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機械設計 連載「機械設計者のための金属材料の基礎と不具合調査の進め方」

2025.09.29

第4回 鉄鋼材料とアルミニウムの特徴

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福﨑技術士事務所 福﨑昌宏

アルミニウムの基礎

 金属の中でもアルミニウムは密度が2.7 g/cm3で,鉄の密度7.87 g/cm3 のおよそ1/3 程度であり,軽金属と呼ばれている。アルミニウムが初めて工業的に利用されるようになったのは19 世紀のことであった。それから百数十年,現在日本におけるアルミニウムの年間出荷総量は約4000万tである5)。その量は金属材料としては鉄に次ぐ量になった。

 アルミニウム合金(アルミ合金)は軽量であること,軟らかく加工性が良いこと,電気や熱の伝導体としても優良なこと,腐食されにくいことなどの特性から身の回りのさまざまな製品に使用されている。特に自動車の低燃費,省エネルギーという観点から軽量化を考慮したときに,アルミニウムは大変有望な材料である。

 またアルミニウムは融点が低く660℃のため,溶解が容易である。そのためリサイクル性に優れており,日本でのアルミニウム缶のリサイクル率は約90%に達する。そしてアルミニウムを原料のポーキサイト(Al2O3を約50%含有する鉱石)から新規に金属に製錬するときと比較して,リサイクルするときのエネルギー量はわずか3%程度で済む。

 アルミニウム製品は,板や棒などの展伸材,溶解鋳造用の鋳造材,ダイカスト用のダイカスト材の3種類に分類できる。これらはJIS規格によって合金組成,熱処理,機械的性質などが決められている。そして展伸材と鋳造材では主に熱処理型合金と非熱処理型合金に分けられる。アルミ合金の展伸材のJIS 規格を表1 に示す5)。ダイカスト材では通常,熱処理は行わないため,そのような分類は見られない。
表1 展伸用アルミ合金の特徴

表1 展伸用アルミ合金の特徴

アルミ合金の時効析出過程

 アルミ合金の熱処理はAl-Cu系合金に見られる時効析出硬化が基本になる。Al-Cu系合金状態図を図4 に示す2)。そして,この強化機構に基づいてほかの熱処理型のアルミ合金も設計されている。例えばAl-4%Cu合金をα単相温度で保持し,均一なα相組織にした後に,急冷して常温で過飽和固溶体をつくる。これを加熱することで,過飽和固溶体からCuAl2(θ相)の析出によって材料が硬くなる現象である。アルミニウムの主な熱処理型の合金としては2000系(Al-Cu-Mg系合金),6000系(Al-Mg-Si系合金),7000系(Al-Zn-Mg系合金)がある。
図4 Al-Cu系合金状態図の一部

図4 Al-Cu系合金状態図の一部

 アルミ合金の時効析出過程を解説するときに,主にAl-Cu合金が用いられる。本稿でもAl-Cu系から時効析出過程を解説する。Al にCu は最大約5.6%固溶する。時効析出を利用する場合,最大固溶量に近い合金組成にすることが多い。その方が析出物の量が増えて硬化するからである。Al-Cu系の場合4%Cu程度を使用する。

 通常のこの材料はアルミニウムのα相と共晶組織となる。これをα単相温度で保持することで共晶組織がα相に固溶して,α単相組織となる。これを溶体化処理と呼ぶ。溶体化処理は共晶温度(548℃)付近まで温度を上げて加熱する。500~530℃程度で行うことが多い。もし,共晶温度以上に温度を上げてしまうと,共晶組織部分が溶解する現象が起きる。そのため,溶体化処理は必ず共晶温度以下で行われる。

 溶体化処理したら,急冷して過飽和固溶体を形成する。Al-4%Cu 合金は状態図によると常温ではα単相ではなく,そこに共晶組織が加わる2 相組織となる。そこで高温から急冷することでα単相から共晶組織を析出させる時間を与えずに,常温でもα単相組織を形成する。もし急冷が遅いと,α単相から共晶組織の析出が起こり,その後の時効析出で強度が得られなくなり,析出過程がうまく進まなくなる。

 過飽和固溶体を2 相領域の100~200℃程度に加熱するとθ相の析出が起こる。この析出はθ相が一気に析出するのではなく,段階的に起こる。そのため,硬さと析出時間をプロットすると,直線にはならず,いくつかの段階が現れ,最終的に硬さのピークが見られ,最後は低下していく。また,温度によって最高硬さに達する時間も変化する。その様子を図5 に示す5)。Al-Cu 系の析出過程はGPゾーン1,GPゾーン2,θ́ 析出,θ析出と表される。GPゾーンは発見したGuinier 氏とPreston氏に基づきGuinier-Preston Zone とも呼ばれる。これは時効析出の初期段階で,Cu 原子が集まり集合体をつくることである。まだθ相ではない。この集合体は厚さが原子1層程度,サイズが数nm程度である。
図5 時効析出硬化と時間の関係

図5 時効析出硬化と時間の関係

 GPゾーン1からGPゾーン2になると,集合体のサイズも厚く,大きくなる。このGPゾーンは周りのAlの結晶構造と無関係に析出するのではなく,Alの結晶構造に従って析出する。この状態は母相と整合性を保っているとも表現する。そしてθ́ の析出が起こる。このθ́も母相と整合性を保って析出してくる。GPゾーン2からθ́の析出が起こる過程で最大硬さを示す。最後に母相と整合性のないθ相の析出が起きる。この段階では逆に硬さは低下してしまうため過時効とも呼ばれる。

陽極酸化処理

 アルミニウムの表面は不働態皮膜を形成するので,通常の環境では耐食性は良い。しかし,アルミニウムの電位そのものは鉄よりも卑なため,酸化されやすい。そこで,表面処理を行い,耐食性をさらに向上させている。アルミニウムの表面処理として陽極酸化処理がある。これは「アルマイト」と呼ばれ商標登録されている4)。陽極酸化処理とは,電解質中でアルミニウムを陽極として電解する。そうすると,電解質,電流密度などの条件によってアルミニウム表面に皮膜が生じる。この皮膜を陽極酸化皮膜と呼ぶ。

 アルミニウムの陽極酸化皮膜は主に緻密なバリア層と孔のある多孔質層に分けられる。これを図6 に示す5)。アルミニウム下地のすぐ上にはバリア層ができ,その上に多孔質層ができる構造が多く用いられている。多孔質は孔があることで表面が活性になり,酸素などと結合し耐食性を損ねてしまう。そこで封孔処理という,孔を封じる処理がある。これによって表面が不活性になり,耐食性などが維持される。一方,陽極酸化皮膜の多孔質層に塗料を入れることでさまざまな色彩を出すこともできる。
図6 Kellerの陽極酸化皮膜モデル

図6 Kellerの陽極酸化皮膜モデル

アルミニウムの溶接

 近年,低燃費,省エネルギーなどの観点から自動車の軽量化が進められている。その中で,自動車や鉄道などでアルミ合金の利用が増加している。これら製品に使用するときに材料を接合する技術も重要になる。アルミニウムを溶接する場合の注意点として,表面のアルミニウム酸化膜の融点が高く,接合が妨げられること,熱伝導率が良いので,溶融状態や溶け込みが刻々と変化し不安定な溶接ビードになりやすいこと,水素を原因としたブローホールが発生しやすいこと,溶接の入熱による熱膨張や冷却時の収縮によってひずみや溶接割れが発生しやすいことなどの問題がある5),6)。アルミ合金を溶接する場合,不活性ガスを利用するTIG溶接やMIG溶接が使われる。また近年,アルミ合金を溶融せずに固相のまま接合するFSWの技術も発達してきた。

 アルミニウムをTIG溶接するときは,クリーニング作用を利用して表面の酸化膜を除去しながら溶接を行う。アルゴンなど不活性雰囲気中では電極側をプラス極,溶接材(アルミニウム側)をマイナス極にすることで,溶接材から電極側へ電子が流れる。このときに溶接材から電子が発生する場所を陰極点と言う。陰極点から電子が放出されるときに表面の酸化膜が除去される。これをクリーニング作用と呼ぶ。実際に溶接するときは,電極をプラス極,溶接材をマイナス極の直流で行うと,電極の消耗が大きいので,交流電源で溶接を行う6)。MIG溶接では直流で電極をプラス極,溶接材をマイナス極として溶接を行うのが一般的である。
参考文献
1)一般社団法人日本鉄鋼連盟HP,全国鉄鋼生産高
2)Editor-in-chief,Thaddesu B. Massalski,ほか3 名:Binaryalloy phase diagrams 2nd edition 1990,ASM International
3)武井英雄,中佐啓治郎,篠﨑賢二:機械材料学,オーム社(2013)
4)高橋政治,ほか7 名:技術士試験「金属部門」受験必修テキスト,日刊工業新聞社(2012)
5)里達雄:アルミニウム大全,日刊工業新聞社(2016)
6)野原英孝:現場で役立つ溶接の知識と技術,秀和システム(2012)
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