機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」
2025.08.05
疲労破壊と冶金的要因
疲労破壊には応力集中などの機械的・形状的な要因のほかにも,金属組織や強度など冶金的な要因も影響する。疲労破壊の第1 段階として割れの起点があり,第2 段階として割れの進行があり,第3 段階として破壊がある。この3 つの段階の中で第3 段階は急速に破壊が進行するため,これを防ぐ効果的な手法はほとんどない。そのため,疲労破壊を防ぐには,第1,第2段階の割れの起点および進行をどのようにして防ぐかに注目する。
金属材料で疲労破壊の起点となるのは主に酸化物や硫化物などの不純物介在物。そして鋳造欠陥や溶接欠陥などの小さい欠陥・割れなどである。不純物介在物や欠陥の発生過程はある程度限られているため,注意や対策をとることができる。一方で,このような欠陥が存在しても,周りの金属素地が強化されていると,欠陥や割れが進みにくくなる。これには結晶粒微細化などによる材料強化方法や硬さ,圧縮残留応力などが影響する。
疲労破壊に関係する冶金的因子は強度などのように高いほど良い項目と,欠陥などのように少ないほど良い項目に分けられる。それを表1 に示す。
強度など高いほど良い項目は,結晶粒微細化や硬さなど,材料ごとにおおよその上限がある。また,硬さは硬くしすぎると伸びや延性がなくなり,材料が脆性的になるため破壊しやすくなってしまう。そのため,これら項目は強度と伸びのバランスを考慮して材料設計する必要がある。
欠陥などの少ないほど良い項目は,その量を減らすことが最も効果的である。しかし不純物介在物などは完全になくすことはできない。これらはできる限り減らし,残った量を微細分散させることが実用的な対策になる。微細分散させることで欠陥周辺部の応力集中を起こしづらくする。
不純物介在物の種類はさまざまだが,特徴として,ある程度温度を上げると凝集しやすいことや冷却速度を速くすると微細になる傾向がある。その理由の一つは,微細に分散するよりも1 つに凝集した方が物質の表面積が減少するからである。冷却速度を速くすることで微細になるのは,凝集する時間を少なくできるからである。
大きい内部欠陥や溶接欠陥などは有効な対策が難しい。しかし,サブミクロンレベルの欠陥であれば,熱間鍛造などで,外部から応力を加えることでつぶせることもある。
熱処理割れ,溶接割れなどの表面に現れる割れは応力集中につながるため,熱を上げすぎない,冷却を早くしすぎない,応力をかけすぎないなどに注意し,発生させないことが重要になる。また,孔食などの局部腐食によって表面に凹凸が生じたために応力集中が起きることもある。腐食と応力による割れとしては応力腐食割れが代表的である。
材料の硬さが疲労破壊に与える影響は大きい。硬さとは,材料表面が異物などによって変形や傷がつくときの変形のしにくさ,傷のつきにくさと言える。つまり表面が硬い材料ほど変形や傷がつきにくく,柔らかい材料ほど変形や傷がつきやすい。表面の変形や傷は応力集中につながる。そうすると,軟らかい材料ほど変形や傷によって応力集中を起こしやすく,疲労破壊の起点ができやすくなる。また,硬ければ局部変形も起きづらく,すべり帯も発生しにくくなる。
硬さは,表面の変形や傷だけでなく,割れの進行にも影響する。硬い材料ほど割れの進行が遅く,軟らかい材料ほど割れの進行が速くなる。また,割れの進行に関しては結晶粒微細化などの材料強化方法も有効である。
疲労強度を向上させるために圧縮残留応力を付与することが有効である。それは圧縮残留応力が働いていると,材料に割れが発生したときに,割れを押さえつけるように材料自体が働くからである。圧縮残留応力を付与する方法としてショットピーニングや高周波焼入れがある。これらの方法によって圧縮残留応力だけでなく,硬さも向上するため,疲労強度向上を図るためによく使用される。
ここで1 つ注意点がある。残留応力には圧縮のほかに引張もある。もし引張残留応力が付与されていたら,割れが発生したときに,割れを広げて破壊しやすくしてしまう。溶接などの加工で引張残留応力が付与されるときは注意を要する。引張残留応力の緩和には熱処理によるひずみ除去などが有効である。
機械部品の中には歯車やベアリングなど,ほかの部品と面接触するものもある。このような部品の疲労については,これまで述べたような割れのほかに接触面の摩擦・摩耗やピッチング・フレッティング損傷などが起こる。これらは材料表面の皮膚がめくれたような損傷である。その大きさは約数mm,深さは約数百μm程度である2)。ピッチング・フレッティングにおいても応力集中や疲労破壊の起点を扱うが,2 種類の部品が接触するので摩擦係数などの表面粗さや,オイルなどの潤滑も新たに考慮する必要がある。これについてはトライポロジーの分野において詳細に記述されている。
破壊の起点は表面または内部である。接触面では小さな割れが多数発生するので,これが表面破壊の起点になる。また最大応力場は表面直下ではなく,接触面の下側,約数百μmの位置に存在する。内部からの破壊はこの最大応力場から起こる。
参考文献
1 )C.R.Brooks,A.Choudhury,加納誠ほか2 名訳:金属の疲労と破壊,内田老鶴圃(1999)
2 )Arthur J. Mcevily,江原隆一郎訳:金属破損解析ハンドブック,丸善(2017)