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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.07.23

第14回 若手技術者を生産性向上の取組みに貢献させたい

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FRP Consultant 吉田 州一郎

相手に要望を伝えるには普遍的スキルが必須

 過去の連載でも述べたが、技術者には技術業界に依存せずに求められる“普遍的スキル”が存在する2)。この中で主となる要素を構成するのが論理的思考力だ。論理的思考力はさまざまな表現があるが、筆者の考える“技術者が理解しておきたい論理的思考力”とは、「自らは専門知識を持っているという周知欲求を抑制し、相手に理解できるよう自分の頭を整理し、伝えられる力」である。この力は生産性向上の取組みでも不可欠である。思考の丸投げではなく、他組織に自分たちは何をしてほしいのかの情報を提供するにあたり、既述の論理的思考力が不可欠なのは明らかだろう。

 論理的思考力を鍛錬することは、自らが思いついたところから話し始めるという思考の癖を修正するのに役立つ(図3)。自らの思考を丁寧に整理できる力がつかないと、技術者の本業の一つである研究開発で成果を出しにくくなる。日々の技術業務を俯瞰的に眺め、そこから試行錯誤しながら真実に近づく姿勢は、研究開発業務の本質だからだ。
図3  技術者は自分の頭に浮かんだことから話し始める癖を直し、考えを整理する力が求められる

図3  技術者は自分の頭に浮かんだことから話し始める癖を直し、考えを整理する力が求められる

要望の情報提供は口頭だけでなく活字でできるようにする

 自分の頭を整理して話をすることは、頭で理解すればすぐにできるような感覚を持たれた読者もいるだろう。本当にそれができているかは、「頭の中で考えたことを、活字として示せるか」で確認できる。

 例えば生産性向上に関し、自分たちの要望を口頭で他組織の方々に伝えるとする。すらすらと相手が理解できる順序で要望を説明できる技術者もいるかと思うが、おそらく多くの技術者は“言い直し”や“提供する情報の繰り返し”、さらには“話す順序の修正”が行われるだろう。これらは口頭だからこそ可能だ。

 同じことを活字で行う場合、言い直しには修正が、記述順序の修正には文章構成の変更が必要となる。このように、活字は話し言葉と異なり、修正や変更に“手間がかかる”のだ。

 しかし、この手間こそが技術者育成では重要となる。前述の論理的思考力の向上で最も必要なことは、修正や言い回しが容易ではない活字を通じて最も効率的に鍛錬ができる。手間をかけるということはそれだけ思考的な負荷がかかることであり、その負荷をもう経験したくないという意識づけが、論理的思考力向上に必要なのだ。

 以上のことから、生産性向上に若手技術者を貢献させるにあたっては、情報提供内容を“書く”ことを求めたい。

生産性向上で若手技術者が貢献するべきは図面や仕様書の作成に役立つ要望書をつくること

 ここから生産性向上に向け、若手技術者に何をさせるかについて述べていきたい。リーダーや管理職が生産性向上の取組みに若手技術者を貢献させたいと考えた場合、最初に取り組ませるべきは表2 に示した観点に関する明文化だ。これが“要望書”である。
表2  生産性向上に向け、若手技術者に明文化させたい要望書の内容

表2  生産性向上に向け、若手技術者に明文化させたい要望書の内容

 ここで記述した内容は、生産性向上に必要な設備の図面やソフトウェアの仕様書などに該当し、技術者が明確化できることは不可欠である。そして第三者にこれらの内容を伝えるためには明文化できるまで整理できていることが重要であり、この対応を若手技術者が実施できれば、生産性向上の取組みに大きく貢献する。

生産性向上に向けた要望書作成には若手技術者の業務理解が第一歩

 既述の要望書作成にあたり、若手技術者に丸投げして行わせるのではなく、リーダーや管理職が支援するのが一般的である。ここでのポイントは若手技術者の生産性向上の取組み対象である業務の理解だろう。

 本観点から、最初に取り組むべきは、もし生産性向上に関連する設備やシステムが存在するのであれば、それらを実際に動かすことによって業務に対する理解を深めさせるのも一案だ。

 また、関係する人物をつなぐことも重要だ。技術業務は一人、二人で完結する内容とは限らず、場合によってはより多くの人数、そして他部署との関連が出る場合もある。これらの人脈は若手技術者にはないため、話を聴ける人物をつなげるのもリーダーや管理職の重要な仕事だ。

要望書内での技術要件はできる限り定量化する

 生産性向上への取組みで、若手技術者にもう一つ意識させたいのが“技術要件の定量表現徹底”だ。若手技術者も技術者である以上、定性的、感覚的表現はできるだけ排除し、数値化できるところはできる限り数値で示すべきだ(図4)。

 工程時間を何%短縮すればいいか、工程変更に伴う製品寸法の数値変動は±で何mmまで許容されるかなど、数値で示せるところは徹底的に定量表現を行うよう、リーダーや管理職は指示を出してほしい。定量化をしようとする思考活動自体が、技術者間の良質な議論を誘発するきっかけとなり、結果的に若手技術者の論理的思考力を中心とした普遍的スキルの鍛錬につながる。
図4  技術者である以上、雲をつかむような定性的表現ではなく定量的にこだわるべき

図4  技術者である以上、雲をつかむような定性的表現ではなく定量的にこだわるべき

本記事に関する一般的な人材育成と技術者育成の違い

 一般的な人材育成と技術者育成の違いを表3 に示した。生産性の向上というキーワード自体は多く見聞きするが、この取組みに通ずる一般的な人材育成は多くないかもしれない。強いて言えば、ビジネスコミュニケーションが関連するものとして挙げられる。報連相を基本に、社内の人物と情報のやり取りを適切に実施することは、生産性向上の取組みにおいても基本となる。情報の伝達方法は活字ではなく口頭をベースとすることが多いだろう。ビジネスコミュニケーションは日々のやり取りを念頭に置いているため、情報量の多い口頭を基本とするからだ。また、営業職のように社外で話すことが求められる業種を除き、社内の方々とのコミュニケーションを想定すると考えられる。
表3  生産性向上への取組みに関連した一般的な人材育成と技術者育成の違い

表3  生産性向上への取組みに関連した一般的な人材育成と技術者育成の違い

 これに対して技術者育成は、図面や仕様書の作成が生産性向上の目標到達点にあることを前提としている。自分たちの求める要件を、できる限り定量化したうえで明文化し、その要望書を叩き台として図面や仕様書を仕上げるために必要な、“自分たちの求める技術要件の明文化”を基軸としたOJTでの業務支援を行う。さらには定量化できた技術要件は、必要に応じて統計学の考え方も用いながら公差設定などを行うことを指導する。

まとめ

 生産性向上への取組みでは、技術者が大きな役割を果たすことができる。ここで業務委託という掛け声のもと、他社や他部署に丸投げをするのは、技術者としての成長の機会を自ら捨てていることになる。生産性向上を実現するには、自分たちは何をしてもらいたいのかという要望を明確化したうえで、それを技術要件として落とし込み、図面や仕様書を作成することが必須だ。この一連の動きには、論理的思考力や技術文章作成力といった技術業界不問の技術者の普遍的スキルが大変重要である。当該スキルはOJT による“経験値の蓄積”によってのみ成長するものであるため、若手技術者にこの業務を担当させることは、生産性向上を実現するという主目的に加え、若手技術者育成にもつなげることができる。
参考文献
1) 2024年版ものづくり白書、第3章 価値創造に資する企業行動、第2 節 製造業の投資動向
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2024/pdf/honbun_1_3_2.pdf( 参照 2024-08-06)
2) 吉田州一郎:第1 回 技術者の普遍的スキルとは何か、機械設計、Vol. 66、No.5(2022)
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