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機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2025.07.23

第14回 若手技術者を生産性向上の取組みに貢献させたい

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FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「若手技術者を生産性向上の取組みに貢献させたい」ときは、「生産性向上を実現する設備/ソフトなどの図面や仕様書の作成に向け、自社の技術要望を活字化して伝える」ことに取り組ませる。

はじめに

 製造業企業において“生産性向上”への取組みは、必要不可欠かつ日常的なものになっている。2024年版ものづくり白書の中の“価値創造に資する企業行動1)”において、有形ならびに無形固定資産投資の効果として“生産性向上”を最上位に挙げており、企業規模によらず注目すべきキーワードとなっていることは明らかといえよう。日本はほかの先進国と比べ労働生産性上昇率への無形固定資産の寄与率が低いなどの課題もあるが、今後も生産性向上に向けた企業の取組みは継続するものと考えられる。

 製造業企業が生産性向上への取組みを進めるにあたり、技術者の貢献は不可欠といえる。特に柔軟性の高い若手技術者を当該取組みの戦力にすることは、持続的な生産性向上を実現するという長期目線の戦略と合致する。今回は生産性向上の取組みに対し、若手技術者を貢献させるにあたり、必要な技術者育成を考える。

若手技術者戦力化のワンポイント

 「若手技術者を生産性向上の取組みに貢献させたい」とリーダーや管理職が考えた場合、「生産性向上を実現する設備/ソフトなどの図面や仕様書の作成に向け、自社の技術要望を活字化して伝える」ことを、若手技術者に取り組ませてほしい。

生産性向上は若手技術者自身にも期待されている

 生産性向上への取組みにおいて、将来企業技術の軸となる現場の若手技術者たちは、この言葉をどのように捉えているだろうか。例として、筆者が主に20 代から30 代前半の若手、中堅の技術者向けの研修に講師として参加した際のやり取りを紹介したい。

 この研修の目的は生産性向上を目指すことではなく、技術業界不問の技術者の普遍的スキルの習得に向けた基礎を教えることにあった。普遍的スキルを学ぶ動機を、聴講者である若手、中堅技術者の方々に理解してもらうためには、自分たちが企業から何を期待されているかを理解することが第一歩と筆者は考えた。そこで投げかけたのが、「今、会社から自分たちが期待されていることは何と考えるか」という言葉だ。参加していた技術者の方々の所属する企業は、製造業と一言で言っても、医療、化学、機械、食品、農業、電気電子など多種多様だった。しかしながらほぼ全員が、「自分たちは業務における生産性向上を求められている」という趣旨の回答をした。企業において中堅技術者だけでなく、若手技術者にも効率良く業務を推進することが求められており、技術者育成はその受け皿となるスキルになることを、リーダーや管理職など、技術者を研修に参加させた方々は考えていると感じた。程度の差はあれ、若手技術者に生産性向上の意識を持たせたいという考えは、ほかの企業でも同じではないかと考える。

生産性向上に向けたよくある“望ましくない”取組み

 今回の記事では、主として有形固定資産でいえば設備、無形固定資産ではソフトウェアやシステム導入による生産性向上を例に考える。これらの取組みは自社で完結することは基本的に困難であり、技術や製品を有する“他社”に協力を要請することが一般的だろう。企業規模によっては、社内の“他部署”に同様の依頼をすることがあるかもしれない。いずれにしても、“自組織の外”とのかかわりが出るのが通常だ。このような自組織の外とのかかわりが、若手技術者が生産性向上の取組みに参画する際に重要な“分かれ道”となる。

 技術者の育成の観点から見て、この分かれ道で望ましくない方向から紹介する。生産性向上に向けた設備やソフトウェアを提供、もしくは導入支援する他組織に対し、「生産性向上について、とりあえず話を聴かせてほしい」というスタンスが典型例だ。生産性向上という言葉は存在する、ただそれに向けて何をすればいいのかわからないので、とりあえず生産性向上という言葉に引っ掛かる組織に声をかけ、話を聴いてみよう、というイメージである。このような初動が大きな問題ではないと、もし読者であるリーダーや管理職、または現場の技術者の方々が感じたのであれば、一度立ち止まることを推奨したい。なぜならば、このような動きは筆者から見ると、「思考の丸投げ」にしか見えないからだ(図1)。思考の丸投げとは、自分自身は考えることをやめ、相手に考えを“委ねてしまう”ことと同等である。“とりあえず”という言葉が最初に出ている時点で、まず自分の思考を整理してみよう、という意識がかなり希薄である。なぜならば、“とりあえず”の後に含まれる意識を明文化すれば「ほかの人に考えてもらおう」となるはずだからだ。
図1 思考の丸投げをする技術者の成長は必ず止まる

図1 思考の丸投げをする技術者の成長は必ず止まる

 筆者の技術者育成の基本コンセプトは、“製造業の技術者を自発的に行動し、課題解決できるエキスパートに”である。自発的に行動するとは、何も考えずに行動を起こすという意味ではなく、技術者ならではの強みを活かして自ら考え、その考えに従って実行することを意味する。他人に考えてもらうことは、行動を起こすということ“だけ”でいえば自発的だが、技術者育成という技術者の成長を目指す観点から見ると、受け身でしかない。受け身の技術者は絶対に成長しない。よって、とりあえず話を聴いてみようという考え方をベースに仕事をする若手技術者は、将来的に受け身の技術者へと変質していく。そのため、生産性向上の取組みを先導するリーダーや管理職は、ご自身の言動が思考活動の丸投げになっていないかを自己点検することが求められる。若手技術者は、上にいる人間が行うことの影響を受けやすいためだ。

“思考の丸投げ”ではなく要望の“情報提供”を厚くすることが技術者育成の観点で望ましい方向性

 前述の思考の丸投げは表1 に示す2 つの側面がある。思考の丸投げをする技術者の多くは、情報収集を含む“聴取”を重視しがちだ。一方で、生産性向上を実現するにあたり最重要の、自分たちは何がしたいかという“情報提供”が少ない。他組織に対し、この情報提供を厚くするのが前述の分かれ道のうち望ましい方向だ。これを行うことで、他組織は相手が求める生産性向上に向け、自社や自組織の製品やサービスのうち、何が有効であるかを検討することが可能となる。ここに来て初めて“議論”ができるのだ。
表1  思考の丸投げの状態に陥った技術者の会話バランス

表1  思考の丸投げの状態に陥った技術者の会話バランス

 何ができるかといった聴取を中心とした動きではなく、自分たちは生産性向上に向けて何をしたいかという要望に関する情報提供を行うことが、当該取組みに若手技術者を貢献させるための必要最低条件といえる(図2)。
図2  相手からの聴取ではなく自分たちの要望を伝えることが生産性向上の取組みで不可欠

図2  相手からの聴取ではなく自分たちの要望を伝えることが生産性向上の取組みで不可欠

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