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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.05.30

第12回 自社の要素技術力向上に若手技術者をどう関与させるか

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FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「自社の要素技術力向上に対する若手技術者のかかわらせ方がわからない」とき、「学術論文投稿に挑戦する中堅技術者の業務支援を通じ、技術チームへの貢献の重要性を理解させる」。

はじめに

 モノづくりを生業とする製造業の企業において、“要素技術力”は生き残りと成長に必須である認識を持たれている方は多いのではないだろうか。この要素技術力の源泉となるのは、技術者による研究開発業務の推進だ。これは感覚的な話ではなく、データに裏付けられている側面もある。経済産業省が2002 年度から2014 年度まで行った「企業活動基本調査」によると、売上高に占める研究開発費が高い方が、調査全期間において営業利益率が高いことが示されている1)。当然ながらお金をかければ研究開発がうまくいくわけではなく、業務を実際に担う技術者の姿勢やスキル、そして何より当事者意識に裏付けられた熱意が不可欠だろう。言い換えれば、これらの教育に直結する技術者育成は要素技術力向上に重要なのだ。

 今回は企業の要素技術力向上に焦点を当て、技術者育成を念頭に置いた若手技術者の関与のさせ方について考えたい。

若手技術者戦力化のワンポイント

 「自社の要素技術力向上に若手技術者をどうかかわらせればいいかわからない」とリーダーや管理職が感じたときは、「国際的な科学誌への論文投稿に挑戦をする中堅技術者の時間捻出を主目的とした業務支援を通じ、技術チームに貢献する重要性を理解させる」ことを行ってほしい。要素技術力向上において若手技術者に求められるのは、自らが前線に立つことではなく、挑戦をする中堅技術者への支援を通じた技術チーム内での信頼構築だ。

国際科学誌への学術論文投稿は狭い組織の安全地帯にこもりがちな技術者の目線を外に向けさせる重要なきっかけとなる

 若手技術者よりも中堅やベテランの技術者に多いのが、自らがわかる専門領域と自負する“安全地帯”に閉じこもることだ。若手技術者の頃は自らの基軸となる技術的な強みを獲得するため、組織の中で何かしらの技術領域で実務経験を積むことが必要だ。しかし、中堅以上となり実務推進スキルが高まってきた技術者は、その安全地帯にとどまっていてはいけない。自らの経験が通用する組織の“外”で、自らがその技術の専門家として通用するか“腕試し”することが求められる。向上心は技術者育成効率を高める要素の一つなのだ。

 この観点において国際科学誌への学術論文投稿は腕試しに最適な方法の一つだろう。自らの技術的な主張や考察展開が、第三者目線を有する類似技術分野の専門家から見て、技術的な進歩や進展の要素があるかを判断される機会が提供されるためだ。よって後述のとおり、“査読”がある国際科学誌が論文投稿先の前提となる。

学術論文投稿を前線で取り組むのは中堅技術者

 本連載は若手技術者の戦力化が主題である。しかしながら、科学誌への学術論文投稿に取り組むべきは若手技術者ではなく、組織内では技術業務推進スキルが十分である中堅技術者が望ましい。若手技術者がどのようにかかわるべきかについては後述する。

何について学術論文を執筆するか

 ここから学術論文投稿に向けた内容を述べていく。そのため、言及対象は中堅技術者であることをご了承いただきたい。

 まずやってはいけないのは、「学術論文向けに業務テーマを設定する」ことだ。大学や研究機関に属する学術業界の研究者と異なり、技術者は通常、企業に勤めている。企業で求められるのは、最終的に何かしらの技術やサービスを生み出し、売上げを創出することにある。そのため、企業に勤める技術者が取り組むべき研究開発業務の技術テーマは、前述した“企業の求めるもの”に関連していなくてはならない。つまり、学術論文投稿が“目的化”してはいけないのだ。企業の要素技術力向上に向けた研究開発業務の中で、学術論文に投稿できる内容の可能性があるものを選定するという考えが肝要だ。あくまで日常の技術業務が幹であり、学術論文向けのテーマはその枝葉として派生したものであるべきだろう。

 学術業界の研究者は、学術論文が成果として認識される世界だ。その世界であれば学術論文投稿が、目的の一つであって当然だ。しかし、そこには企業に勤める技術者では想像しがたい厳しい競争世界がある。技術者は学術界ではなく産業界に身を置いていることを改めて認識することが求められる。

学術論文を投稿する科学誌はどう選ぶか

 中堅技術者が日常的に推進する技術業務に関連する専門領域を念頭に、学術論文を投稿する科学誌を選定する。日本語や各地現地語だけで掲載されるものではなく、英語を基本とした国際科学誌を選んでほしい。後述する査読者の幅が広がるのと、読者が多くなるため掲載された後に引用される可能性も高まる。

 国際科学誌に関する情報が少なければ、業務関係を有する、または知り合いの大学関係者に相談するのも一案だ。筆者も国際科学誌選定においては、大学教員をしている同窓生に相談をした。世の中には査読が緩いうえ、後になって投稿に費用を要求する科学誌も多く存在し、論文の質が全体的に低いものもあるため、インターネットなどの情報だけで選ぶのは避けたい。

 1 つの指標として出版社がある。歴史ある科学誌出版社のSpringer Nature、Wiley、Elsevierなどが一例だ(図1)。ただ、あくまで出版社なので、中堅技術者が投稿先を選ぶ際は、大学関係者と相談することを推奨したい。
図1  学術論文投稿先を選定するにあたり出版社を確認するのは一案

図1  学術論文投稿先を選定するにあたり出版社を確認するのは一案

 加えて査読がある科学誌が望ましい。掲載可否を判断する第三者の専門家の査読者、いわゆるレフェリーがいるのは前提としたい。レフェリーについてはこの後でも触れたい。
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