型技術 連載「外国人材から一目置かれるコミュ力養成講座」
2024.11.18
第2回 「あうんの呼吸」で仕事をする日本人
ロジカル・エンジニアリング 小田 淳
おだ あつし:代表。元ソニーのプロジェクタなどの機構設計者。退職後は自社オリジナル製品化の支援と、中国駐在経験から中国モノづくりを支援する。「日経ものづくり」へコラム執筆、『中国工場トラブル回避術』(日経BP)を出版。研修、執筆、コンサルタントを行う。
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中国で厳禁の「あうんの呼吸=(あいまいな表現+一任する仕事)」
日本人には、「あうんの呼吸」で仕事をする国民性がある。ビジネスにおいてそれは「あいまいな表現」と「一任する仕事」として現れる。あいまいな表現とは、例えば塗装の品質レベルについて「目立つ傷のないこと」と表現することで、一任する仕事とは、「塗装方法は御社にお任せします」ということである。これらの2 つが合わさると、「塗装は“いい感じ” でお願いします」という、あうんの呼吸での仕事になる。
日本の部品メーカーは優秀である。そして、日本では発注メーカーと受注する部品メーカーは長い付き合いがある場合が多い。よって、このようなあうんの呼吸であっても、部品メーカーは、発注メーカーの塗装の品質レベルを理解しており、またこれまでと同じ塗装方法であれば問題が起こらないことがわかっている。発注メーカーも部品メーカーに任せておけば、塗装の品質レベルや塗装方法に関して詳しく理解していなくても、問題ない部品が出来上がってくることがわかっている。これが、あうんの呼吸で仕事をする日本人の国民性をつくり上げているのだ。
ここでは、発注メーカーと部品メーカーの関係で話をしたが、企業内でも同じことが言える。日本の企業は終身雇用が基本なので、社員同士は長年の付き合いであることが多く、あうんの呼吸で仕事を進められる。しかし、現在はグローバル化された時代であり、社内には多くの外国人材がいる。また、テレビをもたずWeb で情報を得ている若者とテレビ世代の年配者とでは日常的に得ている情報が異なり、そこから形成される国民性も異なる。つまり現代は、あうんの呼吸が通じにくくなってきているのである。
板金スポット溶接の剥離トラブル
次に、あうんの呼吸で仕事をしてしまったために発生した中国でのトラブルをお伝えする。筆者が中国に赴任したばかりの頃のことである。量産が開始されて3 カ月が経過した製品の、内部にある2 つの板金をスポット溶接した4 cm 大の部品が、ユーザーのもとで剥離してしまった。大きな問題には発展しなかったが、なぜ量産途中で突然剥離が起こったのかわからなかった。さっそく原因究明が始まった。
この部品は、中国にある日系商社に発注し、その商社はある板金メーカーにその部品を発注していた。生産を開始してしばらくすると生産個数が増え、この板金メーカーだけではスポット溶接の作業を行う人手が足りなくなってきてしまった。そこで、この板金メーカーは、ある個数に限ってスポット溶接の作業のみを外注することにした(図1)。ところが外注したときに、これまで自社で行ってきた溶接の作業方法や設備の設定値が踏襲されず、溶接強度が低くなってしまったのだ。
原因は、「一任」と「あいまい」
筆者は、日系商社へすべてを一任する形で発注をしていた。日系商社がどこの板金メーカーに発注し、どのようにスポット溶接の作業をしているかまったく知らないでいたのだ。日本で商社に発注するときと同じように、一任さえしていればうまい具合に部品をつくってくれると考えていた。これがこのトラブルの根本原因の一つであった。
もう一つの原因は、図面に記載されていた溶接強度が、必要な強度より極端に低い値になっていたことだった。量産開始当初は、たまたま板金メーカーの溶接強度が図面に記載されている値よりも大きくできていたため問題が起こらなかったが、外注先は図面指示の下限ギリギリの強度でスポット溶接をしていたのだ。これはあいまいな表現とはやや異なるが、この部品が参考にした過去の図面は、その低い値の図面指示であっても日本での長い付き合いの板金メーカーでは問題なくうまい具合に溶接されていたのであろう。また、中国の板金メーカーでも最初はたまたまうまくいっていたのだ。
「一任」の問題点
このトラブルでの「一任」の問題点は、自分の担当する部品がどこの部品メーカーでどのように溶接されているか知らなかったことだった。信頼できる板金メーカーかどうかわからず、この部品が実は手作業で溶接されていたことも知らなかった。手作業での溶接は加圧力が作業者によって異なり、また溶接位置もずれやすい。不安定な手作業が外注されたことで、さらに不安定な作業になってしまったのだ。信頼できる板金メーカーであれば、外注するときには事前に連絡があったかもしれない。
さらに、「窓口担当者1 人にすべてを任せる」のも良くない。窓口担当者だけにすべての依頼内容や情報を伝えていれば、それらをうまい具合に社内で回してくれると日本人は考える。しかし、中国人相手ではそうはいかない。今回のように、商社経由での板金メーカーへの発注は、社内ではなく別メーカーになるのでなおさらのことであった。
「あいまい」にしてしまう原因
あいまいに表現してしまうのは、実は依頼する自分がその内容をよく理解していないという場合もある。例えば塗装部品の図面に「傷なきこと」とあいまいに表記されているのを見かけることがあるが、それは「傷のレベルの表記方法」と「この部品の傷のレベルは何か」の2 つがわからないからである。日本では、長い付き合いのある部品メーカーがあうんの呼吸で問題なく塗装してくれるが、中国人相手ではそうはいかない。
外国人は、日本人と価値観が異なる。傷のレベルの表記方法は同じであっても、「問題ないと判断する傷のレベル」は異なる。そして、発注者の想定レベルと、部品メーカーが問題ないとするレベルに違いが出た場合に、「普通は~のはず」と発注者側の日本人は不平を言うことになるのだ。
中国でトラブルを起こさない日本人の仕事の仕方
最後に、中国でトラブルを起こさない人の仕事の仕方をお伝えする。筆者は、中国駐在中に日本にいる設計者から図面を受け取り、中国の部品メーカーで打合せを行っていた。そのときの例である。筆者を中国人に置き換えて読むと、理解しやすい。
筆者が部品メーカーに打合せに行く1 週間前に、日本から電話がかかってくる。「小田さん、図面を送っておきました。よろしくお願いします」。そして、打合せ前日にも電話があり、「小田さん、明日の打合せ、よろしくお願いします」と言う。さらに、打合せが終わった次の日も「昨日の打合せはどうでしたか? 何か問題があったらレポートをお願いします」と電話がかかってくる(図2)。とてもていねいな仕事ぶりである。
図2 中国でトラブルを起こさない日本人の、一任しない仕事の仕方(イラスト:奥崎たびと)
しかしここで大切なことは、この人は確実に筆者をコントロールしていることだ。「送った図面で打合せしてください」、「明日の打合せには必ず行ってください」、「レポートを出してください」と、決して一任はしない。このような人は中国でトラブルを起こしにくい。あうんの呼吸では、仕事をしないのである。ぜひ参考にしていただきたい。