工場管理 連載「リーダーに捧ぐZ世代の新人育成バイブル」
2025.07.18
最終回 次年度の教育計画を考える
ジェムコ日本経営 古谷賢一
ふるたに けんいち:本部長コンサルタント、MBA。経営管理、人材育成から、品質改善支援、ものづくり革新支援など幅広い分野に従事し、地に足がついた活動をモットーに現場に密着。きめ細かい実践指導は国内外の顧客から高い評価を得ている。“工場力強化の達人”とも呼ばれている。おもな著書は『まんがでわかるサプライチェーン 知っておくべき調達・生産・販売の流れ』(日刊工業新聞社)。
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本連載は、全15 回にわたり、「Z 世代」の新入社員に対してどのような教育を実施するべきか、そして、どのような方法で教育を行うべきかを、新入社員の成長と連動するように解説する形態をとってきた。
教育訓練の基本的な考え方は、「Z 世代」の新入社員に限らず、多くの社員全般に活用できる視点もあれば、ベテランの方々には少し違和感をもった視点もあっただろう。「Z 世代」の新入社員は、自分たちが理解できるようにていねいな教育をされて育ってきた世代だ。少なくとも社会に順応するまでの新人である間は、できるだけ寄り添うように教育を行う必要があるのだ。
新入社員にそこまで手をかけるのか、教える側の負担がきつい、といった反応があることも想定できる。しかし、人材不足に直面した世の中では、適切な教育ができない企業は、若手人材から容易に見切りをつけられて、他社へと転職されてしまう。若手人材に受け入れられるように、教える側の意識を変革することが求められているのだ。
必ず今年度の活動を振り返る
次年度に向けて教育計画を考える前に、まずは、今年度の教育活動の振り返りを実施することが重要だ。教える側のベテラン作業者による振り返りはもちろん必要だが、実際に教育を1 年間受けてきた、今年度の新入社員の意見も聞くべきだ。これらは貴重な検討材料になる。ただし、ベテランの先輩社員を前に「問題点を忌憚なくいってほしい」と伝えたところで、なかなか本音はいいにくいものだ。そこで、新入社員だけを集めた座談会形式(入社2 年目程度の先輩を交えてもよいだろう)など、上司やベテランの厳しい視線を感じないように配慮したうえで、自由に意見を出し合える場を設けてみるとよいだろう。
そのような場面で、どのような教育が自分の仕事の修得に役に立ったのか、あるいは、どのような教育が自分にとって混乱をしたのか(わかりにくかったのか)、さらには、自分たちが教育を受けながら感じた問題点(教育ツールの事前準備が不十分、教育計画の見通しが不明確など)を、洗い出すのだ。ここでは、単純な不満や的外れな意見なども、あえて否定することなく、感じていることを自由に話せる雰囲気をつくり、貴重な改善意見が隠れないように気をつけるとよい(図1)。
今年度の反省を踏まえ、次年度に継続実施すること、新しいアイディアや意見を取り入れて改善すること、などをリストアップして、次の教育計画に反映させるのだ。
成長が期待できる教育計画を示す
教育計画は、とかく「教える側」の視点で作成をされるものだ。そのため、教える側の都合に応じて、業務全体の中から必要な作業だけを抽出して教育することになりやすい。それが欲しい人材(作業者)をできるだけ早く育成するのに効率的だからだ。
しかし、「教えられる側」からすると、断片的な作業を1 つひとつバラバラに覚えることになるため、自分が1 年間をかけて、どのように成長してゆくのか、1 年後の自分はどのようなスキルをもった人材になっているのか、自分の将来像を描くことができないのだ。ゴールの見えない道をひたすら走れというのでは、自分の成長が期待できないばかりか、「この会社で、これからも頑張ろう」と感じることもできないだろう。
そこで、次年度の教育計画を立てるにあたり、教えられる側の新入社員にとって、「1 年後の到達イメージ」が示されているかを考えてほしい。これは「A 作業と、B 作業、そしてC 作業ができるようになっていること」といった、教育予定にある個別の作業を羅列するのではない。
たとえば「1 年後には、生産工程全体を理解したうえで、X 工程の作業を任せられる存在になる」といった、1 年後をイメージできる人物像を示すとよいだろう。そのうえで、まずは「A 作業とB作業を1 人で作業できるように修得してもらう」といった具体的な修得すべき作業を示すとわかりやすい(図2)。
「ほったらかし」をしない教育を考える
生産現場はとても多忙だ。特に、教育訓練では教える側になるベテラン作業者はなおさらだ。そのため、教育訓練に専念できる時間を確保されている場合はよいが、日常の生産活動を続けながら教育訓練を行うとなると、新入社員の横にずっと張り付いているわけにはいかない。そのため、何らかの教育を行った後は、「〇〇を練習しておいて」としばらく自習(練習)を指示することも珍しくはない。
もし、新入社員に自習(練習)を指示する場合は、「ほったらかし」にしないように注意が必要だ。必ず、やること(練習内容)を新入社員が迷うことなくできるように具体的に指示して、さらに時間を区切って(例:何時まで練習をしてください)指示をすることが重要だ。特に、時間を区切ることを忘れないようにする必要がある。生産現場では常に作業は時間で管理されている。教育も「しばらくやっておいて」ではなく、「16 時まで、〇〇を繰り返し練習するように」と目標時間を提示することだ。それがなければ、新入社員はいつまでやればよいかわからず、「ほったらかし」と受け止めてしまう。そして、指示した時間がきたら、自習(練習)の内容を必ず確認して、必要なアドバイスを行うことも忘れないようにしなければならない。フィードバックがなければ、やはり新入社員からは「ほったらかし」と受け止められてしまう。
最後に
本連載を通して、「Z 世代」の新入社員を教育するためには、教育のための準備、わかりやすい教育内容のかみ砕き、そして丁寧な指導と先が見える教育計画が重要だと解説した。これらは、教育訓練の質を高めるための重要な視点であり、翻っては工場の教育全体に横展開できる考えでもある。新入社員が職場で活躍できるようになるように、ぜひ本連載の内容を実践してほしい。
「Z 世代」の新入社員教育 覚えて欲しいポイント
・教育のための準備を丁寧に
・教育内容はあかりやすくかみ砕く
・丁寧に教えられる側に立った指導
・1 年先の自分の姿が見える教育計画