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機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」

2025.09.02

第3回 腐食

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福﨑技術士事務所 福﨑昌宏

脱成分腐食

 脱成分腐食は,合金の特定の成分や特定の相だけが優先的に腐食されること。選択腐食と呼ばれることもある。これはあらゆる合金に起こる腐食ではなく,特定の材料,合金に見られる腐食である。

 代表的な脱成分腐食は,黄銅の亜鉛成分だけが腐食する脱亜鉛腐食。黄銅の種類として主に亜鉛含有量30%(七三黄銅)と40%(六四黄銅)がある。六四黄銅はα相とβ相の2 相組織となるが,亜鉛量の多いβ相が腐食されていく。脱亜鉛腐食は全面的に腐食が進行するときもあれば,局部的に起こるときもある。脱亜鉛腐食が発生すると,見た目の状態はあまり変わらないが,材料内部の亜鉛のみが腐食され銅が残るため,多孔質のようになる。そのため,強度などは低下し,割れや破損を起こしやすくなる。脱成分腐食は黄銅以外にも鋳鉄の鉄部分が腐食する黒鉛化腐食やアルミニウム青銅のアルミニウム部分が腐食する脱アルミニウム腐食などがある。

応力腐食割れ

 応力腐食割れとは,環境,材料,応力という3種類の要因が重なったときに発生する割れを伴う腐食である。英語の表記からSCC(StressCorrosion Cracking)と略されることもある。応力腐食割れを起こしやすい材料としてステンレス鋼,黄銅,アルミニウム合金などがある。

 環境要因としては溶存酸素量,塩化物イオン(ステンレス鋼に影響),アンモニア(黄銅に影響)など。材料要因としてはステンレス鋼の鋭敏化,粒界腐食,孔食など。応力要因としては加工時の引張残留応力や溶接時の引張残留応力である。応力腐食割れに影響するのは引張残留応力で,圧縮残留応力ではない。

 ステンレス鋼は塩化物イオンの多い環境では孔食や隙間腐食を起こし,不適切な熱処理や溶接によって鋭敏化が起こり,粒界腐食を引き起こす。このような局部腐食は応力集中となる。そこに引張残留応力が加わると応力腐食割れが起こる。鋭敏化による粒界腐食から応力腐食割れが発生すると,その破面は粒界破壊となる。応力腐食割れは主にオーステナイト系ステンレス鋼で起こるため,フェライト系ステンレス鋼や二相系ステンレス鋼などを使用するのも対策の一つである。

 黄銅はアンモニアの多い環境では応力腐食割れが起きやすくなる。黄銅における引張残留応力は主に製造加工によるものである。かつて黄銅の割れはある季節に起きたため季節割れや,保管しているときに起きたため置き割れなどと呼ばれたときもあった。黄銅にとってアンモニアはとても有害で,応力腐食割れを防止するためにはアンモニア環境を防ぐことと,引張残留応力を熱処理によって除去することが重要である。

 応力腐食割れは環境,材料,応力の3 要因のうち1 要因でも改善すれば防げる。残留応力であれば熱処理による焼なましなど,環境要因では塩化物イオンやアンモニアを防ぐことなどである。

防食方法

金属を腐食から防ぐことを防食と言う。その分類を図5 に示す1),2)。大きく分類すると電気防食,皮膜防食,耐食材料,環境制御になる。
図5 防食方法の分類例

図5 防食方法の分類例

 電気防食とは,腐食反応時に発生する腐食電流(ガルバニック電流)に対抗する防食電流を流すこと。電気防食にはカソード防食とアノード防食があるが,アノード防食はあまり使用されないので電気防食と言えばカソード防食を示すことが多い。カソード防食は犠牲陽極法と外部電源法がある。犠牲陽極法とは,対象となる材料よりも卑な金属を接触させることによって卑な金属が腐食され,対象となる材料を腐食から保護すること。例えば炭素鋼を犠牲陽極法で防食する場合,鉄よりも卑な金属である亜鉛やアルミニウムなどを陽極として使用する。そのため亜鉛めっき鋼板は皮膜防食であるとともに,犠牲陽極法によって鉄を防食している。外部電源法は対極となる材料を対象となる材料と同じ環境に設置して,電源装置によって電流を流す。

 皮膜防食は,金属表面に腐食環境から防ぐ皮膜を生成させる。皮膜の種類によって金属,無機,有機,樹脂などの種類がある。その中でも代表的な皮膜防食がめっきと塗装である。めっきの材料として亜鉛,スズ,ニッケル,クロムなどがある。防食としてのめっきは下地金属との電位差が重要になる。めっきが剥がれて下地が露出したときに,下地よりも卑な金属がめっきされているときは,めっき部分が腐食される犠牲防食の効果がある。一方,下地よりも貴な金属がめっきされているときは,下地金属が腐食される。めっきの製膜方法として溶融めっき,電気めっき,無電解めっきなどがある。また,めっきは耐食性の向上以外にも,硬さ,耐摩耗性の向上,装飾のためにも行われる。

 耐食材料とは,炭素鋼よりも耐食性の良いステンレス鋼などを使用すること。しかし,ステンレス鋼でも塩化物イオンの多い環境では腐食される。ステンレス鋼でも耐孔食に優れた材料などがあるが,高価になる。また,腐食環境は塩化物イオン以外にもアンモニア,硫黄などさまざまな種類があり,腐食環境に適した耐食材料を選ぶ必要がある。

 環境制御とは,腐食反応物質の除去または腐食抑制物質の添加である。腐食反応物質はたくさんあるが,水(湿度)と酸素を除去することで腐食をかなり抑えることができる。腐食抑制物質はインヒビター,防錆剤,防食剤などと呼ばれている。防錆油などはその一例である。防錆油は完全に腐食をなくすことはできないが,安価で容易に使用できて腐食速度を下げてくれる。
参考文献
1 )藤井哲雄 監修:錆・腐食・防食のすべてがわかる事典,ナツメ社(2017)
2 )高橋政治,ほか7 名:技術士試験「金属部門」受験必修テキスト,日刊工業新聞社(2012)
3 )野原清彦:ステンレス大全,日刊工業新聞社(2016)
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