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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.03.03

金型の内製で造形へのこだわりを追求 モデラーの想像を超える商品を生み出す

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㈲ファインモールド 代表取締役
鈴木邦宏氏

Interviewer
本田技研工業㈱ 金型生産部
金型設計課 開発Gr グループリーダー
坂井 裕氏

 ファインモールド(愛知県豊橋市)は、主に旧日本軍や自衛隊、米軍の戦闘機や戦車などミリタリー系のプラモデルを手がける企業。高い精度で非常に細かな部分まで忠実に再現された造形は、プラモデルづくりを趣味とする〝モデラー〟の間でも評価が高く、コアなファンが多い。同社の鈴木邦宏代表取締役に造形へのこだわりや金型製作の実際について話を聞いた。

坂井

まずは鈴木社長の経歴を教えてください。

鈴木

豊橋生まれの豊橋育ちです。家が建具屋だったので父親から「建築科に行きなさい」と言われて、何の疑問もなく地元の豊橋工業高校へ行きました。高校にはあったらうれしいと思っていた模型部がなかったので、高校2 年生のときに同好会として模型部を発足させました。飛行機のプラモデルをたくさんつくったら中日新聞が取材に来てくれたこともありました。卒業後は実家で働きだしたのですが、1 年ほどで父親から「お前は職人に向いていない。どこか別のところへ出た方がいい」と言われてしまいました。
それで建築設計事務所に勤め始めたものの、仕事への覚悟がないせいでやはり身が入らない。「好きな模型を仕事にできたら」と思いながらあれこれやっているうちに、高校の先輩が大学卒業後に岐阜県のエルエスという模型メーカーに就職した。その先輩の紹介もあってエルエス専門の下請けでプラモデルの金型をつくっていた林金型製作所(現・ハヤシモールド)へ就職しました。当時は金型を見るのも初めてで、どうやって金型をつくるのかもまったく知らない状態でした。入社したのは1981 年で当時22 歳。「年齢的には遅め」と言われたのですが、好きなプラモデルの金型で非常におもしろかった。工業製品の金型だったら全然興味がわかなかったと思います。仕事というより遊びみたいでとにかく楽しくて、一人前になるには10 年かかると言われていたのですが、自分で貪欲に技術を身につけて4 年半で独立しました。当社を創業したのは1987 年のことです。

戦闘機などのプラモデルを見せてもらいましたが、ものすごく細かい造形ですよね。造形に対するこだわりを強く感じます。
鈴木社長が塗装を行った同社の戦闘機プラモデル完成品(左から、航空自衛隊F-15J、F-4EJ、米国空軍F-4E)

鈴木社長が塗装を行った同社の戦闘機プラモデル完成品(左から、航空自衛隊F-15J、F-4EJ、米国空軍F-4E)

商品を買うお客さんのレベルが高いんです。彼らの知識や審美眼はメーカーの人よりもすごいものがあるし、彼らもそれを自負している。だから、こちらもその造形レベルまでもっていかないと商品にならないんです。さらに言えば、今後つくる新しい商品はこれまでのものを超えないとお客さんは買いません。逆にお客さんが想像したものの上をいくものをつくればちゃんと売れる。われわれとしてはそういった商品をマーケットに提示していくことが求められています。

期待されているということですね。

期待されるということはありがたい。「こういうのを出してください」と言われるうちが花なのです。けれど、私は「こういうのを出してください」というお客さんの要望は1 回も聞き入れたことがない(笑)。「オレがお前らに教えたるねん」という上から目線のメーカーですから(笑)。
今回当社では零戦の模型を発売しました。零戦はほかのメーカーでもさんざんつくられていて「今さら零戦かよ」とも言われるのですが、今までなかった三菱製の零戦であるとか、胴体を一体成形にしたとか、風防の極細の枠だけを別で成形したとか、従来とまったく違ったものになっています。そうした情報をYouTube などで発表したらものすごく反響がありました。やはりお客さんが想像できるものを出しちゃダメですね。「何だこれは!」と驚いたものは買うのです。日本のモノづくりに元気がなくなったのは、そうした「何だこれは!」があるものをつくれていないからだと思っています。日本の製品は高品質と評価されていますが、裏を返せば品質だけしか勝負できるところがない。近年の世界的なヒット商品を見ると、今までなかった新しさが備わっていると感じます。

多くの人に喜んでもらうには驚きが必要というのは、まさにその通りだと思います。

納得できるものは他人がつくってくれない

御社の強みはどこにあるとお考えですか。

やはり金型を内製していることですね。今、自社で金型をもっているのはタミヤ(静岡市駿河区)と当社だけ。ほとんどのプラモデルメーカーは金型を外注しています。中国の金型メーカーにつくらせているところも多い。外注だと新しいチャレンジがなかなかできません。微細加工をやろうなどとなっても、外注だとトラブルを抱え込みそうな仕事は断られます。やはり技術は自社でもっていないといけません。

確かに他社だと融通が利かないですからね。

プラモデルの世界がおもしろいのは、商品を買うお客さんが金型にとても詳しいことです。お客さんが「ここはスライド金型を使っているのですか」とか「ここは放電加工ですか」とか質問するんですよ。模型の専門雑誌などでもスライド金型とか多色成形とか普通に書いてある。ほかの業界ではまず考えられない。おもしろいですよね。技術が近しい場所にあって、メーカーもそれをお客さんへ宣伝したりする。プラモデルのお客さんは金型が大事だと知っているのです。だから自社に金型の技術があってそれをアピールできるという点でも内製は大事なんです。

内製化していることにはそういうメリットもあるのですね。

何より本当に私が納得できるものは、他人がつくってくれませんからね。外注して私の納得のいく金型が出来上がってこないのにお金を払わなければいけないというのは、なんだか腹が立ちますよ(笑)。だから結局、本当に良いと思えるものはすべて内製でつくるしかない。細かい部分は製作を進めるうちに設計変更をどんどんやります。自社でつくるから自分たちが納得できるレベルまで追い込みができる。もはやお客さんがどうのこうのじゃなくて自分自身が許せないというところが大きいですね。自動車の製造で言うとデザイン部門の人間と同じです。ボディに反射する光の加減も考慮してμm 単位でボディラインがちゃんと出ているかというあの目利きが、われわれの仕事でもできなければダメなのです。「経営者としてどうなのよ」と思う部分もありますが、われわれのつくった商品は10 年後、20 年後も残りますから、やはりその時点では最高に良いと思えるものにしたい。今しか売らないなら売り逃げればいいけれど、われわれにはそういう商品はつくっていないという自負があります。それがお客さんからの信用にもつながっているはずです。
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