icon-sns-youtube icon-sns-facebook icon-sns-twitter icon-sns-instagram icon-sns-line icon-sns-tiktok icon-sns-etc
SEARCH

機械設計 連載「若手技術者戦力化のワンポイント」

2026.09.24

第31回 理系学生時代のインターン経験は若手技術者に必要か?

  • facebook
  • twitter
  • LINE

FRP Consultant 吉田 州一郎

よしだ しゅういちろう:代表取締役社長。東京工業大学工学部卒業後、Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程修了。繊維強化プラスチック関連の技術指導や支援を企業に行いながら専門性鍛錬を行う一方、技術者に特化した育成事業を法人向けに展開。自らの10 年以上にわたる研究開発と量産ライン立上げ、国内外企業連携によるプロジェクト推進の経験を踏まえ、繊維、機械、化学などの企業の研究開発現場での技術者育成の指導、支援に尽力。福井大学非常勤講師。
若手技術者戦力化のワンポイント
「理系学生時代のインターン経験は若手技術者に必要か否かが人材育成や採用で議論になった」場合、「理系学生にはインターンよりも研究室生活を最優先とさせる」判断をする。

はじめに

 最近、さまざまなメディアで、採用にインターン(インターンシップ、就業体験)情報を活用することの意義が述べられている。経団連と大学でつくる産学協議会がインターンでの評価を含む学生の情報を、採用選考で活用できることで合意したのは一例である1)。端的に言えば、インターンが就職活動の一部として扱われるようになっている。企業にとってはインターンでの学生の振る舞いを見て、採用可否判断の一助にできるというメリットを感じているのではないだろうか。 

 今回はインターンを受けるという議論の対象を、主に大学、大学院での研究室生活を送った後、製造業企業に入社して技術者となる“理系学生”に絞る。この前提において、インターンという取組みが、技術者育成という観点で必要不可欠か、という問いかけについて考えてみたい。 

 本記事ではインターンの必要性と意味を企業、理系学生という異なる視点から改めて考え、また技術者育成の観点からインターン以上に重要な、入社前の理系学生に求めたい姿勢を述べる。

若手技術者戦力化のワンポイント 

 理系学生時代のインターン経験は若手技術者に必要か否かが人材育成や採用で議論になった場合、理系学生にはインターンよりも研究室生活を最優先とさせる判断をする。

理系学生にとっての大学の役割とは何か 

 本連載記事の主たる読者であろう、技術チームのリーダーや管理職、または人材育成、採用担当者の方々に問いかけたい質問がある。それは、「将来技術者として入社する理系学生が学ぶ大学の役割とは何か」だ。これについて、さまざまな意見をお持ちかと思う。筆者の本問いかけに対する答えは、「学術界において、何かしらの専門領域の発展に貢献する研究者を養成する」ことにほかならない。言い換えれば、「産業界の求めるような、企業に勤務する技術者を育成するところでは“ない”」というのが筆者の意見だ。

 さまざまな事情によって産学連携といった言葉をトレンドワードのように多く見聞きするが、筆者はこの流れに対して肯定的な意見を持っていない。産業界と学術界を近づけることは、結果的に学術界の発展という基礎研究の土台を揺るがしかねず、産業界で言えば“入社後の技術者としての質の低下”につながりかねない、危険な流れであると筆者は考えている。 

 いずれにしても、大学の役割を今一度認識してもらうことが、今回の記事の内容を読んでいただくにあたっての前提となる。大学は産業界のためだけに存在しているのではないのだ。

大学3年までと研究室生活の違い 

 インターンの話に入る前に、前述の前提を踏まえて理系学生の大学生活について触れたい。大学に通う理系学生は、4 年生(4回生)以上になると、研究室に属することになる。ここで大学生活は大きく変わることになるだろう。その違いはどこにあるだろうか。 

 大学3年生までは“ある程度わかっていること”が勉学の基本となる。高校までの授業と大きな違いはない。参考書や教科書を用いながら講義を受け、実験を行い、レポートの作成と提出、または試験を受けることによって単位を取得する。ここでは必ず模範解答という“よりどころ”がある。 

 それに対して、研究室に所属する大学4 年生以上になると状況は一変する。授業はほとんどないだろう。担当教官からテーマを与えてもらい、助言や指示を仰ぎながら、「できるか、できないか、さらに言うと、(安全上の懸念を除き)何が起こるかわからない」といったことに取り組む、いわば試行錯誤の世界となる。大学院に進めば研究テーマについて、場合によっては自分で決めることもあるだろう。博士課程になれば自分で当該テーマの設定をするのが一般的だ。必要に応じて文献調査やほかの研究者や先生に助言を仰ぎながら、次の一手を考える、得られた結果のメカニズムを推測する、そして最後は学会や科学誌の学術論文で自ら行ったことを発表する、といったことを行っていく能動性と積極性、そして柔軟性が求められる。

研究室生活は個人プレーが許される貴重な時間

 前述の通り、研究テーマの推進は適宜指導教官と議論しながらも自分で進めるべきことが多いため“個人プレー”が主となる。企業においてはチームプレーが前提となることを考えれば、「個人プレーが中心となる理系学生の研究室生活は、試行錯誤を通じた本質的な技術スキルを身につけるには最良の環境」なのだ。技術者が本質的には好む個人プレーと自己裁量権が認められ、研究テーマだけに没頭できる研究室生活は特別であると同時に、“貴重な時間”である。後にも先にも、実験や試験などの作業を行いながらも、個人プレー中心での生活が許されるのは大学(院)の研究室だけだ。

研究室生活で培われる技術者の普遍的スキル 

 研究室生活で体験できること、学べることは技術者の普遍的スキル醸成に直結する部分が多い。能動的姿勢と試行錯誤は一例だ(表1)。
表1  研究室生活を通じて得られる技術者の普遍的スキルとその理由

表1  研究室生活を通じて得られる技術者の普遍的スキルとその理由

 能動的姿勢とは、自分から積極的に研究テーマを進める行動の基本だ。研究テーマは理系学生自身が動かないと前に進まないのが一般的である。検証したいことを考え、実験し、それをノートに記録して、指導教官と議論する。必要に応じた指導教官の指示を仰ぐことも重要だ。目の前のことに真剣に取り組むことの実践経験は、理系学生本人に積極性があれば研究室生活で十分に蓄積できる。計画、実行、まとめ、討議はいずれも技術的な取組みを一通り経験できるという意味で、技術者の普遍的スキルの“技術文章作成力の醸成”に非常に効果的だ。これらの取組みでは、技術的内容をわかりやすくまとめる“技術文章作成力”が常に求められるのがその理由である。そして、この能動的姿勢が民間企業に就職後、“独り善がり”になって孤立するという副作用につながる可能性を、企業側の方々が理解しておくことも重要だ。ここはリーダーや管理職が指示を要求するという選択肢を入社した若手技術者に理解させ、知恵獲得に向けた技術業務の実践経験蓄積につなげる対応が求められる。このような指示系統の構築は、技術者育成においてリーダーや管理職が行う基本業務の一つといえる。 

 もう一つが試行錯誤だ。試行錯誤は研究室生活の醍醐味と言えるだろう。合っているか、間違っているかわからない。しかし、それを確認するには実験や試験しかない。そのような経験が“絶対正義”なのは研究室生活しかない。企業では常に優先順位という掛け声のもと、“それをやる意味があるのか”といった、探求したい理系学生や若手技術者にとっては雑音でしかない言葉にさらされ続ける。そのようなリスクが極めて低い研究室生活の間に、試行錯誤しながら何が起こっているのかを俯瞰的視点を維持しながら実験や試験の結果を把握し、その結果を踏まえて事実を適切に表現する経験が研究室生活では可能だろう。この俯瞰的視点で物事を考え、実行することは“論理的思考力の醸成”に極めて重要な経験であり、企業によっては必ずしもその機会が得られるとは限らない。ぜひ研究室生活において、理系学生に体感してほしいものの一つである。
33 件
〈 1 / 2 〉

関連記事