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機械設計 特別企画「経験談から学ぶ 難局はこうして乗り越えた!」

2026.06.25

事例4 CAEで切り開いた!新コンセプト・エンジンブロック加工機におけるびびり振動問題の突破口

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コムテック 小邑 健二

こむら けんじ:代表取締役

はじめに

 私は2007年に大学院を修了し、新卒で某自動車会社の工機部門において11 年間機械系技術者として専用機の設計やCAE解析業務に携わった。その後、複数の会社にて生産技術者や設計者としてさまざまな経験を積み、2024 年4 月より機械設計業務を主とする法人の代表として、専用機の設計を中心に機械設計やCAE解析などに携わっている。今回、これまでの経験を振り返って「難局を乗り越えた」という観点から、特に思い出に残る出来事を述べていきたい。

新コンセプトの加工機開発で直面したびびり振動問題 

 私がこれまでの20年近い技術者人生の中で、特に印象に残っているのは自動車会社の工機部門時代の「エンジンブロック加工機のびびり振動問題における奮闘」である。あれは入社8 年目の頃であったと思う。工機部門の役割もエンジンやトランスミッション関係の設備の開発や設計という従来の業務から、モータや2 次電池といった新要素に関する業務へとシフトが進んでいた頃だった。

 そのような職場環境の中、急遽「新コンセプトのエンジンブロック加工機の開発」が部の一大プロジェクトとして立ち上がった。私は当時、部のCAEリーダーとして設計者のフォローやCAE教育、ベンダーとの各種調整や企画立案などを担当していたが、プロパーの設計者が足りないこともあって試作1 号機の設計の途中からプロジェクトに参画することになった。試作1 号機は各ユニットを皆で手分けをし、精度・コストを徹底的に追求した設計が行われた。また、CAE解析は当時行われていたものの、“剛性”とは「静的剛性」のことを指すのが当時の部の共通認識であり、剛性に関しては特に大きな注目はされないまま設計は完了、部品加工そして組付・調整へと進んでいった。 

 エンジンブロックの加工では、アルミダイカストによって製造されたエンジンブロックをフライス加工にて必要な基準面を生成した後、その基準面と基準穴に対してドリル加工を主とする非常に多くの加工が行われる(図1)。しかし、完成した試作1 号機にて加工をトライしてみると、最初のフライス加工において“びびり”が発生し、その後の加工へと進めなかったのである。もちろん加工条件を下げることもできるが、サイクルタイムに間に合わないのであれば生産設備として成立しないのは明白である。

 部のこれまでの歴史として加工機をつくってきた経験は有していたものの、新コンセプトのまったく新しい構造の加工機であったために、過去の知見をそのまま活かすことができない事例であった。結局、「何が原因で“びびり”が発生しているのか」がわからないのである(実験で調べようとすれば、加速度ピックアップを数百個レベルで取り付けて測定し、膨大なデータから結果を検証しなければならない)。当時これには皆、どうすればよいか本当に頭をかかえたことを今でもよく覚えている。
図1 エンジンブロックの加工のイメージ

図1 エンジンブロックの加工のイメージ

基本から習得した動剛性解析がびびり振動を解決 

 開発開始~号口稼働まで2 年もない非常にタイトなプロジェクトのスケジュールにおいて、時間ばかりが過ぎていく中、偶然某セミナー主催会社のチラシを目にしていたところ、大学時代に切削加工の研究室で教鞭を執られていた先生が東京でびびり振動に関するセミナーを近日開催するとの情報を得た。

 思わず「これだ!」と直感した私は即座に申し込みをしてセミナーに参加、配布テキストに講義の内容をびっしり書き込み質疑応答にも参加した(セミナー後、先生に「大学時代に先生の講義を受けました小邑です」とご挨拶にうかがったところ、「小邑君、覚えていますよ」とおっしゃっていただけたのは大変うれしかった)。このセミナーを経て、「設備としての加工のびびり振動対策には“動剛性”が何より重要である」ことを痛感し、またプロジェクトのメンバーにも情報を共有することができた。 

 ただ、ここで次の問題が立ちはだかった。試作2 号機を設計するに当たり、動剛性を事前に検証してびびり振動の発生を防がなければならないのである。これを解決するにはCAEによる事前検証しか方法はないが、当時、私を含めたプロジェクトメンバーだけでなく、部内の誰も動剛性解析に関する深い知見を有していなかった(最初は動剛性に関する書籍を購入して読んでみたが、あまりの内容の難しさのためすぐ挫折してしまった)。試作2号機の設計完了予定日まで3カ月弱。「このままではらちが明かない」と考えた私は、部のCAEリーダーを担当していた頃にお世話になった(部のCAEソフトとして使用していた)「ANSYS」のベンダーのサイバネットシステムのホームページに掲載されていた振動解析手法や事例のページを読みあさり、フーリエ級数などの数学的な事項や振動工学について逐次調査しながら振動解析の基本的知識の習得を図ることにまい進した。

 その結果、「周波数応答解析」ならばこの問題を解決できそうだとの糸口を見つけるに至った。そのうえで、サイバネットシステムの営業や技術の担当者に相談し、メンバーや上司にも状況を説明して了承してもらったうえで、解析の方法やポイントを一からレクチャーしてもらい、ようやく動剛性解析のスタートラインに立つことができたのである(図2)。これまでの経験を活かしながらスキルアップできるとの期待と同時に、「プロジェクトメンバーの皆に何とか“オンリーワン”の貢献がしたい」との思いが当時の大きなモチベーションであったことを今でもよく覚えている。 
図2 動剛性解析のイメージ

図2 動剛性解析のイメージ

 フライス加工は回転数とチップ数で、その加工で発生する振動周波数を算出することができるが、試しに試作1 号機を解析してみると共振のピークが多数出現しており、実際に加工に使える周波数帯がほとんどなかったのである。これは静解析では絶対にわかり得なかった事象であり、加工機に必要な剛性の本質であると言える。試作1号機の反省を踏まえた試作2 号機の設計においては、私はほぼ解析専任者として解析モデルの作成、静剛性・動剛性の解析、問題点の抽出を含む結果のまとめと各設計者へのフィードバックを何度も何度も繰り返し行った。

 この連携がスピード感を持って行われ、振動モードを防ぐような補強ブラケットの設置や形状変更が徹底的に行われた結果、試作2 号機ではCAEの結果を含め加工に使える周波数帯が大幅にアップし、びびり振動の問題もクリアしたうえ、全加工工程にて品質を確保することに成功したのである。最終的には量産号口機にもほぼそのモデルが踏襲され、無事に新コンセプトのエンジン加工ラインの完成へと至った。

広く外に目を向け、自ら動くことが重要 

 今振り返ってみて、課題を突破するうえでポイントだと思うことは、大きく「外に情報を求めたこと」と「自ら動いたこと」の2 点だと考えている。びびり振動で詰まったときに思い切って過去にお世話になった先生のセミナーに参加しなければ、そもそも問題解決のスタートラインにすら立てなかっただろうし、また振動解析で詰まったときに、メンバーや上司に相談してベンダーの方々に協力を仰がなければ絶対に解決することはできなかったであろう。また、自ら動いたことでその経験が自分の血肉となり技術者としての自信につながったことは間違いない。 

 新しい技術がさまざまな分野で飛躍的に進歩する現在、たとえこれまでどれほど経験を積んできた設計者や設計部署・企業であったとしても、自分たちだけで問題を解決することは困難になっていくことが予想される。第一に自ら調査し考えることは大前提ではあるにしても、特に若い方には広く外に目を向ける習慣を持ってほしいと思う。また、今回はCAEが解決手段となったが、昨今のAI技術などの急速な進化もあって、これまででは考えられなかったさまざまなアプローチ手法が今後開発されていくことは容易に想像できる。

 私は若い方は体力があるのはもちろんのこと、経験が少ない分、逆に吸収力が高い方が多いと考えている。ぜひ「これだ!」と思う技術に自ら進んで努力を重ね、胸を張れる“一芸”を身に付けてほしい。その磨かれた“一芸”は、必ずや将来の自分を助ける大きな武器になるであろう。 

 拙い文章ではあるが、上記の私の経験談が特に若い技術者にとっての飛躍のヒントとなれば、技術者の端くれとしてこれ以上うれしいことはない。

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