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プレス技術 連載「知って得する!ワンポイント経営アドバイス」

2026.09.07

第2回 経理一任に潜む不正リスクを抑える

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小松弘樹

こまつ ひろき:中小企業診断士
 中小企業から資金繰りの相談を受けていると、元経理担当者による多額の着服横領の被害から事業再生を図る企業にめぐり合う。本連載第2回のテーマは経理担当者の不正行為の未然防止である。中小企業の経理部門は少人数で編成されていることが少なくない。読者は経理担当者への関与は十分だろうか?

 まずは着服横領事案の例を紹介する。金属製品製造業のA 社では、税務調査で経理部長の着服横領が発覚した。経理部長の不正行為は、材料仕入れの支払い伝票を水増しした差額を自らの預金口座に振り込ませる形式で行われ、6年間にわたる総額は約8億円に及んだ。横領資金はすべてギャンブルに使われていた。さらに、税務調査に伴う修正申告額に対して重加算税を課せられることになり、未払い法人税、未払い消費税など必要な資金額は約3億円に上り、A社は資金繰りに窮する事態となってしまった。

経理担当の不正は多額になる

 東京商工リサーチ「2024年全上場企業『不適切な会計・経理の開示企業』調査」(https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1200919_1527.html)によれば、2024年に不適切会計を開示した60件のうち、従業員などによる着服横領は、経理や会計処理のミスの33件に次ぐ19件で全体の約3割を占める。中小企業における公表データはないが、人的資源に限界がある中小企業では従業員の着服横領リスクは上場企業に比較して高い状態と言える。

 中でも経理担当者が着服横領した場合には、不正行為の期間が長期に及ぶ傾向があり、横領された被害金額が多額になるのが特徴である。一度発生してしまうと不正行為の当事者対応に追われるだけでなく、場合によっては会社の資金繰りへの影響は大きく、債務超過状態に陥って金融機関をはじめとして対外信用を毀損してしまう。

 経理担当者の着服横領には典型的なパターンがある。例えば、社長が会計に無関心、会計担当が経理部の社員一人、顧問税理士の関与が薄いなどである。中小企業の経理担当者は長年にわたって預金口座や金庫の管理、経費の精算などの経理業務全般を一人で担当していることが多い。

 経理担当者の着服横領の手口を見ると、少額から始まるもやがて頻度が上がり、一回当たりの金額も大きくなっていく。上位者、第三者の監視の程度を伺いながら、やがて大胆な犯行につながっていき、累計金額は多額になる。冒頭の事例のように被害が多額に上ると、その後の経営リスクはあまりにも大きい。不正行為を行った経理担当者は、先代の社長の頃からの経理部長であったり、取引金融機関や顧問の会計事務所の出身者だったりとどんな素性でも安心はできない。

不正を働く機会を極小化

 それでは着服横領のリスクを抑えるにはどうしたらよいのか。まずは不正行為の発生メカニズムを理解してほしい。図1は、米国の犯罪学者ドナルド・クレッシーの「不正のトライアングル」である。
図1 不正行為の発生メカニズム(筆者作成)

図1 不正行為の発生メカニズム(筆者作成)

 不正を行う人は悪いことであると知りながら、①動機・プレッシャー、②不正を働く機会、③不正を正当化する姿勢、の3つの要素が揃った場合に実行してしまう。したがって防止対策を考えるときは、この3つの要素が揃わないようにすることがポイントになる。

 とりわけ中小企業の経理担当者の場合には、②不正を働く機会を排除することが有効である。もちろん不正を行う従業員が一番悪いのは当たり前だが、魔がさした従業員に着服横領や不正会計に手を染めさせない環境づくりは経営者の責任である。

 具体的な対策をとるにあたり、何より大事なことは、経営者自らが経理担当者の業務にかかる不正リスクを検証して経理や会計への関与を高めることである。また、社外の顧問税理士などの存在を有効活用することが重要だ。経理担当者に対して、経営者と顧問税理士の牽制機能を働かせて、不正を働く機会を極小化していく。その仕組みを構築する場合のポイントを以下に挙げる。

 ①出金伝票とその承認制度をつくる。②経理担当者が一人で預金を引き出せない仕組みをつくる。預金通帳と銀行印を同じ担当者に管理させない。またはインターネットバンキングの権限を区分付与し、上限額を設定する。③小口現金は、帳簿の残高と現金の額の一致を毎日確認する。可能であれば、小口現金の取扱いを廃止して振込に切り替える。④すべての預金通帳の出金履歴は定期的に確認する。預金取引しかない金融機関の預金口座は不正行為に使われやすい。⑤顧問税理士に毎月試算表を作成するように依頼し、税理士と経営者との面談を定期的に行う。決算期末にしか付き合いのない税理士との関係は改善する必要がある。

発覚したら専門家に相談

 最後に不幸にも着服横領が発覚した場合の対応である。被害金額によっては事業継続の可否につながるリスクを抱えることから、メインの金融機関をはじめ中小企業診断士や弁護士、公認会計士、税理士といった専門家に相談しながら慎重に進めていく必要がある。まずは不正行為の裏付け調査と証拠の確保、行為者本人からの事情確認を行う。

 次に当面の資金繰り実態を把握して取引金融機関に速やかに第一報を行う。金融機関からは継続して調査結果の随時報告を求められる。資金繰りへの影響が大きければ、金融機関からの借入金にかかる返済条件変更が必要になる。

 取引金融機関の意向によっては図2のとおり中小企業活性化協議会の金融調整機能を頼りに相談し、財務調査(財務デューデリジェンス)の実施、再発防止策を含む経営改善計画(再生計画)策定が求められる。なお、被害の概要がおよそ明らかになった段階では修正申告と行為者処分、決算書を提出している得意先への顛末報告などを検討する。
図2 中小企業活性化協議会の金融調整機能愛知県中⼩企業活性化協議会Webサイトを基に筆者作成

図2 中小企業活性化協議会の金融調整機能愛知県中⼩企業活性化協議会Webサイトを基に筆者作成

引用元: 中小企業活性化協議会|愛知県中小企業活性化協議会

 経営者としては今さら経理担当者の不正を疑うような対策を取りづらく、また経理に関する知識不足のために経理担当者の説明を聞いても異変を察知できないかもしれない。しかし、不正を働く機会を極小化し、経営者が経理や会計処理のチェックに向いていることを意識させるだけでも経理一任に潜む不正リスクを抑えることができる。公的機関の専門家派遣制度などを活用し、経理部門の不正リスクの抑え込みを目指してほしい。

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