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機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」

2025.08.05

第2回 疲労破壊

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福﨑技術士事務所 福﨑昌宏

疲労破面の特徴

 疲労破壊した破面のパターン例を図4 に示す1)。疲労破面は材料の強度や応力の種類,大きさによってさまざまな破面になる。疲労破壊にはまず起点がある。ここには起点となる欠陥や表面の応力集中などがある。そして起点の周辺にはへき開破面,内部起点ではフィッシュアイと呼ばれる模様が観察される。次にき裂の進行である。き裂が進行する過程でストライエーションやビーチマークなどが形成される。最後に断面積が減少したため,応力に耐えられず最終破断する。ここは材料によって延性的な破面や脆性的な破面が見られるが,破壊の形態としてはほとんど塑性変形が見られない脆性破壊である。
図4 疲労破面の特徴

図4 疲労破面の特徴

1.すべり帯

 これら疲労破壊で見られる破面や特徴について見ていく。まずは表面すべり帯である。これは表面や内部に起点となる欠陥や不純物介在物がほとんどない場合に見られる。疲労過程では繰返し応力が材料に負荷される。理論的には降伏応力以下では材料は塑性変形しないが,表面の応力集中や,局部的な偏析や結晶粒径の粗大化などにより,材料の局所的に降伏応力を超えて塑性変形を起こす箇所が出てくる。そうすると,表面付近ですべり運動が起きて,表面に細かい凹凸や段差ができる。一度表面に露出した段差は酸化されてしまうため,逆方向の応力をかけても元には戻らず,別のすべり線から変形が起きる。これをすべり線,またはすべり線が集まった状態としてすべり帯と言う。この凹凸や段差が表面起点となり,ここから疲労破壊が進行していく。

2.へき開破面と擬へき開破面

 へき開破面とは,主に起点付近に見られる脆性的で滑らかな破壊である。例えば丸棒の材料に引張応力が負荷されていた場合,すべりによる変形であれば斜め45°にせん断応力が作用してすべり変形が起きる。しかし,最大の垂直応力は軸方向の垂直断面方向に発生する。もし,垂直応力が材料の断面を結合する応力より大きくなると,断面は脆性的に破壊する。すべりによるせん断応力よりも小さい応力で垂直断面が破壊するときに,その破面にへき開破面が観察される。

 鉄の場合,すべり面は原子が多い面だが,へき開面は原子が少ない面になる。へき開破面をへき開ファセットと呼ぶ。その特徴は平坦で鏡のような面である。へき開破壊は結晶粒の特定の結晶面で起こる。結晶粒は互いに結晶の向きが異なるため,へき開破壊は1 つの結晶粒から隣の結晶粒に進行するときに向きが変化する。また,へき開破壊によるき裂は1 カ所だけでなく,多くの場所で発生する。そのき裂が進行するにつれて結合していく。その様子をリバーパターンと呼んでいる。

 また,へき開破面があまり明確でないときは擬へき開破面と呼ばれる。

3.フィッシュアイ

 フィッシュアイは,主に内部起点破壊の周辺に見られる模様である。浸炭や高周波焼入れ処理をした鋼は表面が硬いため,内部から破壊を起こしやすい。このときに観察されるのがフィッシュアイである。起点を中心に放射状の跡が観察される。起点は主に不純物介在物や内部欠陥などである。このフィッシュアイ周辺はへき開破壊のような滑らかな破面となるため,周りと色合いが異なる。

4.ストライエーション

 材料に繰返し応力負荷がかかることでき裂が進行して,ストライエーションと呼ばれる破面が形成される。破面の特徴としてはμmオーダーの細かい段差が観察される。

 ストライエーションの発生過程にはき裂と繰返し応力が関係してくる。き裂先端に引張応力が負荷されると,き裂先端ですべり変形が起きる。その後圧縮応力が負荷されると,逆方向にすべり変形が起きる。これが新しいき裂(ストライエーションの1間隔)になる。そして,再度応力が加わるときに新しいき裂先端からストライエーションの進行が起こる。ストライエーションの1 つの間隔は応力の1 サイクルと一致してくる。そのためストライエーションの間隔と応力負荷の相関性は実験的に確認されている。

5.ビーチマーク

 ビーチマークも割れの進行で見られる破面の一つである。き裂周辺から最終破断部の間で,目視で確認できる破面模様である。き裂の進行が一定ではなく,例えば,繰返し応力負荷がいったん停止すると,停止しているときに破面が酸化する。そして再びき裂が進行すると,そこでも破面酸化が起こるが,その前段階で破面酸化したところと酸化物の厚さに差が出る。それが徐々に模様となっていく。

 ビーチマークは繰返し応力期間と停止期間があって現れる。この様子を図5 に示す1)。そのため,常に一定の速度でき裂が進行するときにビーチマークはほとんど現れない。また,ビーチマークは貝殻マーク,シェルマークなどと呼ばれることもある。
図5 ビーチマークの特徴

図5 ビーチマークの特徴

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