精密板金部品の加工から溶接・組立までを一貫生産する清水精機。医療、食品、光学・測定分野向け機器を主力とし、試作品1個から多品種少量生産まで柔軟に対応している。加えて、各種測定器などの自社製品開発にも取り組む。約30年間操業してきた新座工場(埼玉県新座市)では、工場の手狭さが課題となっていたことから、生産性と付加価値の向上を目的に新工場建設を決断。2023年5月、埼玉県日高市に日高工場を完成させ、移転した。新工場では最新設備の導入やIoT活用により生産性と品質が向上。顧客ニーズに応えるスマート工場を目指すとともに、工場移転を新たな成長機会ととらえ、現場一体で改善活動に取り組んでいる。
新工場移転を機に広がる現場と改善の可能性
清水精機は、医療、光学・測定、食品、半導体分野向けの精密板金部品を、加工から溶接・組立まで一貫して手掛けている。主材質はステンレスで、鉄系・アルミにも対応。試作品から多品種少量・中量生産まで幅広く請け負い、取引先は約100 社にのぼる。
2015 年に社長に就任した清水貴博代表取締役社長は、取引先の増加や食品機械分野での需要が拡大する中、生産能力の限界と工場の手狭さを課題として認識していた。これらを抜本的に解消し、将来を見据えた生産体制を構築するため、新工場建設を決断。清水社長の片腕として、大手企業で工場長を務めた経験を持つ吉武清典生産企画・事業推進本部長が合流した。現場の従業員もレイアウト設計に加わり、作業導線や設備配置、搬入口の設計を見直すとともに、粉じん対策など作業性を重視した工場づくりを進めた。
23 年5 月、埼玉県日高市に新工場が完成。延床面積は新座工場の約300 坪から約1,500 坪へと拡張し、最新設備の導入やIoT の活用により、生産効率と品質が向上。受注拡大にもつながっている。
清掃で美化と現場意識を醸成する
新工場移転を機に、同社が本格的に取り組み始めたのが「全員参加の清掃」である。毎朝10 分、金曜終業前30 分を清掃時間とし、業務の一部として位置づけている。特徴的なのは、複数工程の混成チームで他職場を清掃し、1 週間単位で持ち場をローテーションしている点だ。自分の職場だけを掃除していると慣れが生じ、清掃の質が落ちやすい。他職場を清掃することで手抜きを防ぐとともに、担当外の工程や設備を知る機会となり、新たな視点や気づきが生まれる。
清水社長が「忙しいときは無理をしなくてもよい」と気遣う一方、保坂俊之生産部長は「掃除をやめるという選択肢はありません。朝掃除をすると気持ちよく仕事に入れます」と語る。清掃中は従業員の好きな音楽を自由に流すなど、前向きに取り組める工夫もしており、作業のメリハリにもつながっているという。
その結果、日常清掃が徹底され、エアコンのフィルタ清掃や設備上部の拭き上げまで行き届き、大掃除が不要なほど清潔な状態を維持できている。吉武本部長は「常にきれいな状態だからこそ、汚れや異常にすぐ気づき、直そうという意識が自然に生まれます」と語る。
新座工場でも清掃は行っていたが、モノが多く十分に行き届かない面があった。「移転前から5Sや改善活動は考えていました。移転のタイミングでやらないと、今後やりにくくなると思いました」(清水社長)。移転前に3S を事前に実施し、モノを捨てる難しさを経験したことで、移転後の5S や3定をスムーズに推進することができた。
最も精度が求められる曲げ工程。6mm厚まで対応。QRコードを読み込んでモニターに作業指示を表示
現場主体の改善が個々の力とチーム力を育む
新工場移転後、同社が本格的に取り組んだもう1 つの活動が「改善研究会」である。現場が忙しく改善に手が回らない、改善は負荷を増やすという意識を背景に、24 年9 月、吉武本部長が発足させた。目的は「自分たちで課題を見つけ、自分たちで解決する」現場主導の改善活動の定着だ。月1 回1 時間ほどのミーティングでテーマや内容を話し合い、改善作業は業務の空き時間を活用している。初年度はチームワークの良い溶接チームをモデル職場として開始し、今年度は曲げ工程チームへと横展開している。
溶接チームが1 年目のテーマに挙げたのは「治具管理の改善」だ。生産部製造課の菊池崇史主任は「治具が増え、探すのに時間がかかっていました。そのムダを減らせば生産性向上につながると考えました」と話す。「1 分以内に探せる状態」を目標に整理整頓を進め、専用棚で管理。古いバージョンや長期間未使用、変形・さびなどにより使用不能、製造廃止など不要な治具を処分し、約430点あった治具は160 点程度まで削減された。
5 分かかっていた探す作業は1 分以内に短縮できた一方で、板状の大型治具の扱いにくさや下段から取り出す際の腰への負担など課題も残った。そこで2 年目は「棚」から「台車」への転換に着手した。治具を台車で収納・管理し、作業場所まで持ち運べるようにすることで、棚へと往復するムダを省く狙いだ。台車は引き出しと立てかけを組み合わせた構成で、溶接固定ではなくビス止めとすることで、仕切りや形状、引き出し段数を柔軟に変更できる設計とした。将来的な重量増も想定し、大型キャスターも採用している。
設計では、生産部製造課の畑中和晃氏が中心となり、自ら台車のイラストを描き、図面や模型を作製した。「治具の形状や量に合わせてどのようにカスタマイズできるか、図面だけでは伝えにくいので模型をつくりました」(畑中氏)。模型によりイメージ共有が進み、意見交換も活発化した。主体性やポテンシャルが引き出され、個々の力が高個々の力が高まることで、現場力向上にもつながっている。
治具管理には、移転後に導入したクラウド型図面管理システムも活用している。使用治具の写真や加工要点、不具合履歴を図面に紐づけて一元管理する仕組みだ。菊池主任は「一定期間使われていない治具がわかるよう、図面と紐づけて管理する必要があります」と説明する。現在は約3,300 点の図面を登録済みで、今後6,000 ~ 8,000 点を順次クラウド管理に移行する予定だ。知見をデータとして残すことで属人化を防ぎ、技能伝承につなげる基盤づくりも進めている。
治具管理台車の模型(上)と試作品。25年中に第1号を完成させ、改良を重ねながら3台の製作を目指す
24時間無人加工に対応するアマダのファイバーレーザパンチ複合機「ACIES 2512AJ」。10列12段の自動倉庫「MARS」(右壁面)と連動し、ジョイントレスで複数種類の材料に対応できる
現場の知恵を蓄積し、現場力を高める
新座工場時代に導入した「目で見る改善記録」は、日高工場でも継続して取り組んでいる。吉武本部長は「それまでも各自で改善は行っていましたが、定期的な振り返りや記録として整理されてはいませんでした」と昔を振り返る。そこで、改善内容を簡潔にまとめられる「目で見る改善記録」シートを導入し、記入後は廊下に掲示して工場全体で共有するようにした。提案件数の目標や厳格なルールは設けず、日常の工夫を記録として蓄積することを重視した運用とした。
提案内容は、掃除用具掛けの工夫から機械の安全カバー、溶接ロボットによる効率化まで幅広い。溶接工程の集塵機の改良では、作業の妨げとなっていたダクトを小型テーブルと一体化することで、省スペース化と作業性向上を両立させた改善が評価され、同様の装置が3 台製作された。
移転後は、改善内容をシートへ記入し掲示するだけでなく、期初に各部署による改善発表会を実施することになった。間接部門を含む10 チームが集まり、年間の取組みを発表する。清水社長は「もともとはISO の不適合目標に対する成果報告会でしたが、暗い話だけでなく、前向きな取組みを全員で共有したいと考え、改善発表の場としました」と話す。日々の小さな工夫を埋もれさせることなく、現場の知恵を組織全体で共有・蓄積する仕組みとして定着している。
最新設備やIoT を備えたスマート工場であっても、それを活かすのは人である。同社の5S や改善活動にはルールで縛る「やらされ感」はなく、現場が主体的に考え、動く姿勢そのものが一体感と成果につながっている。日高工場は単なる生産性向上やDX のためのスマート化にとどまらず、現場の声を反映しながら改善を継続できる環境として整えられている。その取組みはここから、さらなる進化の段階へと歩み始める。
「目で見る改善記録」シート。廊下に掲示し、来訪者へのアピールにもつなげている
集塵ダクトと小型テーブルを一体化。テーブル上にものを置くこともできて便利