのすぐできますよ」という周囲の声に騙されないようにしましょう。多少の時間と費用をかけてでも、じっくりと腰を据えて準備を重ねていった方が結果的に得なことが多いです。

 最後に、値上げについて言えば、価格交渉は複数回に渡って行われるのが通常です。業界によっては半年以上、1年以上かかるところだってあります。根拠資料の提出を求められることもしばしばですので、単発単月で完結することは滅多にありません。したがって、息切れしないようにしつつ、定期的に価格転嫁をしかけていく“仕込み”が大切になってきます。このあたりは本連載の後半で詳しく述べていきたいと思います。
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