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型技術 連載「巻頭インタビュー」

2025.08.28

変革の柱はGX・DX・経済安全保障 営業販売力の強化を素形材産業へ提言

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素形材産業ビジョン策定委員会 委員長/
明治大学 経営学部 特任教授
新宅純二郎氏

Interviewer
トヨタ自動車㈱ 素形材技術部
第1 ダイキャスト技術室 主幹
舟橋 徹氏

 素形材産業の指針となる「素形材産業ビジョン」が約12 年ぶりに策定された。新ビジョンでは「GX」、「DX」、「経済安全保障」を変革の柱と位置づけ、金属積層造形などの新技術や海外展開の必要性が明記された。素形材産業ビジョン策定委員会で委員長を務めた明治大学特任教授の新宅純二郎氏に、経営学の視点から見た素形材産業の展望と課題について聞いた。

舟橋

本日はよろしくお願いします。最初に新宅先生の研究テーマについてお聞かせください。

新宅

私の専門は経営学でこれまでさまざまな産業の研究をしてきました。最初に取り上げたのは時計産業で、1970 年代に機械式の時計から電子のクオーツ式へと変わっていく状況を、スイスと日本の企業を比較しながら研究しました。ほかにも電卓が出てきたときの技術イノベーションなど、今で言うディスラプティブ(破壊的)な変化を先取りした産業というのが最初の頃の研究テーマでした。また、一時期はゲーム産業の研究などもやりました。
1996 年にそれまで在籍していた学習院大学から東京大学へ移ったのですが、その後しばらくして2003年に当時同僚だった藤本隆宏先生と「ものづくり経営研究センター」というのをつくりました。彼は長年、自動車産業を研究していて、このセンターをつくってからは20 年ほど一緒に共同研究を行ってきました。そういうわけで2003 年以降は主に製造業の研究に携わってきましたが、特に私は企業の海外展開に関する調査や研究を行ってきました。トヨタ自動車では、米国工場だけでなく南アフリカ共和国の工場にも行きましたよ。一方で、最近ではアパレル産業の研究も手がけています。

ありがとうございました。ところで新宅先生は今年3 月、12 年ぶりに策定された2025 年版「素形材産業ビジョン(以下、ビジョン)」の策定委員会で委員長を務められました。このビジョンの中では、素形材産業が日本において非常に重要とうたわれていますね。

ビジョンに関しては、私見が混じった答えになる部分もあるのでご了承ください。改めて私が言うまでもありませんが、素形材産業は製造業における基盤産業です。モノづくりの流れの中では、素材が川上で組立てが川下だとすると、素形材産業はその真ん中の川中に当たる。用いられる素材も昔は圧倒的に金属系が多かったわけですが、樹脂も増え、さまざまな複合素材もたくさん出てきました。これらを効率的に精度良く加工して製品に仕上げていくには金型でも成形でも常に新たな技術が必要になるわけで、モノづくりを行ううえで素形材産業がないと何も始まりませんし、今後もその重要性は高まってくると考えられます。

前回、2013 年に策定されたビジョンと比べて変わった点としてはどういったものが挙げられますか。

前回のビジョン策定の際も、私は一委員として策定委員会に参画していました。おおむね前回の内容を踏襲していると言えますが、今回、素形材産業など製造業全体を取り巻く環境変化を踏まえて新たにビジョンに取り込んだテーマとして、「GX」、「DX」、「経済安全保障」があります。
DX は、私が調べたところでは2013 年頃から製造業の経営者が言い始めたようです。とはいえ、DX の実態や進め方がよくわからず手探りの状態で挑戦して、結果として失敗したという話が2010 年代半ばに多くありました。そうした失敗の事例から「これじゃあいけない」ということを企業が学んで成功事例が出始めるのが、私の感覚では2010 年代終わりのコロナ禍前後です。DX をうまく使いこなせたという話が出てくるようになってきた今、改めてDX を取り上げました。
GX は今回初めて出てきたテーマです。経済安全保障も同様です。2013 年時点にはこれらに対する意識はあまりなかったですね。2000 年代にグローバル化が進んでBRICS や新興国も出てきた。その頃、私は世界中を飛び回っていましたが、どこに行っても経済面・安全面は大丈夫といった感じでした。それが今ではウクライナとロシアに代表される戦争の問題や米中の貿易摩擦などが改めて出てきた。ビジョンの策定では新たにそうした部分を踏まえました。

この3 つがこれからの素形材産業を考えるうえで重要な前提になるということですね。
今年3 月に策定された2025 年版「素形材産業ビジョン」の概要(引用:経済産業省HP)

今年3 月に策定された2025 年版「素形材産業ビジョン」の概要(引用:経済産業省HP)

「社会的な責務」という意識を高める

まずGX についてうかがいます。SDGs と口で言うのは簡単ですが実行するのは難しいですね。どうしても環境対応した分のコストがかかるのに、製品価格に載せにくいということが課題の一つにあると思います。新宅先生は今後GX にどう取り組んでいくべきと思われますか。

おっしゃるようになかなか難しいと思います。GX はそれに対応したからといって製品の機能が高まるわけではありません。むしろ、例えば再生紙ではプリンタに詰まりやすくなったり、アパレル素材でもリサイクルした綿は真っ白にならなかったりといったことが起こります。GX は個別の製品ではメリットがわかりにくいけれど、CO2 削減が地球温暖化対策になるなどマクロレベルでの恩恵を受けることができる。だから、「GX は社会的な責務である」という意識を社会全体で高めて、例えば環境対応された製品を使おうといったことを消費者一人ひとりが考えないといけないと思います。

多少値段が高くても地球のために買うという考え方に変えていく必要があるということですね。

川下の消費者側ではその必要があるでしょう。一方で、川上の製造側では一部始まっていますが、定められたCO2 排出量やリサイクル率を遵守しなければ税金などのコストがかかるという対策も必要なのかもしれません。そこで得られたお金を、GX 対応を行う企業や人への投資に回すとか、そういったことをやっていかないとなかなか変わらないのではないでしょうか。

製造側の企業においても、やはり社会全体で機運をつくっていくというのが重要なのですね。一企業だけで行うのは難しいところがありますから。

そうですね。素形材産業について言えば、やはりここだけでやっても無理です。GX への取組みで発生した負担を、価格上乗せのような形で素形材産業の顧客に当たる自動車産業や電気産業が受け入れる、あるいはGX 対応されたものを使わざるを得ないという状況をつくっていかないと。そうやって、ある種のサプライチェーンをいろいろな部分でつくっていかなければならないのではないでしょうか。

仲間を増やしていってうまくサイクルを回していくとどんどん大きくなる。それをやるしかないということですね。
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