マンの加工費(直接労務費)の計算方法
ここからは加工費の計算方法となります。
まずは、マンの加工費(直接労務費)から見ていきます。下記の計算式を穴があくほどよく見てください。
直接労務費(円/ 個)
= マンST(時間/ 個)× 直接マンチャージ(円/ 時間)
= 2(時間/ 個)× 2,000(円/ 時間)
= 4,000(円/ 個)
少し用語の説明をします。マンST とは、製品1 個あたりの人の加工時間のことです。ST とは、Standard Time(スタンダードタイム)の略で標準時間と訳します。もの作りの基準となる時間のことで、今から約140 年前にF・W・テイラーが提唱。後に生産管理技術が発展していく礎となりました。多くの企業ではサイクルタイムやタクトタイムと同じように使われています。
次にチャージ(レート)ですが、前述したとおり時間当たりの加工費です。つまり直接マンチャージとは、極めてシンプルに言うと作業者の時給です。厳密には仔細に算出する必要がありますが、少々複雑になるので割愛いたします。ここでの計算事例は、「製品1 個の加工のために、時給2,000 円の作業者に2 時間働いてもらった」ということになります。したがってマンの加工費は製品1 個あたり4,000 円です。
マシンの加工費(設備費)の計算方法
次にマシンの加工費(設備費)を見ていきましょう。先ほどと同じように下記の計算式を穴があくほどよく見てください。
設備費(円/ 個)
= マシンST(時間/ 個)× マシンチャージ(円/ 時間)
= 3(時間/ 個)× 5,000(円/ 時間)
= 15,000(円/ 個)
直接労務費との違いは、ST とチャージがマンからマシンに変わっている点です。マシンST とは機械の加工時間です。マシンチャージとは機械の時給です。ここでは、「製品1 個の加工のために時給5,000 円の機械を3 時間用いた」という意味になります。
なお、マシンチャージの算出方法は下記のとおりです。これも厳密には丁寧な計算が必要です。しかし、ここでは加工費計算の入り口部分として限りなくシンプルに説明したいと思います。
マシンチャージ(円/ 個)
= 減価償却費など(円/ 年)÷稼働時間(時間/ 年)
= 1,000(万円/ 年)÷ 2,000(時間/ 年)
= 5,000(円/ 時間)
例えば、1 億円のプレス機を購入して10 年間使用するとした場合、1 年あたりの減価償却費は1 億円÷ 10 年= 1,000 万円/ 年です。一方の稼働時間は、1 日8 時間×年間250 日稼働= 2,000 時間/ 年となります。このような考え方で機械の時給を算出していきます。
目からウロコ!?加工時間の短縮だけがコストダウンではない!
ここで読者の皆さんには、鉛筆と電卓を手にしてじっくりと考える時間をとっていただきたいと思います。よく経営者や工場長が「稼働率を上げろ!機械を止めるな!」と言っているのを聞いたことがありませんか?
下記は、稼働時間を2 倍に増やした場合のシミュレーションです。設備費はどのように変化すると思いますか?
マシンレート(円/ 個)
=減価償却費(円/ 年)÷ 稼働時間(時間/ 年)
= 1,000(万円/ 年)÷ 4,000(時間/ 年)
= 2,500(円/ 時間)
設備費(円/ 個)
= マシンST(時間/ 個)× マシンレート(円/ 時間)
= 3(時間/ 個)× 2,500(円/ 時間)
= 7,500(円/ 個)
なんと、マシンレートが半分の2,500 円/ 時間になりますので、設備費も半分の7,500 円/ 個に下がってしまうのです!
しばしばコストダウンを進める際に、加工時間の短縮つまりST の短縮ばかりにスポットライトを当ててしまうのですが、本来は稼働時間を増やすこともセットで考えていくことがポイントです。これを考えるのは、仕事の獲得を担う経営者や営業サイドの仕事です。値決めにおいては、このような視点ももって受注活動を行っていくことが非常に大切になってきます。(工場でのムダな設備停止ロスの削減は言うに及ばず。製販一体で収益改善を進めていくことが大前提です)
今月は「加工費の計算方法」についてお伝えしました。きっと「目からウロコだった!」と思っていただけたのではないでしょうか。しっかりと根拠をもって加工費を計算しておくことは、コストダウンを推進するうえで欠かせません。価格転嫁を進めて、今後の賃上げの原資を確保していくためにも欠かせないことです。課題が見えてきた企業様は、今すぐ見直しに動いて欲しいと思います。
次回のテーマは「“多品種少量に負けない”段取り作業費の計算方法」です。お楽しみに。