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型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」

2025.02.22

第5回 学生の成長をぐんと伸ばす八戸高専独自の取組み

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フリーアナウンサー 藤田 真奈

ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!(栃木放送)、BerryGood Jazz(Radio Berry)、軽井沢ラジオ大学モノづくり学部(FM軽井沢)などに出演中。
Instagram:mana.fujita

学外のコンテストでも続々と上位入賞! 八戸高専の学生たち

 青森県の東部、県の中核市に指定されている八戸市。JR 八戸駅から車で10 分ほど、比較的アクセスの良い場所に八戸高専(八戸工業高等専門学校)はあります。

 今年で開校から61 年。就職率は毎年ほぼ100 %を誇り、就職を希望する学生1 人に対して平均20 社以上の求人があると言います。また、一般の大学や高校が前期・後期制であるのに対し、米国で広く導入され日本でも東京大学や東北大学が実施している4 学期制を高専で初めて導入。4 学期の中には、通常授業をあえて行わず、自主的な研究活動を深められる期間があることも特徴です。

 そんな八戸高専では、学業と両立してさまざまなコンテストに挑戦できる機会も多く、ロボットコンテスト、プログラミングコンテスト、デザインコンペティション、エコマイレッジチャレンジ、英語プレゼンテーションコンテストなど、幅広いフィールドでたくさんの学生が活躍しています。中でも、大学生も参加する「イノベーション・ベンチャー・アイデアコンテスト」では、2016 年以降4 年連続で八戸高専の学生(しかも低学年生)が最高位を受賞!日本学術会議公開シンポジウムのパネルディスカッションにパネリストとして招待された学生(こちらも低学年生)もいるというから驚きです。

八戸高専独自の教育プログラム「自主探求」

 前述した4 学期制と同時に導入されたのが、「自主探求」という八戸高専独自の教育プログラムです。これは、興味のあるテーマを自分で見つけて実験や調査を行い、そのテーマについて科学的に解明したり、実際にモノをつくったりするというものです。例えば、「ニッケル水素電池の長寿命化」、「食べられるプラスチックの開発」といった真面目な研究テーマから「ラプンツェルのように髪の毛で人を持ち上げることは可能か」、「スパイダーマンの糸は実現可能か」というユニークなものまで多種多様。まさに十人十色のテーマで学生たちは研究を重ねています。「なるほど。高学年になったらこうした研究にも取り組めるのだな」と思っていたらとんでもない! これを入学したての1年生から行うというのです。

 自主探求ということで学生たちが主導して行うので、導入当初は「教員たちが楽をできるシステムだ!」と思われていたそうですが、実際に導入してみると、学生たちのテーマ決めから調査計画、実験の付き添い、諸々のアドバイス…と先生たちに求められるものは膨大に。しかも全員が違うテーマで研究しているので一人ひとり違った対応が求められたため、先生たちはこれまで以上に大忙し! 自主探求の立ち上げに携わった中村美道教授(図1)は「初年度は嵐のように過ぎていった」と振り返ります。
図1 学生と意見を交わす中村美道教授(写真提供:藤田真奈)

図1 学生と意見を交わす中村美道教授(写真提供:藤田真奈)

 多忙な毎日と手探りの指導の中で「もう少し学生たちの自主性を重んじられる指導方法はないものか…」と考えていたときに思いついたのが、「同級生に向けた発表の場を設ける」というものでした。全員の研究テーマが違うので、当然ほかの人がどんな研究をしているのか、同級生たちの進捗状況が気になってきます。ならば、それを授業の中で発表してもらい、学生同士でアドバイスを送り合える環境をつくればよいのでは、と考えたのです。

 するとこれが大当たり! 同級生の発表に対して学生たちが意見を出し合い、研究をより深めていこうとするのみならず、「その発表では伝わらない」、「もっとわかりやすく説明する必要がある」など、プレゼンの仕方についても自然と意識が向き、話し方までも工夫するようになったと言います。現に1 年生の自主探求の振り返りアンケートでは、「自主探求と深く関係すると感じた(高専の)科目は?」という問いに、半数近い学生が「国語」と答えています。

 また、現在は同級生でアドバイスを送り合うだけでなく、上級生がこれまでの経験を通して下級生のサポートをするという体制が整っています。下級生は上級生から学び、上級生はサポートすることを通して、さらに成長し学びを深めることができている。学生の自主性を重んじた結果、制度導入8 年目となる今は良いサイクルが生まれ、「教員たちは見守っているだけだ」と中村教授は目を細めます。

1 年の成果を「ポスター」にして発表

 自主探求の1 年の成果発表の場として行われるのが「ポスター発表」と呼ばれるイベントです(図2)。これは、自分の研究テーマ、その研究テーマを選んだ動機や目的、どんな実験をして何が検証されたのかなどを1 枚のポスターに記し、それをもとに研究発表を行うというものです。ここまで説明したところで、多くの方はステージの上などで大衆に向けて一人ずつ順番に発表するという光景を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし実際は、体育館にずらりとポスターが並べられ、それぞれのポスターの前に研究者(学生)が立つというスタイルで、学年ごとにいっせいに発表が行われます。
図2 ポスター発表の会場の様子(写真提供:藤田真奈)

図2 ポスター発表の会場の様子(写真提供:藤田真奈)

 ポスター発表は学外の方にも開かれたイベントとして行われていて、聴衆は他学年の学生や教員のほか、見学に訪れた地域の方たち、そして保護者たちです(図3)。また、会場には何百ものポスターが並んでいるので、当然、人気のあるものとそうでないものという差が顕著に現れます。人気のあるポスターの前には常に人だかりができていました。ポスター自体はどれも素晴らしいものなのに、この差は一体何なのだろう…。そう思ってしばらく観察していると、人気のあるポスターの発表者(研究者)は、発表が終わった後にも前を通りかかる人に積極的に声をかけるなど、来場者と積極的にコミュニケーションをとっていました。何も教えなくても初めからそういうコミュニケーションがとれる学生もいれば、そうでない学生もいる。しかし、こうした経験を繰り返すことで、どうすれば人に聞いてもらえるのかを考え、気づき、高学年時にはほとんどの学生が自然とコミュニケーション力を身につけているのだとか。
図3 ポスターの内容を発表する学生たち(写真提供:藤田真奈)

図3 ポスターの内容を発表する学生たち(写真提供:藤田真奈)

 研究テーマの決め方も含めて、何一つ「やらせていない」。これこそが学生たちの意欲を駆り立てているのではないでしょうか。

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