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型技術 連載「モノづくりの未来を照らす高専突撃レポート」

2025.03.26

第7回 高専は理系だけじゃない?!

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フリーアナウンサー 藤田 真奈

ふじた まな:大阪府出身。元とちぎテレビアナウンサー。関西学院大学卒業後、金融業界の企業に就職。その後転職してアナウンサーに。とちテレニュース9(とちぎテレビ)、アクセント!、ミライを照らせ~KOSEN*Passport to the world~(ともに栃木放送)、Berry Good Jazz(Radio Berry)などに出演中。
Instagram:mana.fujita

文系と理系の両方を学べる福島高専の「ビジコミ」

 高専というと「理系の人が行く学校」というイメージが強いと思いますが、実は文系の学びを深められる学科もあるということをご存じでしょうか? 全国に51 ある国立高専のうち、文系の学科が設けられているのは、福島高専(ビジネスコミュニケーション学科)、富山高専(国際ビジネス学科)、宇部高専(経営情報学科)、広島商船高専(流通情報工学科)の4 つです。今回はこのうち福島高専におじゃましました。

 福島県の東部、浜通りの南に位置し、福島県内で最大の面積を誇るいわき市。中核市にも指定されているこの地に福島工業高等専門学校(福島高専)はあります。福島高専に文系も学べる学科が創設されたのは、今から8 年前の2016 年。急速にグローバル化が進む現代で、世の中に貢献できる人材を育てようと設立されたのが「ビジネスコミュニケーション学科」、通称「ビジコミ」です。具体的に授業のカリキュラムを見せてもらうと、会話力を養うための「コミュニケーション論」や、組織に関する基本的な知識を学ぶ「組織論」などが含まれています。さらに、さまざまな事象をデータ分析する際に必要となる「データサイエンス」といった情報・理数系科目の記載もありました。このようにこの学科では、文系も理系も両方学ぶことができるのです。

学生のうちに海外経験を積めるのも特徴

 ビジネスコミュニケーション学科では、学生たちが国際的な感覚を培い、見識を広める機会にしようと、海外への留学プログラムがあるのも特徴です。

 以前はカナダへの1 年間の留学(留年なしで進学できる)が計画されていましたが、ここ数年はコロナ禍や円安の影響で実施できておらず、ようやく昨年から「現地調査」という形で東南アジアへの短期間の海外研修が実現しています(図1)。
図1 海外研修の様子(写真提供:藤田真奈)

図1 海外研修の様子(写真提供:藤田真奈)

 学生たちは、現地で外国人労働者に日本語を教えながら、その国の文化や風土、生活水準、国民性などを「調査」するのだと言います。そして、見聞きし肌で感じたことをまとめて地元に持ち帰り、地元企業が技能実習生を受け入れるときに「相談役」としてアドバイスを送っていると言うのですから頼もしい限りです。

動画制作で地域貢献を―ビジコミでの学びを活かした学生起業家の誕生

 この日私が訪ねたのは、同学科の芥川一則先生の研究室。卒業生を含めた3 人の学生が集まっていました(図2)。現在はこのように意見を交わす光景が見られますが、コロナ禍では違いました。部活動ができなかったり、授業がオンラインに切り替わったり…。中でも就職活動は特に困ることが多かったと言います。例年企業が行っていたインターンシップはなくなり、大規模な就職セミナーや会社説明会もほとんど開催されなくなりました。学生たちが企業について知る機会は格段に減っていたと言います。
図2  ビジネスコミュニケーション学科の芥川研究室の様子(右から2 番目が芥川一則先生)(写真提供:藤田真奈)

図2  ビジネスコミュニケーション学科の芥川研究室の様子(右から2 番目が芥川一則先生)(写真提供:藤田真奈)

 そんなある日、研究室に地元のとある企業が相談にやって来ました。その相談とは「企業をPR する動画をつくってほしい」というもの。学生側としては就職する企業を選ぶための指標が少なくなったわけですが、それと同時に企業も自分の会社をアピールできる場が少なくなって困っている。ならばこれをビジネスにつなげることはできないか ―。そう考えたのは、この3月に福島高専を卒業した熊田舞弥さんです(図3)。
図3 福島高専初の学生起業家となった熊田舞弥さん(写真提供:藤田真奈)

図3 福島高専初の学生起業家となった熊田舞弥さん(写真提供:藤田真奈)

 学生時代から飲食やアパレル関係などさまざまなアルバイトを経験してきたという熊田さん。アルバイトを通してさまざまな人と出会い、さまざまな業態の仕事を知り、そして組織の仕組みを体感する中で感じたのは、「窮屈だ」というものでした。もしかしたら自分は組織で働くことに向いていないのかもしれない。そう思っていた矢先に舞い込んできたのが前述した「動画をつくるという仕事」でした。就職か起業か ―。周りの学生たちが就職活動を進める中、自身の身の振り方について悩んでいた熊田さんの心を動かした出来事でした。

 当時熊田さんはまだ学生という立場でしたが、芥川先生のサポートもあり、動画制作の会社を立ち上げることを決意。事業開始の手続きなども済ませ、晴れて福島高専初の学生起業家となったのです。

 さっそく依頼のあった企業に出向き、どんな動画にしたいのか、何を伝えたいのかなど入念に打合せを行って動画の内容を決めました。現段階で社員は自分1 人なので、撮影も編集もすべて1 人で行います。もともと趣味で動画編集をしていたわけでもなく、何もかもが手探りからのスタートでした。しかし、素人だからこそ、先入観なく学生に近い目線で物事を伝えられるのだと、熊田さんは自らの強みを話します。

 長い間、テレビという映像業界に身を置いてきた私にとって、熊田さんが手掛けた動画はとても新鮮なものでした。一般的に企業紹介の動画というと、企業理念や業務内容の説明などがあって、社長など代表者の声と現場の社員の声が収録されている、というものを想像したのですが、出来上がったものを見せてもらうと全然違う! 熊田さんの動画には企業理念などの説明はいっさいなく、「有給休暇の使い方」や「直近1年の思い出」について社員が語るシーンが大半を占めていました。友人との旅行の思い出を話す人もいれば、子供の運動会の話をする人もいる。楽しかったことについて話しているので、皆表情は輝いていました。

 なぜこのような構成にしたのかと尋ねると、「私生活も充実しているということを伝えたかった」と熊田さん。仕事内容うんぬんではなくプライベートも重要視する、まさにZ 世代の感性で仕上げた動画となっていたのです。

 現在は、製造業における職人技(暗黙知)をマニュアル化(形式知)するための動画も制作中で、「業務の引き継ぎがうまくいかない」とか「教わったとおりに業務を行っていても、別の人に違うと指摘されてしまった」といった困りごとも解決していけたらと目を輝かせます。動画制作を通して地域貢献をしたいという熊田さんの夢は、まだ始まったばかりです。

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