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機械設計 連載「防水製品の開発・設計の基礎とポイント」

2024.12.02

第2回 等級に応じた防水設計と防水設計における注意点

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アイテックソリューション 北村 信之

きたむら のぶゆき:技術統括部課長。アイテックソリューションは技術者派遣、受託設計、試作部品作製などの事業を展開している。受託設計では「防水コンサルティング」を強みとする。大手企業からベンチャー企業までさまざまな企業を対象に、開発中の製品の3 次元データや試作機からの課題の抽出、防水・防塵の設計アドバイス、防水評価試験、入水経路の特定、不具合対策検討など、防水製品の開発支援を行っている。
https://aitec-solution.co.jp/

はじめに

 前回の連載では、「IP 規格」と「基本的な防水設計の考え方」について解説した。今回はもう少し具体的な内容について解説したい。前回もお伝えしているが、筆者が設計する製品は小型の電化製品が多く、経験上お話できることはそれらの製品群に偏ること、業界や製品ジャンルによっても考え方の違いがあると思われるため、内容はあくまで一例であることをご承知おき願いたい。

等級に応じた防水設計の必要性

 前回の連載の中で、コストなどを考慮し、開発する製品に対して適切な防水等級を付与することが大切であるとお伝えしたが、設計者が防水構造を考える際も、開発する製品が対応する防水性能を常に意識しながら設計する必要がある。比較がしやすいためIP 規格を例にすると、「IPX4」には「IPX4」に適した構造があり、当たり前の話だがほかの等級にもそれぞれ適切な防水構造がある。

 前回も触れているが、製品企画の会議などでよく耳にする勘違いとして、IP コードの第2 特性の数字が大きい場合、その数字よりも小さな数字の等級も同じく保護できるという上位互換のような関係があると思われている方が多いが、防水等級はそのような関係にはなっていない点に注意が必要である。

 IPX6 とIPX7 の関係が比較しやすいため例としてあげると、IPX7(第2 特性の数字が大きい)を保護できる設計を施した製品がIPX6の試験に合格するとは限らない(筆者の経験ではそのまま合格するのは難しい)。なぜならば、前回紹介している試験は試験方法に大きな違いがあり、IPX6は“暴噴流(ノズルからかなり強力な水を噴射するイメージ)を2.5~3.0 m先で製品が受ける”という試験であり(図1)、IPX7は“水深1 mに製品を30分間浸しておく”という試験なので(図2)、水圧や水の掛かり方などの条件がまったく異なるためである。
図1 IPX6 の試験イメージ

図1 IPX6 の試験イメージ

図2 IPX7 の試験イメージ

図2 IPX7 の試験イメージ

 とはいえ、対応するレベルごとにすべて設計を変えなくてはならないというわけではなく、特定の部位については設計配慮が必要という解釈で問題ない。考え方の違いを説明するには先にあげた「IPX6」と「IPX7」の防水構造の違いを用いるのが一番わかりやすいと思うので、ここからは実際の設計手法の違いを数例解説したい。

1.ケースの防水

 まずは一番大本となるケースの防水についてだが、防水ケースの設計では可能な限りケースの切れ間をつくらず容器のような構造とし、モノづくり上必要となるため空いている面を別部品でふさぐという構造にすることが望ましい(図3)。防水ケースは穴・切れ目を極力少なくし、浸水リスクを下げることが最重要となるため、設計初期段階から配慮する必要がある。
図3 理想的なケース構造

図3 理想的なケース構造

 また、ケースの止水構造としてはシリコンやEPDMのゴムパッキンを圧縮する方法が一般的だが、パッキンの配置も対応する防水等級に配慮する必要がある。IPX7 の場合は製品全体を水没させることからパッキンの配置がどこであっても結果に差はないが、IPX6 では勢いのある水流がケースに直撃するため、パッキンに直接水圧が掛からないような構造にする必要があり、パッキンをケースの分割部(合わせ部)から遠い(深い)位置に配置することを推奨している(図4)。これはパッキンに水がたどり着くまでに水の勢いを弱らせる必要があるためである。
図4 等級に配慮したパッキン配置

図4 等級に配慮したパッキン配置

2.スピーカ・マイクの防水

 IP規格の等級に応じて設計を変える必要がある代表的な部分としては、製品に内蔵するスピーカやマイクなどの音響にかかわる電子部品も重要である。近年では防水製品が増えたこともあり、スピーカやマイク自体に防水性能を付与した電子部品が数多く存在するが、IPX7 やIPX8 に対応しているものと比較すると、IPX6 に対応している製品の数は1/10程度しか見当たらない。

 スピーカなどの電子部品の耐水性は特に大きな落とし穴であり、先述しているように「IP 規格は上位互換ではない」ということを理解していないまま設計を進めてしまうと、IPX6 の製品に対しIPX7 の防水スピーカを選定してしまい、防水試験を実施した際に浸水しNGになるというケースがある。IPX6 とIPX7 では試験方法が異なるため、IPX7 対応のスピーカはIPX6 の噴流を直接受けてしまうと、スピーカ自体の止水部が破壊されてしまい防水性能を失うためである。

 しかし、防水性能の付与されていないスピーカを筐体側で防水する設計にした場合、設計時点でのミスや組立時のミスなどのリスクが高くなるため、IPX7 の防水性能を持ったスピーカを使用することは正解であり、筐体側でIPX6 の試験にも耐え得る構造を付与した設計にすることが望ましいと考える。

 具体例としては噴流がスピーカ本体にあたらないように、スピーカの前面部に壁を立てるという方法がある(図5)。スピーカの前に壁を立てることで噴流の高水圧はケースが受け、ケースにあたり飛散した水が掛かる部分はスピーカ自体の防水性で防ぐことができる。樹脂製のケースであればスライド構造を活用して穴を形成することで追加部品を増やす必要なく対策ができる。これは一例ではあるがデザイン性や音響性能にかかわる内容になるため、開発初期からデザインや企画を担当する関連部署と相談しながら開発を進めることが望ましいと考える。
図5 IPX6 に対する対策形状の例

図5 IPX6 に対する対策形状の例

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