機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」
2025.09.02
異種金属接触腐食
金属材料はそれぞれ固有の標準電極電位があり,異なる金属同士を接触させると電位差が発生して腐食反応を起こす。これを異種金属接触腐食またはガルバニック腐食と呼ぶ。これを図4 に示す1)。そしてこのとき流れる電流をガルバニック電流と呼ぶ。異種金属接触腐食は,標準電極電位の小さい卑な金属が腐食される。このときの腐食速度は異種金属の電位差が大きいほど速くなる。例えば,鉄と銅の組合せでは鉄が腐食される。しかし,鉄とアルミニウムの組合せではアルミニウムが腐食される。
身近な例として水道配管などがある。水道配管は鋼管製が多いが,もし銅合金配管と接触するときは異種金属接触腐食が起こる。対策としては配管の内側を塗装やコーティングするのが望ましい。内側全体をコーティングするのが難しいときは,異種金属が接触している場所を水と接触させないように保護することが有効である。
酸素濃淡腐食
異種金属接触腐食は異なる金属によって腐食が起きるが,酸素濃淡腐食は同じ金属でも周りの酸素濃度が違うことによって引き起こされる。腐食におけるカソード反応は式(6)に見られたように酸素と水が関係する。
1 枚の鉄板の周りの溶存酸素量が異なると,酸素濃度の高い場所がカソード,酸素濃度の低い場所がアノードとなり腐食されていく。酸素濃度の差が大きいと,カソード反応によって酸素を消費させ,酸素濃度の差を小さくしようとする。酸素濃淡腐食は土壌の配管や船の外板などに起こる。土の中の酸素濃度は均一ではなく,土質や深さによって変わる。また水中と大気中では,大気中の方が酸素量は多いため,水中部分がアノードなり腐食される。
粒界腐食
結晶粒界はもともと不純物介在物などが偏析しやすい場所だが,通常の材料や環境であれば問題になることはない。しかし,特定の材料では粒界に偏析した金属間化合物などによって結晶粒界が優先的に腐食されることがある。代表的な現象はオーステナイト系ステンレス鋼の鋭敏化である。SUS304 を溶接すると熱影響部が加熱されて粒界にクロム炭化物のCr23C6 が析出する1),3)。クロム炭化物が析出するとその周囲のクロム濃度が低下するため,不働態化しなくなる(ステンレス鋼の不働態皮膜はクロムの影響である。クロム量が約12%以上になるとクロムの不働態皮膜が形成される)。これを鋭敏化と言う。
鋭敏化が起こると粒界から腐食されていく。鋭敏化を起こしやすい温度域が600~800℃にあるため,ステンレス鋼を溶接した後は急冷してこの温度域を早く通過することが対策になる。鋭敏化はクロム炭化物によるため,ステンレス鋼の中でも炭素量を少なくして,モリブデンを添加した鋼種を使用すると鋭敏化しにくくなる。またチタンやニオブなどはクロムよりも炭素と結びつきやすく,これら元素を添加することなども有効である1)。
孔食
孔食とは,材料表面のある箇所だけが優先的に腐食されること。孔食が発生していない場所は金属光沢を保持していることがある。孔食は1 カ所だけでなく複数箇所に発生することもある。孔食が発達すると,配管などでは穴があき,そこから漏れが発生する。
孔食を起こす材料としてステンレス鋼がある。ステンレス鋼の不働態皮膜は通常では耐食性が良いが,塩化物イオンが多量に存在すると孔食を引き起こす。孔食の起点は不純物介在物や微細な凹みなどである。孔食によってステンレス鋼の不働態皮膜が破られると鉄イオンやクロムイオンが溶出する。これら金属イオンはプラスのため,マイナスイオンである塩化物イオンをさらに集中させてしまう。また,孔食していない場所は不働態皮膜を維持しているので,カソードとして安定する。そのため,一度孔食が起きると腐食がどんどん進行する。
塩化物イオンは海や沿岸などの地域に多いため,これらの場所では防食塗料などの対策がとられる。ステンレス鋼の耐孔食性は孔食指数によって評価される。海水など特に孔食が発生しやすい環境では孔食指数の高いステンレス鋼が必要になる。
隙間腐食
隙間腐食は,主に水中で2 つの金属部品の間隔が狭いときに,その隙間で腐食が発生すること。隙間のサイズはあまり明確ではないが,1 mm以下のμmオーダーのときに起こりやすくなる。これは隙間が狭く,周囲の水との流れや溶存酸素などの移動が起きづらいためである。
隙間腐食の最初のきっかけは酸素濃淡腐食のように起きる。ステンレス鋼のような不働態を形成する材料は,酸素を消費しながら不働態を形成するため,隙間内部と周囲で酸素濃淡差ができる。そこへ,塩化物イオンなどが存在すると,隙間で腐食が起こる。隙間腐食で形成される局部アノードと局部カソードは孔食と非常に似ている。そのため孔食指数が一つの目安になる。
また,炭素鋼のように不働態を形成しない材料でも,小さな隙間から酸素濃淡腐食をきっかけに隙間腐食を起こすこともある。しかし,この場合は不働態皮膜を形成する材料と区別するために隙間腐食と呼ばずに,通気差腐食と呼ぶこともある。