請負業務の考え方を研究開発の技術者に当てはめることが数値の羅列を提出する行動を促す
企業組織が前述の考え方であれば、研究開発を担う若手技術者にも同様の要求がされるだろう。技術者にとっての成果物を、最終的な結果である前出の新しい技術や製品の創出としてしまうと、技術者としての本質である途中経過の試行錯誤や技術的な議論といった“見えにくい取組み”を成果として認めてもらえない。技術業務の実践経験を通じた知恵を有する中堅、ベテラン技術者であれば、最終的な結果である成果を出すことも可能だろう。しかし、知恵以前に実務経験も不足する若手技術者がそこに到達するのは容易ではない。
このような状況下、さまざまな意味で効率重視の若手技術者が考えるのは、「手っ取り早く成果物になるものはないか」ということだ。技術評価をするよう指示を受けた若手技術者が、冒頭紹介したような“数値の羅列”が手っ取り早い成果物であると認識し、それをそのままリーダーや管理職に提出するという流れが、こうして出来上がる。
製造業企業で請負の姿勢が求められるのはオペレーター(作業者)という高度な職種
請負という考え方は製造業企業でどこにも当てはまらないかというと、そうではない。請負業務の枠組みで動くべきは、技術者の中でもオペレーター(作業者)と定義される方々だ。オペレーターの役割は長年蓄積した経験を活用しながらも、できる限り短時間で安定した品質の製品を要求量生産して、顧客に“供給し続ける”という製造業企業の生命線となる“売上げの実現”の重責を担う。このような職種では、どのような外的環境、例えば想定外の品質問題、生産調整、または自然災害などがあったとしても、徹底した品質と供給の安定、そして高い業務効率も求められる。このように決められたものを、時に不確定要因を抑制しながら安定して続けることは“大変高度な業務”だ。このような業務は請負業務として定義し、業務時間内に安定して製品を創出した“結果”を成果物として評価すべきである。
研究開発を担う技術者にとっての成果とは
これに対して、主に研究開発を担う技術者は請負業務とは距離を置いた考え方で成果を定義する必要がある。筆者の考えるこのような技術者の目指すべき成果は、「どのような技術評価をすべきか考え、それを計画立案のうえ実行し、得られた結果を第三者にもわかるようにまとめる」ことだ。どこかの点というより、この“一連の流れ”を成果として定義するのが、研究開発を担う技術者向けの育成では大変重要だ。
ここでは特許出願数も新製品や新技術の創出という言葉もない。研究開発で不可避な試行錯誤や技術的議論、つまり技術の創出や発展という目標に向かう取組みを成果として定義すべきというのが筆者の考えだ(図2)。よって成果物としては、技術評価の検討に該当する“技術評価計画書”1)、実験・試験の実施、そして結果をまとめた“技術報告書”2)だ。成果物として2 つの書類があるが、これらの詳細については過去の連載記事を参照してほしい。
図2 研究開発を担う技術者にとっては、試行錯誤や技術的議論といった見えにくい取組みも重要な成果
成果について話がかみ合わない可能性のある若手技術者
ここまで述べたことをリーダーや管理職が理解し、研究開発を担う若手技術者に対して実際に成果物の話をすると仮定する。しかし、リーダーや管理職が若手技術者に技術業務の指示を与えるにあたり、頭の中ですべてが理解できているリーダーや管理職の指示は、時に抽象的、定性的になってしまうことも多い。若手技術者は多くの場合、これに対して理解したという趣旨の返事をすると思うが、本音としては以下のような点を確認したいと考えるはずだ。
・ こんな感じとは、具体的にどのような手順か
・ 求められているアウトプットは評価をすることだけか
・そのような評価を行う背景は何か
・そもそも評価を行う目的は何か
上記を確認できる若手技術者は心配ないが、心の中だけにとどめる若手技術者も多い。これは何度か述べている通り、専門性至上主義ゆえ、質問や確認をすることで、自分が指示内容を理解していないと思われたくない、という若手技術者の心理による。
当然ながら抽象的または定性的な指示を出すリーダーや管理職に大いに非はあるが、それをそのまま自己完結して走り出そうとする技術者側にも問題がある。前出の確認をしないまま若手技術者が技術業務を進めると、業務内容によっては数値の羅列が出てくることは想像に難くない。リーダーや管理職が若手技術者に求める成果(物)が何かについて、正確に伝わっていないのだ。
若手技術者に伝えるべき技術業務の成果構成の3要素
ではリーダーや管理職は、どのようなことを成果として評価すると伝えるべきだろうか。技術業務のうち、技術評価を一例に考える。
ここでのポイントは成果を“構成する3 要素”を伝えることにある。それらは、評価方法の詳細、生データの視覚化、結果を踏まえての意見の3 つだ(表1)。
表1 技術評価という技術業務の成果を構成する3 要素
評価方法の詳細は、具体的にどのような手順で技術評価を行ったのか、適宜画像や動画を用いながらまとめることだ。生データの可視化は、冒頭の例でも示したように数値の羅列をグラフにする、画像を組み合わせる、または撮影画像に矢印をつけるなどして何を見るべきかを視覚的に理解できるようにすることにある。結果を踏まえての意見は、その技術業務を実際に行った若手技術者が、業務を通じてどのようなことを感じたか、考えたかということを簡潔に活字としてまとめることを意味する。
これら3 要素を技術業務開始前に若手技術者に成果として伝えることで、リーダーや管理職と若手技術者間のすれ違いが減り、若手技術者から例えば数値の羅列といった的外れなアウトプットが出てくることは激減するだろう。そして何より、これらの3 要素が揃うことは、技術評価計画や技術報告書といった、技術業務の成果物に直結しているのだ。これらの積み重ねこそが、技術の伝承や深掘りの土台となり、結果として企業組織の技術力の強化へとつながる。
“考える”ことにこだわった時間の浪費を防ぐ
ここで一点、リーダーや管理職が注意すべき点を述べておく。それは、「“考える”ことにこだわった時間の浪費を防ぐ」だ。
若手技術者は“考えること”や、“考察の作成”に必要以上に時間を使いすぎる傾向にある。多くの試行錯誤を含む技術業務経験に裏付けられた知恵こそが、このような思考のスピード向上と、妥当なアウトプットに不可欠であることを考えれば、これらが不足する若手技術者がどれだけ時間をかけても、良質なアウトプットは期待できない。ここは焦らず、技術者育成の枠組みの中で若手技術者に技術業務の実践経験を積ませることが最短だ。よって、リーダーや管理職は若手技術者の“考える”ことについては、ある程度期限を決め、若手技術者の貴重な若い時代の時間を自己流の思考で浪費させない管理が必要となる。
同時になかには考えることが苦手な若手技術者が存在することにも注意が必要だ。その場合は、適性に応じた業務設計をすることで、技術チームという組織の一員として活躍させる臨機応変な対応がリーダーや管理職に求められる3)。
まとめ
効率重視をスローガンにする若手技術者は、向上心が強い者、プライベートを重視したい者、どちらのタイプも成果物を焦るという共通点がある。技術評価のような、本来研究開発を担う若手技術者が成果を示す場面にもかかわらず、効率重視で成果物提出を急ぎたいという考えにとらわれてしまうと、羅列された数値データの提出という理解に苦しむ行動を起こすこともある。しかしながらそのような動きを助長しているのが、若手技術者だけでなく、場合によってはリーダーや管理職、そして企業組織そのものが、業務はすべて請負業務であるという硬直化した思考にあることは盲点だったかもしれない。
これを避けるためには成果を構成する要素をあらかじめ若手技術者に対して明確に伝え、技術業務終了後に出てくるアウトプットが成果物につながるものになるよう誘導することが必要だ。研究開発を担う技術者にとっての成果は、最終形態である新しい製品や技術の創出だけでなく、そこに至る試行錯誤を示し、技術的議論を誘発する技術評価計画書や技術報告書、そして実験や試験であることを共通理解とすることが肝要だ。
参考文献
1 )吉田州一郎:第22 回 若手技術者の暴走や停滞で技術業務推進効率が低い、機械設計、Vol. 69、No.7(2025)
2 )吉田州一郎:第5 回 普遍的スキルの鍛錬に最適な技術報告書とは何か、機械設計、Vol. 66、No.9(2022)
3 )吉田州一郎:第27 回 考えることが苦手な若手技術者に任せてみたい技術業務、機械設計、Vol. 69、No.12(2025)