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型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」

2024.10.17

第1回 仕事上の外国人とのトラブル、原因の7 割は日本人

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ロジカル・エンジニアリング 小田 淳

おだ あつし:代表。元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。
U R L:https://roji.global
E-mail:atsushi.oda@roji.global

ある2 件のトラブル案件

 筆者が中国駐在から帰任したばかりのことである。中国に詳しいということで、ある2 件のトラブルの解決を担当することになった。

 1 件目は、サイレントチェンジである。生産が開始され2 年が経過したモニタの樹脂製リアカバーにクラックが入ったものが、市場で見つかったのだ。

 このモニタは、台湾のメーカーに設計製造委託をしていた。そしてこの委託先は、リアカバーの生産を中国の成形メーカーに依頼していた。クラックの発生原因は、樹脂材料であるペレットに強度を劣化させる成分を含んだ着色剤が含まれていたことであった。本来は、指定色に着色したペレットを購入してもらうのだが、その成形メーカーは樹脂の着色メーカーと結託して、ある期間に限って無色のペレットを着色してリアカバーを生産していたのだ。「安価な無色のペレットを購入して着色した方が、コストメリットがある」と判断したのであろう。この問題は、原因がわかるまでに半年もかかってしまった。その理由は、台湾の設計製造委託先にすべてを一任していたため、中国にある成形メーカーの存在を知らず、情報収集に時間を費やしてしまったからである。この原因究明は、成形メーカーの企業名を調べることから始まったのだ(図1)。
図1 リアカバーを生産するメーカーの関係図

図1 リアカバーを生産するメーカーの関係図

 2 件目は、中国人への話し言葉に関することである。同僚がモニタの外装部品であるベゼルで中国メーカーとトラブルを起こしていた。この同僚は、中国メーカーでこれまで7 年間もベゼルを作製した経験があり、職場では“中国通” で通っていた。しかし、今回はどうしても図面どおりにベゼルが作製できず、筆者がサポートすることになったのだ。

 出張で中国メーカーを一緒に訪問し、さっそく打合せが行われたが、営業兼日本語通訳に対する同僚の言葉に、筆者は少しばかり驚いてしまった。

「それ“二の次”にして、まずこっちからね」
「“ちゃんと”見た? “ミスって”ない?」
「サンプル“いくつか”さ、近日中に日本に送って」

 これは、筆者が作成した会話の例であるが、このような言葉は日本語通訳にはほとんど伝わらない。その理由は、“口語”だからである(図2)。これでは、トラブルが解決しないのも無理はない。
図2 口語調で話す日本人に、話を合わせる中国人(イラスト:奥崎たびと)

図2 口語調で話す日本人に、話を合わせる中国人(イラスト:奥崎たびと)

日本人の常識は、海外で通じない

 前者のサイレントチェンジの根本原因は、日本人の「一任体質」である。日本では、協力企業の窓口担当者だけにすべての情報を伝え、後は一任しておけば仕事はうまく回っていく。しかし、中国ではなかなかそうはいかない。生産開始前の段階から成形メーカーを訪問しておくとか、生産後も定期的な監査を行うなどが必要である。もしそうしていれば着色していることがわかったかもしれないし、成形メーカーを訪問し信頼関係ができていれば、そう簡単に勝手な変更はなされない。少なくとも、問題解決に半年も費やすことはなかったであろう。自分の担当する部品が「どこで、どのように」つくられているか知っておくことは、海外でのモノづくりでは鉄則なのである。

 一方、後者の中国人への話し言葉に関する案件では、日本人同士の感覚で口語で話していることがトラブル発生に大きく影響している。通訳といってもプロではなく、あくまで“日本語ができる中国人” である。大学の日本語学科で4 年間日本語を勉強し、その後企業で4 ~ 5 年の通訳経験があるレベルである。日本語検定1 級をもっているといっても語彙力は日本人の小学6 年生レベルで、口語の理解度は80 %程度である。

 筆者は、ソニーでモニタやプロジェクタの設計をしていた。2016 年に退職する最後の7 年間は、4 年半の中国駐在を含み中国生産の仕事をしていた。中国の部品メーカーで部品や金型を作製して生産に導入したり、中国で生産中の製品や部品のトラブルに対応したりするのが主な仕事であった。

 中国駐在中は、部品メーカーを訪問して仕事をするのがほとんどであり、中国人とのやりとりで何度も失敗を経験しながら仕事を進めていた。そして、帰任する頃には何のトラブルも起こさず仕事ができるようになっていたが、中国での仕事に慣れただけで、何か特別なスキルを身につけたという思いはなかった。しかし、日本に帰国して中国でトラブルを起こしている設計者とかかわると、「外国人と仕事をする」という意識があまりにも足りていないことに気づくのであった。これでは、中国でトラブルを起こしても無理はない。しかし、トラブルを起こしている当人たちは「普通~のはずでしょう」、「確かに~と言ったはず」と言い、自分に非があるとは微塵も思っていなかったのだ。

グローバル化に対応するために

 これからは、中国以外の海外にも進出する日本の企業が増え、さらに日本の少子化によって、海外からの外国人材も増えてくる。このような環境変化の中で、いつまでも今までどおりの日本式の仕事の仕方を続けていては、このグローバル化に対応することはできない。そこで筆者は、中国での経験から得たノウハウを多くの方にお伝えする活動をしようと考えたのであった。

 このノウハウは、大きく3 つに分けることができる。1 つ目は、「日本人特有の国民性」に関する内容だ。先述の「一任」以外にも「曖昧さ」、「そもそも論」などがある。この国民性がどのようなトラブルを引き起こすか、そして日本人はどう対応すればよいかのノウハウである。

 2 つ目は、「中国人の国民性にどう対処するか」のノウハウだ。希望的観測や強い自己主張などにどう対応するかに関するもので、中国だけではなくほかのアジア圏の外国人材に対しても通用する内容である。

 3 つ目は、「コミュニケーション」に関することだ。先述の話し言葉、会議でのやりとり、メールの出し方に関するノウハウである。これは日本人側が改善する内容なので、中国以外の国々でも通用し、昨今の日本の職場におけるジェネレーションギャップで難しくなってきている意思疎通でも使えるノウハウである。

 本連載を読んでいただき、読者にはグローバルでトラブルなく仕事できるようになっていただきたい。