機械設計 特別企画「経験談から学ぶ 難局はこうして乗り越えた!」
2026.04.09
設計における「答え」の重要さを身をもって体験 ~鉄道現場機器設計から学んだ経験談~
ウエプロジェクト 植村 直人
「聞いてないよ~」と思う後出し想定外に苦悩する日々
私がこれまで経験した新製品設計で、最後の最後によく言われたのが「これで100 点満点なのか?」、「不具合は絶対に起こらないか」という言葉である。設計をするたびに想定できていなかったことが社内検証で発生し、手戻りをする日々。対策を繰り返しても不具合は繰り返し発生する。中には、設計段階で誰も言っていなかった「想定」による検証試験により不具合を発見され、困らされることも多くあった。検証担当者は「絶対に不具合を出さない」という意思で検証しているのだろうが、設計者としては「そんな想定聞いてないよ~」と、どこかのお笑いトリオが繰り出すようなフレーズをつぶやいてしまう。設計をしていて一番苦しかったのは「到達点」が見えないこのような状況の連続であった。その後、「これが本来の設計の姿なのか」と疑問を持ち、対策を講じることとなる。
これらの原因は「設計仕様の詰めの甘さ」にある。これは設計者だけが悪いのではなく、設計仕様はもちろん設計審査で合意されて設計に着手していたことから、いかに設計審査が機能していなかったかと考えるだけでも腹立たしい。
そこでこの経験を活かし、「100点満点」の設計ができるよう対策を講じた。それは100 点満点になるための「設計の答え」をつくり出すこと、つまり「徹底した設計仕様のつくり込み」の実施である。なぜ設計審査が正しく機能しないのか。それは入口となる設計のゴール、すなわち「設計仕様」が詳細につくり込まれていないことが原因であると考えた。設計で大切なことは「何を実現するべきか」である。そして、設計審査では「実現すべき目標を設計段階で達成しているかどうか」を判断すべきである(よく設計審査で昔話や自分の経験を豪語する人がいるが、そんなのは設計審査の前にやってもらいたいものだ)。
そのため、特に注力したのは「設計着手前の設計仕様のつくり込み」である。以下の3 つの観点から項目を一覧にして、一つずつ解決したことを説明できることが必要であると考える。
・どのような環境(温度、湿度、振動など)で
・実現すべき機能や性能と「ばらつきの範囲」
・ 抜けがちなこととして「あってはならない事象」の設定
ここまでのことを設計担当者だけでなく、検証担当者をはじめとした関係者で詳細設計着手前までに合意することを目指した。
このようなプロセスを実施してから、設計業務前の作業は多くなったものの合意後の設計作業、検証作業の時間は大幅に短縮することが可能になった。 この内容は設計業務をするうえで至って普通のことと言われる範疇ではあるが、実施している技術者は少ないと考える。
私はこのような経験により「設計の答え」を明確にすることの大切さを学び、独立した現在でもその思想を取り込みながら設計支援を実施している。
鉄道の安全・安定輸送を影で支えているという「誇り」
新製品設計は非常に時間がかかり、設計も大変で手戻りも多く、ときに出荷した製品が不具合を起こし、顧客に多大な迷惑をかけることがある。その都度、落ち込み、必死に対策をしてきた。鉄道技術とは常に100 点であることで列車が正常に運行される。そこには鉄道事業者の方の尽力が一番であるが、その一端を担えることは何よりも喜びであり、厳しい要求に対応するためのモチベーションにつながる。
また、ありきたりのことであるが、踏切しゃ断機という街なかにある製品に携われていることから、自分が携わった製品を街なかの踏切で見ることにより、また新たな挑戦をしたいと感じることができ、ここまでやってこられたのだと思う。
開発・設計者へのアドバイス
私のような技術者が読者へのアドバイスなどおこがましいが、私自身が心がけていることを以下に示す。
1.達成する目的とその本質を明確にすること
重りのない踏切しゃ断機を設計する際に感じた「何事も始める前に目的、本質を理解すること」である。構想設計を進める際にありがちなことで、本質を理解しないまま手段を検討し、決定した手段に問題ないことが判断できない場合がある。理想の姿、問題点、課題というプロセスを確実に踏みながら新たなアイデアの創出を意識することが設計の一番の近道であると考える。
2 .設計に「答え」をつくること、「徹底的な設計仕様」のつくり込み
設計の手戻りの部分で述べたが、設計着手段階でいかに「設計のあいまいさ」をつぶせるかが勝負になる。人によっては「とりあえず設計しながら考える」というスタイルで、「3 歩進んで2 歩下がる」という進み方をすることもあるが、戻りの時間は進むよりも多くの時間を要することを経験から学んだ。「徹底的な設計仕様」のつくり込みには多大な時間を要し、設計着手が遅くなることが想定されるが、それ以上に多くの効果をもたらすことができる。
徹底的な設計仕様をつくり込むことで、設計者は明確な「答え」を持ちながら設計できる。これを言い換えると「誰もが同じ設計ができる」ことになり、設計作業が一人の技術者に集中せず、多くの技術者(外注化も可能)が並行して作業することができ、設計作業を加速させることができる。また、設計審査においてもチェックするべき項目が明らかになるため、「審査抜け」や「追加の審査項目」などを防止することができ、設計の予定外作業を削減することが可能である。
3.「自分の判断」を大切にすること
若く駆け出しの技術者の方には特に「自分の判断」を大切にすることをお願いしたい。若い頃はどうしても先輩の指示を仰ぐことになるが、そんな中でも自分なりに考え、判断したことをぜひ提案してもらいたい。提案が却下される場合もあるが「なぜダメなのか」を確認し理解することで新たな視野が広がり、次の戦略を考えるよい材料になる。「言われるまで待つ」のではなく「言われる前に提案する」、「ダメなら次のことを考える」ことを常に意識することで、常に新たなアイデアを考える癖がつき、技術者として成長しやすいと考えている。自分で正しく目標を捉え、詳細に計画し実行したことは、成功しても、失敗しても必ず「経験」として残る。そのために一つひとつの設計業務に「答え」をつくり、無限のアイデアをつぎ込んでいただきたいと思う。
私の経験が少しでも設計者の役に立てれば幸いである。「モノづくりをもっと元気に!もっと楽しく!」できるよう一緒にがんばっていきたい。